E2658 – 図書館における製本業務の現状に関するALAの報告書

カレントアウェアネス-E

No.471 2024.01.11

 

 E2658

図書館における製本業務の現状に関するALAの報告書

収集書誌部資料保存課・山口佳奈(やまぐちかな)

 

  2023年6月、米国図書館協会(ALA)の部会Coreの保存管理研究グループ(Preservation Administration Interest Group:PAIG)は、製本に関する報告書“2022 Core National Binding Survey: Report of Findings”を公開した。これは2022年に開催された図書館製本の未来に関するシンポジウムの後、現在の図書館製本業務に関する調査を実施する目的でCoreの図書館製本調査プロジェクトチームが招集され、2022年9月から10月にかけて調査を行ったものである。

  プロジェクトチームは、図書館で資料保存業務を担当する職員4人、データ分析の専門家1人で構成され、全員が学術図書館の職員であった。ALAとCoreの後援により31のメーリングリストを使用してアンケート調査を実施した。調査対象機関の館種を学術図書館、公共図書館、私立図書館、学校図書館、専門図書館と幅広く設定して調査票を配布したものの、回答があった94機関のうち84機関は学術図書館となった。

  以下、調査結果の概要を紹介する。

●図書館における製本業務の現状

  製本業務を行っている機関からの回答により、図書館製本業務の現状が示された。

  • 製本業務を担当する部署は、主に収集整理部門(46.8%)、資料保存部門(18.1%)に直属する。
  • 2022年度と2018年度の各機関の平均を比較すると、製本支出は8万9,730ドルから5万1,832ドルに、製本数は1万2,949冊から1万541冊に減じ、製本業務の担当者数も減少傾向にあった。
  • 53機関(56.4%)が大手の製本事業者と契約しており、21機関(22.3%)は家族経営の小規模な製本事業者を利用している。施設内に製本工房を持つのは4機関(4.3%)である。
  • 製本する資料群について回答した78機関のうち、39機関(50%)で逐次刊行物が半数以上を占め、14機関(17.9%)ではほぼ全てが逐次刊行物である。次に多い資料群はモノグラフで、その次が楽譜であった。
  • 製本事業者への発注内容について、方針を現状維持としている機関が多数を占めた(66.0%)。一方、方針変更を検討する機関も少なくなく(26.6%)、その理由としては費用の高騰等の財政難が挙げられた。
  • 現在の製本サービスについて、57機関(60.6%)がほぼ満足しており、不満があると回答したのは11機関(11.7%)のみであった。
  • 製本事業者に対し、追加で欲しい製本サービスはあるか、あるとしたら何か、という問いには48機関(51.1%)が回答した。コメントの多く(39.6%)は特にないというものだったが、集荷サービス、製本の質の向上等を要望する回答もあった。
  • 全体的に特に関心が高いとされたのは財政上の課題であり、費用の高騰や予算の問題等が挙げられた。製本事業者側の問題も関心が高く、依頼ができる製本事業者の減少や人手不足が含まれる。

●積極的に製本業務を行わない図書館の事情

  積極的に製本業務を行っていない機関の事情に関する回答によって、図書館製本の課題が浮き彫りとなった。

  • 2018年度から2022年度まで(コロナ禍の影響が甚大であった2020年度を除く)、いずれの年度も製本に関する支出がなかったのは12機関(12.8%)であった。このうち11機関は製本業務の担当者がおらず、8機関は製本のための独立した部署を持たない。また、この期間に製本を発注しなかったのは14機関(14.9%)であった。

  インフレによる価格高騰や、製本のための予算・人員の削減といった問題以前に、製本すべき資料が減っており、製本事業者に発注できる最小施工単位に満たないため製本ができない場合もある。複数の図書館が、紙から電子媒体への移行が製本需要の低下に影響していると回答した。

  図書館製本の需要が低下することで、製本事業者数が減少し、製本作業の質が低下、製本工程や材料等のサービスの幅も狭まり、図書館側の選択肢が限定され、さらに発注が難しくなる、という負の連鎖をうかがい知ることとなった。

●結びにかえて

  図書館製本は、紙媒体の資料を取り扱う図書館にとって必要不可欠な業務である。デジタル化の流れの中で、各図書館が予算や費用の高騰との兼ね合いからやむを得ず図書館製本の必要性を再考し、並行して図書館製本の市場規模が縮小していくという構図は、米国に限ったものではないと考える。

  本報告書の末尾では、製本を行わない機関を今後の調査に加えるかどうか、調査対象機関を学術図書館以外にどのように拡大するか、といった課題を挙げつつ、次の調査に向けた体制構築に関する提言があった。今後の展開を注視されたい。

Ref:
Chapman, Joyce; Doyle, Beth; Ellenburg-Kimmet, Tanya; Coulbourne, Mark; Brim, Richenda. 2022 Core National Binding Survey: Report of Findings. ALA, 2023, 38p.
https://alair.ala.org/handle/11213/19881