E2653 – 高知こどもの図書館のあゆみ

カレントアウェアネス-E

No.470 2023.12.14

 

 E2653

高知こどもの図書館のあゆみ

高知こどもの図書館・大木由香(おおきゆか)

 

  2023年10月、認定NPO法人高知こどもの図書館は、Library of the Year 2023優秀賞を受賞した。授賞の理由は、「歴史ある民間公共が実現する『行けなくても訪ねられる図書館』」であることとされた。2020年の施設移転と2022年のウェブサイトリニューアルにより、高知市の図書館を訪ねる、図書館が県内各地を訪ねる、ウェブサイトで図書館を訪ねるという3スタイルを確立したと評価された。審査員からは、DXの時代に突入する中で、こどもが使いやすい図書館ウェブサイトの整備が今後全国の図書館に広がる契機になるのではと講評された。本稿では、当館の概要とこれまでの取組を紹介する。

●当館の概要

  当館は1999年12月、NPO法人による運営としては日本初となるこどもの本の専門図書館として、高知市の旧県立消費生活センター内に開館した。1990年頃、高知県立図書館では建物の老朽化のため、移転計画が持ち上がった。その移転候補地が市郊外だったことから、こどもが図書館に通える環境を残したい、と考えた市民の活動によって、高知県が場所を提供しサポートする官民協働の図書館として、当館が設立された。この私設公共図書館の運営費は、当館の趣旨に賛同する会員からの会費や寄付を中心とした自主財源でまかなっており、自立性の高い運営を行っている。赤ちゃん絵本から中高生向けの資料、児童書に関する研究図書など約2万5,000冊を所蔵し、こどもから大人まで幅広い世代の利用がある。2023年12月で開館25年を迎える。

  「こどもに本をとどけつづけること」を当館の理念として掲げ、図書館運営は理事、スタッフとボランティアで担い、館内での児童サービスを中心に、絵本講座や読書ボランティア養成講座、講演会、絵本原画展、そのほかNPOならではの多彩な企画を行っている。また、活動は館内にとどまらず、高知県下の中山間地域のこどもたちへの読書支援として、出張おはなし会をその地域の保育施設などで行っている。

●行けなくても訪ねられる図書館

  開館より20年の時を経て、図書館の建物が老朽化したことから、2020年4月にオープン予定の高知県立公文書館1階へ移転開館することとなった。その移転準備を進める最中に、コロナ禍に見舞われた。移転計画に支障をきたしたものの、図書館システム移行などの館内整備は関係者の尽力もあり進めることができた。開館直後から1か月の閉館を余儀なくされ、2か月後に貸出サービスを始めた頃には、学校図書館をはじめ、こどもたちが図書館の利用を制限される状況となっていた。こんな時こそこどもたちに本をとどけたいのにできない、今私たちにできることは何か、と検討を重ねた。総務省地域情報化アドバイザーの助言を受けて、2021年10月に「行けなくても訪ねられる図書館!子どもの本の世界を拓くWebサイト」と題し、読書案内コンテンツの拡充を目的とした、ウェブサイトの全面リニューアルを目指すクラウドファンディングを実施した。60日間で目標金額250万円を大きく上回る約360万円の支援があり、2022年5月5日にウェブサイトを公開した。

●リニューアルしたウェブサイトの特長

  新しいウェブサイトでは、年齢、能力、場所、時間、環境を問わず本との出会いを楽しめ、こどもの本を必要としている誰にでも情報を届けられる場としての「行けなくても訪ねられる図書館」を実現することを目指した。

  ウェブサイトは「読みたい本を見つけやすい」「誰にでも情報が伝わる」「様々な環境で閲覧できる」という三つのウェブアクセシビリティの方針に基づいて制作された。小学3年生以上で学ぶ漢字にルビを振る、GIGAスクール構想に対応したタブレットで見られるようにタブレットファーストのデザインにするなど、こども向けとしながらも誰もが使いやすいウェブサイトとなるように工夫したものとなっている。

  本との出会いを楽しむきっかけとして、見る度に発見や楽しさがあるような、本の紹介コンテンツの発信を行っている。「へなちょこの森へ行こう」は、YES/NOチャートを利用した、ゲーム感覚でおすすめの本に出会えるコンテンツである。「スポーツはとくい?」「すいえいはすき?」などの質問に答えていくと、本の紹介ページにたどり着き、カーリルのウェブサイトへのリンクにより利用者の最寄りの図書館の所蔵を確認できる仕組みになっている。利用者から好評であり、今後はこどもたちにもコンテンツの追加に参加してもらう予定である。高知こども新聞と連動したコンテンツ「図書だよりのほんだな」では、小学校の学年別におすすめ本を紹介しており、他の公立図書館や学校図書館の館内掲示にも活用されている。

●当館のこれから

  私設公共図書館の運営は、運営費の確保をはじめ苦難の連続である。開館当初より「NPOが図書館を運営するなんて到底無理である」という声がある中での船出であったと聞く。これまで活動を続けることができたのは、当館の趣旨に賛同してくれる会員と支援者、共に汗を流すボランティアのおかげである。利用者の信頼に応える活動ができているか、組織の点検を欠かさず、児童図書館員としての専門性を高める研鑽を積み、他機関との連携や組織基盤の強化を図りながら、これからもこどもに本をとどけつづけていきたい。

Ref:
こうちこどものとしょかん.
https://kodomonotoshokan.org/
“Library of the Year 2023 授賞理由”. IRI.
https://www.iri-net.org/loy/loy2023-second-selection-result-reason/
総務省地域情報化アドバイザー優良事業事例.
https://www.r-ict-advisor.jp/prom/chiiki_adviser/2021_new/r2-071_r1-284_kc.pdf
“行けなくても訪ねられる図書館!子どもの本の世界を拓くWebサイト”. READYFOR.
https://readyfor.jp/projects/kochichildrenslibrary/announcements/214499
“WP ZoomUP #81 高知こどもの図書館のウェブサイト制作から学ぶ “一緒に作り、育てる” ウェブサイト”. YouTube. 2022-07-24.
https://www.youtube.com/watch?v=ZNfPM3-2I70
“WP ZoomUP #82 高知こどもの図書館のウェブサイト制作から学ぶ “一緒に作り、育てる” ウェブサイト”. YouTube. 2022-07-08.
https://www.youtube.com/watch?v=xlnUfb6_OiM