E2659 – 第32回京都図書館大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.471 2024.01.11

 

 E2659

第32回京都図書館大会<報告>

南丹市立中央図書館・上原賀奈子(うえはらかなこ)

 

  2023年11月20日、「デジタル社会と図書館~電子書籍サービスから考える~」をテーマとし、第32回京都図書館大会(E2571ほか参照)が4年ぶりに対面で開催された。コロナ禍を経て、今までになく急速にデジタル化が進む社会の中での図書館の在り方について電子書籍サービスに焦点を当て、講演や事例発表が行われた。

●基調講演

  筑波大学准教授の池内淳氏から「本と書店と図書館のミライ」と題して基調講演が行われた。池内氏は、まず出版界と図書館の状況に触れ、紙の文庫の売り上げの減少は情報通信機器の世帯保有率の上昇によるものと推測されると述べた。次にオンライン書店とリアル書店の状況について、2007年にオンライン書店に対して17倍あったリアル書店の売り上げが、2021年には3倍になっていることを提示した。

  様々な電子書籍の流通形態についても紹介し、2016年に大手ネット通販会社が開始した電子書籍定額購読(読み放題)サービスは、個人では入手できない規模の資料を利用できるなどの点で図書館の基本機能と似ていると述べた。また、電子書籍が最も読まれているのが就寝前であることを提示し、電子図書館はこの時間帯にサービスを提供することを可能にすると述べた。

  一方で、紙の書籍の電子化の動向については、日本語の図書の電子書籍化が遅れていることが読書バリアフリーの環境整備の遅れに影響を与えており、また図書館のオンライン化が進んでいないためにコロナ禍において図書館の閉館が大幅なサービス低下を招いたとした。図書館の電子書籍サービスについては、性の悩みなど人を通して借りにくいテーマを扱った本が利用しやすいことが特性としてあると述べたほか、膨大な作品数を誇る青空文庫等も含め選書が重要であることも指摘した。そして、電子図書館のサービスも電子書籍を貸し出すだけでなく、様々な図書館サービスをデジタルの特性を生かして包括的に提供するものであるべきなどと述べた。締めくくりにアムステルダム大学図書館(オランダ)の事例を紹介し、単に本を置く場所ではなく、人が知的な活動をする場所としての図書館の在り方を示した。

●事例発表1 市町村と県による協働電子図書館「デジとしょ信州」の運営について~選書を中心に~

  松川村図書館(長野県)の棟田聖子館長から、県立図書館がプラットフォームを維持し、電子書籍を県内全ての市町村で分担して購入する協働電子図書館「デジとしょ信州」について発表があった。棟田氏は、全ての参加自治体が選書の基本方針にそって電子書籍の選書リストを作成し、オンラインで選定会議をして購入コンテンツを決定していること、全ての人たちに平等な読書環境を届けることを目指し「デジとしょ信州」を運営していることなどについて紹介した。

●事例発表2 ふくちやま電子図書館について

  福知山市立図書館(京都府)の山路智子館長から、コロナ禍や市町村合併による市域の広域化に伴い、図書館に来ることが難しい人にも読書の機会を提供し、本の魅力を伝えるため導入した「ふくちやま電子図書館」について報告があった。同市では市内全小中学校の児童生徒と教職員に電子図書館のIDとパスワードを配ることで、学校と連携を図ったことを紹介した。今後は地域資料をデジタル化して公開すること、タイミングをとらえた広報を進めることで電子図書館の利用拡大につなげたいと述べた。

●事例発表3 電子書籍利用促進企画「学芸本ガチャ!」について

  東京学芸大学総務部学術情報課の真家美咲氏から、同学の附属図書館で電子書籍の利用促進と本と出合うきっかけづくりのため企画した「学芸本ガチャ~読書の世界を広げよう~」(E2627参照)について報告があった。真家氏は、ウェブサイト上のガチャガチャを回すと当たった電子書籍のOPAC上の検索結果ページが表示される「オンラインガチャ」は電子書籍利用のきっかけになっていると考えられるとし、今後も学生の声をもとに学芸大らしい企画を行っていきたいと述べた。

●フリートーク

  京都図書館大会実行委員の津田深雪氏(国立国会図書館関西館)による進行のもと、事例発表者3人のフリートークを行った。紙と電子、来館と非来館、対面と遠隔サービスを併せて提供するハイブリッドな図書館サービスの可能性について意見が交わされ、新たな読者層に向けた選書の工夫、タイミングをとらえた広報や学校との連携などについて話し合われた。

  筆者の勤務する南丹市立中央図書館では電子書籍を導入していないが、今回、電子書籍サービスについて学んだことは今後のサービス提供に大いに役立つと感じた。京都府立図書館等との連携も視野に入れ、電子書籍サービスを取り入れながら魅力ある図書館運営をしていきたい。

Ref:
“第32回京都図書館大会【令和5年11月20日(月)開催】”. 京都府立図書館.
https://www.library.pref.kyoto.jp/council/libconf/32/
“デジとしょ信州(市町村と県による協働電子図書館)”. 県立長野図書館.
https://www.knowledge.pref.nagano.lg.jp/collection/elibrary/shinshu-kyodo-library.html
ふくちやま電子図書館.
https://web.d-library.jp/fukuchiyam/g0101/top/
釘本容子. 第31回京都図書館大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2023, (450), E2571.
https://current.ndl.go.jp/e2571
真家美咲. 学芸本ガチャ!:楽しみと共に本との出会いを届ける. カレントアウェアネス-E. 2023, (464), E2627.
https://current.ndl.go.jp/e2627