カレントアウェアネス-E
No.472 2024.01.25
E2664
第88回IFLA年次大会児童・ヤングアダルト図書館分科会<報告>
国際子ども図書館資料情報課・永野祐子(ながのゆうこ)
2023年8月21日から25日まで、世界図書館情報会議(WLIC):第88回国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2552ほか参照)が、ロッテルダム(オランダ)で開催された。筆者は、児童・ヤングアダルト図書館分科会の常任委員として参加した。本稿では、同分科会のサテライトミーティング及びオープンセッションに絞って報告する。
●サテライトミーティング
サテライトミーティングは、年次大会の前後に近隣国を含む周辺の都市などで開催される。児童・ヤングアダルト図書館分科会のサテライトミーティングは、“Young Children’s Journeys into Reading”をテーマに、8月19日、リテラシーと読書分科会との共催によりハーグのオランダ国立図書館(KB)で開催された。約50人の参加があった。
Helen Limon氏(ハーグ応用科学大学ヨーロッパ学講師)による基調講演では、児童文学は年齢を含めて読者に適合した内容であるべきという基本を確認した後、移民、戦争、死等、デリケートなテーマを扱った作品が紹介された。その後“Early Literacy Success Stories”と題し、早期リテラシー養成について、欧米・アジア各国における8件の事例報告が行われた。導入として、Paula Kelly Paull氏(オーストラリア)が、米国の経済学者ヘックマン(James Joseph Heckman)による教育投資収益率の研究等、早期リテラシー養成の有効性の根拠を述べ、自国の研究プロジェクトについて説明した。筆者も、国際子ども図書館で毎月開催している「ちいさな子どものためのわらべうたと絵本の会」を紹介し、日本のわらべうたの音声を聞いてもらった後、乳幼児期に人の声の心地よさを体験することが、リテラシーの基礎につながるという考えに基づく実践であることを述べた。
午後には、KBに隣接した児童書博物館(Kinderboekenmuseum)の見学があり、本の世界に入り込んで遊びや体験が行える、幼児から中高生まで年齢別のスペースについて案内を受けた。その後KBに戻って行われたブックスタートに関するパネルディスカッションでは、Annie Everall氏(英国)から、英国での草創期やその後の世界への広がりが紹介された。日本は2000年に試験実施開始と取組みが早かったため、名前が挙がっていた。その後のディスカッションでは、ブックスタートで渡す絵本の選び方は変化してきたが図書館員や専門家の知見が大切であることや、リテラシーの質を担保するには政策決定者に対するアドヴォカシーが重要であること等が話題になった。最後のパートでは、オランダの絵本シリーズ“Popcorn Bob”の作者であるMaranke Rinck氏とイラストレーターのMartijn van der Linden氏による、作品制作などについてのトークショーが行われた。
●オープンセッション
8月22日に行われた児童・ヤングアダルト図書館分科会のオープンセッションには200人以上が参加し、“Libraries Open Windows to the World: Children’s Picture Book Programs for Family Inclusion”というテーマのもと発表やディスカッションが行われ、絵本のさまざまな側面や意義に光を当てる機会となった。同分科会では、2011年から“The World Through Picture Books”というカタログを作成するプログラムを実施している。これは、世界の図書館員が、自国の絵本から10冊を選んで編んだもので、2023年に参加国と収録する絵本を更新した第3版が完成した。今回のオープンセッションは、この機会にプログラムについて広く周知することも目指しており、会場には、各常任委員が自国から持ち寄ったカタログ第3版掲載の絵本が展示された。
カタログに含まれるイタリアの文字なし絵本、フランス語圏アフリカ諸国の絵本やその出版事情についてのプレゼン後、プログラムの沿革や、第3版で選ばれている絵本、図書館等で展示するための貸出しセットの紹介が行われた。国際子ども図書館ではこのセット貸出しを担当しており、「絵本で知る世界の国々」と題して国内のほかアジア・オセアニアへの貸出しを実施している。2024年夏に第3版に収録された絵本の展示会を開催後、秋から貸出しを開始する予定である。ほかにフランス国立図書館(BnF)でも貸出しを担当する予定である。
今回の年次大会は、コロナ禍による中止とオンライン開催を経て、2022年に続くリアル開催となった。諸準備は、ここ数年で当たり前となったオンラインミーティング等を通して行われたが、他国の空気感の中での多様な出自の方々との対面は忘れがたい体験となった。また、子どもの本に関してもデジタルやAIの活用は進みつつあるものの、その話題が意外なほど少なかったのが印象的であった。今回のテーマが幼い子どもや絵本であったため、生身の人間による働きかけの重要性が前面に出たからかと感じた。
Ref:
IFLA WLIC 2023.
https://2023.ifla.org/
“IFLA WLIC 2023 Satellite Meeting: Young Children’s Journeys into Reading”. IFLA.
https://www.ifla.org/events/satellite-meeting-young-childrens-journeys-into-reading/
Literatuurmuseum.
https://literatuurmuseum.nl/en
“ちいさな子どものためのわらべうたと絵本の会”. 国際子ども図書館.
https://www.kodomo.go.jp/promote/activity/song/index.html
“The World Through Picture Books”. IFLA.
https://www.ifla.org/g/libraries-for-children-and-ya/the-world-through-picture-books/
“展示会セット「絵本で知る世界の国々―IFLAからのおくりもの」の貸出し”. 国際子ども図書館.
https://www.kodomo.go.jp/event/lend/index.html
大迫丈志. 2022年IFLA年次大会オンラインセッション<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (446), E2552.
https://current.ndl.go.jp/e2552
野村明日香. 2021年世界図書館・情報会議:IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (428), E2464.
https://current.ndl.go.jp/e2464
村上一恵. 世界図書館情報会議(WLIC):第85回IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (381), E2205.
https://current.ndl.go.jp/e2205
北野仁一. 世界図書館情報会議(WLIC):第84回IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (358), E2078.
https://current.ndl.go.jp/e2078