E2862 – 第89回IFLA年次大会資料保存関連セッション<報告>

カレントアウェアネス-E

No.517 2026.01.29

 

 E2862

第89回IFLA年次大会資料保存関連セッション<報告>

国立国会図書館収集書誌部資料保存課・小野智仁(おのともひと)

 

  2025年8月18日から22日にかけて、世界図書館情報会議(WLIC):第89回国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2664ほか参照)がアスタナ(カザフスタン)のコングレスセンター等で開催された。今大会は「知識を結集し、未来を築く」(Uniting Knowledge, Building the Future)をテーマに実施され、国立国会図書館(NDL)からは代表団6名が現地で参加した。筆者が参加した資料保存関連セッションでは、地球環境に配慮した持続可能な取組が多く報告された。以下、その概要を紹介する。

●セッション「建物、持続可能性と保存」(資料保存分科会(PRESCONS)、図書館建物・設備分科会(LBES)及び環境・持続可能性・図書館分科会(ENSULIB)共催)

  本セッションでは、持続可能な資料保存と環境への影響に関する以下四つの報告が行われた。

  • 報告1:エネルギー使用量とコストを削減しつつ保管環境の改善を図った事例(米国国立公文書記録管理局(NARA)・Mark Ormsby氏)
      過去30年間にわたる保管環境の改善の取組によって、エネルギー消費量を43%、温室効果ガス排出量を58%削減し、光熱費を数百万ドル節約したことについて報告した。具体的な取組として、設備の改修(2万1,000本以上の照明器具のLED化、旧型の空調機器の交換)や、温湿度設定の調整(20℃/50%RHの恒温恒湿環境から20℃/30~50%RHの恒温変湿環境への切替え)等について紹介した。
  • 報告2:図書館の建築デザインや構造が運営に及ぼす影響(ナザルバエフ大学図書館(カザフスタン)・Zhuldyz Orazymbetova氏、Yelizaveta Kamilova氏)
      デザインや構造上の課題がサービス提供やスペース活用、ユーザーエクスペリエンスに及ぼす影響を検討し、物理的な制約の中で機能性と利用者満足度を維持するために得られた教訓と推奨する方策について紹介した。
  • 報告3:書庫内の空気質(Air quality)と書籍の損傷防止に向けた取組(チェコ国立図書館・Petra Vávrová氏)
      予防的保存対策について、温湿度管理や空気汚染対策、総合的有害生物管理(Integrated Pest Management:IPM)、塵埃、保存容器といった内容ごとに取組を報告した。空気汚染対策として、展示環境のみならず、書庫についても資料の劣化要因である窒素酸化物、硫黄酸化物、アンモニア、有機酸等のモニタリングを実施していることが紹介された。IPMについては、カビ対策として無菌綿棒やエアーサンプラーを用いたモニタリング、ATP検査(アデノシン三リン酸検査)を実施し、害虫対策としてはトラップ調査を実施している。文化財害虫として、近年、本邦ではニュウハクシミが博物館・美術館等において問題となっているが、欧州では繁殖力の非常に高い個体群のオナガシミが大きな問題となっている。そのため、トラップ調査では当該害虫のモニタリングを強化していること等の説明があった。
  • 報告4:フランス北部アミアンにおける新しい保存修復センターの建設と持続可能な未来(フランス国立図書館(BnF)・Nadia Perigaud氏)
      BnFの新たな保存修復センター建設プロジェクトであるアミアン・プロジェクトについての現状を報告した。2029年に開館予定となる新しい保存修復センターは外部環境の影響を受けにくいパッシブビルディング(機械的な設備に頼らず、自然エネルギーを最大限に活用・調整することでエネルギー消費を抑えつつ、一年を通して快適な室内環境を実現する建物)とすることが特徴の一つである。書庫収蔵計画に関しては、年間4.2km分の蔵書の増加(法定納本分のみ)を見込んで、アミアンの書庫は260km分の収蔵能力(約62年分)を確保するとしている。さらに、書庫内環境に関して推奨するベンチマークとして、温度変化は1日に±1℃、週に±2℃、湿度変化は1日・週ともに±5%RH、年間を通じての変化は温度変化が8~23℃、湿度変化が45~55%RHとの数値を紹介した。

●セッション「気候変動対策の推進者になる」(IFLA主催)

  本セッションは、パリ協定で設定された「適応に関する世界全体の目標」(GGA)の達成に向けて、図書館が利用者に対して果たすべき役割をどのように強化できるか、との観点から行われた。事例報告として、トルコの公共図書館における「農業図書館」(Agro Library)の取組と、カザフスタンにおけるフラッシュカードを活用した気候変動に関する教育及び議論活性化の取組の二つが紹介された。

●2025年IFLAグリーンライブラリー賞授賞式(ENSULIB主催)

  環境に配慮した持続可能な図書館活動を推進すべく、それらに関連した優れた取組を実践している図書館やプロジェクトを表彰するものである。今回は、グリーンライブラリー賞の大規模プロジェクト賞にJames Baldwin Library(フランス)、グリーンライブラリープロジェクト賞の大賞にThammasat University Library(タイ)が選ばれたほか、クロアチアのPublic library “Ivan Goran Kovačić”が特別賞を受賞した。各受賞館については、環境に深く配慮した図書館建築であることや環境意識向上のために地域コミュニティと共に実施した取組が評価された。

  次回の大会は、2026年8月10日から13日まで釜山(韓国)で開催される予定である。

Ref:
IFLA WLIC 2025.
https://2025.ifla.org/
“Preservation”. National Archives.
https://www.archives.gov/preservation
Nazarbayev University Library.
https://library.nu.edu.kz/
“Collections Preservation”. National Library of the Czech Republic.
https://www.nkp.cz/en/about-us/organizational-structure/collections-preservation
Vávrová, Petra; Neoralová, Jitka; Francl, Jan et al. Air quality in the depositories of the national library of the Czech Republic: prevention of damage to books. Institute of Chemical Process Fundamentals of the CAS, 2025, 246p.
“報道発表 文化財害虫ニュウハクシミの国内分布域拡大の現状とベイト剤・設置箱無償配布のお知らせ”. 東京文化財研究所. 2025-11-04.
https://www.tobunken.go.jp/info/pressrelease/2025/1104/
“オナガシミ(Ctenolepisma longicaudatum)”. 東京文化財研究所.
https://www.tobunken.go.jp/ccr/pest-search/species/Zygentoma-silverfish/onaga_shimi/onaga_shimi.html
“Le futur pôle de conservation de la BnF à Amiens – Conservatoire national de la presse”. Bibliothèque nationale de France.
https://www.bnf.fr/fr/le-futur-pole-de-conservation-de-la-bnf-amiens-conservatoire-national-de-la-presse
@iflahq. “Becoming Climate Empowerment Champions”. YouTube. 2025-10-14.
https://www.youtube.com/watch?v=8clNCYcpMU8
“10th IFLA Green Library Award 2025 results announced!”. IFLA. 2025-08-20.
https://www.ifla.org/news/10th-ifla-green-library-award-2025-results/
永野祐子. 第88回IFLA年次大会児童・ヤングアダルト図書館分科会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (472), E2664.
https://current.ndl.go.jp/e2664
山口美季. 第88回IFLA年次大会目録分科会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (472), E2663.
https://current.ndl.go.jp/e2663
大迫丈志. 2022年IFLA年次大会オンラインセッション<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (446), E2552.
https://current.ndl.go.jp/e2552
野村明日香. 2021年世界図書館・情報会議:IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (428), E2464.
https://current.ndl.go.jp/e2464
村上一恵. 世界図書館情報会議(WLIC):第85回IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (381), E2205.
https://current.ndl.go.jp/e2205
北野仁一. 世界図書館情報会議(WLIC):第84回IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (358), E2078.
https://current.ndl.go.jp/e2078
竹内秀樹. 気候変動時代における図書館・文書館資料の環境管理:持続可能な資料保存へ. カレントアウェアネス. 2024, (362), CA2075, p. 10-12.
https://current.ndl.go.jp/ca2075