カレントアウェアネス-E
No.471 2024.01.11
E2657
校歌で訪ねる地域の記憶
真庭市立図書館附属みんなの校歌研究室
真庭市立図書館は、岡山県北中部に位置する、中央館1館と地区館6館からなる図書館である。当館は、地域おこし協力隊との協働事業として「真庭市立図書館附属みんなの校歌研究室」(真庭校歌研究室)を2022年度に設立し、統廃合された小中学校を含む市内の小中学校の校歌についての情報を収集・整理・発信している。本稿ではこの取り組みについて紹介する。
●真庭校歌研究室の取り組み
1947年の学校教育法施行後に市内で閉・休校した小中学校は分校を含め49校。その統廃合の歴史及び各学校の校歌の作詞者、作曲者について整理するととともに、収集した情報を発信している。専用のウェブサイトを開設したほか、市報への掲載やマスコミなどの協力も得て、市民に情報提供を呼びかけるとともに、各地区館の司書が利用者や地域の情報に詳しい住民に協力を依頼している。
協力者が現れると地域おこし協力隊のメンバーと司書で面談し、いつ、どこの学校に通っていたか、子どもの頃や学校の思い出、校歌を覚えているかなど聞き取る。多くの場合、その場で歌ってもらえるので、動画で記録し、許諾を得て市立図書館公式YouTubeチャンネルで公開している。2023年夏から秋にかけて、市内全地区館を会場に協力者から話を聞き、2024年1月現在、24校34曲を公開している。
校歌についての情報は、2023年度内をめどに中央館で集約・整理し、各地区館でも閲覧できるようにするための編集作業を進めている。2024年3月にはイベントを開催し、活動の成果をお披露目する予定である。今後、地域サロン、地域行事、親戚の集まりなどで広く利用してもらいたいと考えている。
●「地域おこし」としてのアーカイブ事業の意義
1960年代、市内にバスが走るようになると、山間部の小中学校の統廃合が進んだ。当時の子どもたちも今は80~90歳台となり、統廃合前の学校の校歌を歌った世代は年々少なくなっている。そこで企画したのが、校歌を地域情報として収集・アーカイブし、発信する真庭校歌研究室のプロジェクトである。
収集を始めてみて、あらためて校歌には郷土の山河への愛着、歴史への誇りがつまっていることを知った。敗戦直後に若い教員によって作詞・作曲された校歌からは、児童が郷土の豊かな自然の中で、共に学んで仲良く新しい国を作っていってほしいという思いがうかがえるなど、子どもの今と未来の幸せを願う気持ちも込められていた。一方で、戦前・戦中の価値観が反映された校歌が戦後の教育で見直されて歌詞が一部変更されたり、省略して歌われてきたケースもあった。校歌は地域の歴史と出会う・歴史をひもとく扉となるものだと実感している。
校歌を口ずさみながら、時には、校歌についていた振り付けを思い出しその踊りを交えながらいきいきと話してくださる高齢のみなさんの表情を見ていると、あらためて校歌の「コミュニティソング」としての力を感じる。収集活動は同時に地域おこし、つまり地域住民のエンパワーメントとなっているのではないだろうか。必ずと言って良いほど、校歌についての話題は、いつしか思い出話に変わる。「宿直の先生の部屋があって、よく遊びにいった」、「木造の小学校の廊下に番傘(置き傘)を置いていた」、「冬になると、みんなが登校する30分前に来て、石炭ストーブを準備しておく当番があった」など、半世紀以上前の山の中の子どもたちの日常に出会うことができる。「中学校でかわいい子がいてね」と照れながら話す高齢の男性の表情は、中学生のそれだったりする。同級生同士で集まって校歌を歌い、「あの頃」の話で盛り上がる。きっとあの頃と変わらない笑顔がはじけている。
こうした収集にまつわる楽しい時間と思い出も含めて、未来の真庭の人々へのアーカイブ(贈り物)としていけたらと願っている。
Ref:
真庭校歌研究室.
https://maniwaschoolsong.editorx.io/maniwa
“まにわとしょかんチャンネル”. YouTube.
https://www.youtube.com/channel/UCeN0aZVV3ZgpzrauuKIzYaw
“真庭市立図書館附属みんなの校歌研究室(真庭校歌研究室・MKK)”. YouTube.
https://www.youtube.com/playlist?list=PLo_gsbwptO4sq2jI60hnTtHloLK_9Hdib