カレントアウェアネス-E
No.472 2024.01.25
E2663
第88回IFLA年次大会目録分科会<報告>
収集書誌部逐次刊行物・特別資料課・山口美季(やまぐちみき)
2023年8月21日から25日にかけて、世界図書館情報会議(WLIC):第88回国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2552ほか参照)が、ロッテルダム(オランダ)のアホイ・コンベンションセンターで開催された。今大会は、「力を合わせよう、図書館しよう」(Let’s work together, let’s library)をテーマに、集合形式とオンライン形式のハイブリッドで実施された。国立国会図書館(NDL)からは、代表団8人が現地に赴き、ほかに10人がオンラインにより参加した。NDLからの代表団が当大会に現地参加したのはコロナ禍を経て4年ぶりである。本稿では、筆者が目録分科会常任委員として実際に参加したセッション等について紹介する。
大会に先立ち、8月18日と19日に、ブリュッセル(ベルギー)のベルギー王立図書館にて、書誌分科会、主題分析及びアクセス分科会、目録分科会合同のサテライトミーティングが開催された。テーマは「岐路に立つユニバーサル書誌コントロール(UBC)」である。IFLAとユネスコによってUBCが提唱されてから半世紀が経過した今日、その意義と有効性を問い直すもので、約50人が参加した。1日半の日程を三つのサブテーマに区切り、それぞれ2-3件のペーパー発表の後、参加者全員でグループディスカッションを行った。ペーパー発表では、エジプトやブラジルを含めた多様な地域・機関に所属する司書や研究者が、各々の実践した事例を中心に紹介した。プリンストン大学(米国)のコントゥルシ(Lia Contursi)氏による、同館所蔵の「桜本坊文書」の目録作成についての発表は、襖の下張りとして利用されていたと推定される膨大な紙片のデータを、MarcEditプログラムを用いて作成するというもので、非常に印象的であった。
また、ディスカッションでは、UBCに限らず、目録作成やメタデータ生成の意義にも関連した、多くの意見が出された。UBCの意義は現在でも薄れていないが、時代に合わせて見直されなければならないと語られた。各地域の事情や特色ある資料群の存在を踏まえ、「ローカル」を尊重した「ユニバーサル」に向かうために、「コントロール」よりむしろ、相互運用性の担保が重要だと強調された。また、国際目録原則(ICP ; CA1713参照)・IFLA Library Reference Model (IFLA LRM ; CA1923参照)・国際標準書誌記述(ISBD)等の、メタデータ標準化のための基準類と比べて、IFLAにおけるUBCの役割は曖昧であり、ほかの基準類との関係を明らかにする必要性も述べられた。その上で、それらの検討を推進していく責任ある組織の発足が望まれると総括された。
ロッテルダムに場を移し、大会期間中に開催されたオープン・セッション等では、人工知能(AI)や機械学習を論じたものが目を引いた。目録分科会でも、IT分科会、主題分析及びアクセス分科会との共催で、AIと機械学習に関する二つのセッションを実施した。このうち、 生成AIに目録を作成させるという実験を扱った2件のペーパー発表を取り上げたい。
レオン大学(スペイン)のアロヨ=バスケス(Natalia Arroyo-Vázquez)氏等は、複数の生成AIを用いて様々な資料群の目録を作成させた結果を発表した。用いられた生成AIは、ChatGPT、Notion AI、Writesonic、Rytr.me、Bard、Bingの6種類で、対象資料群は、図書、会議録、法律、逐次刊行物、電子書籍である。作成されたデータをスペイン国立図書館のデータと比較検証し、各生成AIを資料群ごとに0から3までのスコアで評価した。結果は、いずれの生成AIも法律のスコアが低かったほか、全資料群を通じてアクセス・ポイントの判断に難が見られた。現状で、生成AIは目録作成作業の一助にはなるかもしれないが、その目録作成能力は人間と比して十分ではないと評価され、現存の生成AIを目録作成に転用するのではなく、目録作成に特化させたAIツールを開発するのが望ましい、と結論づけられた。
米国議会図書館(LC)のフォード(Kevin Ford)氏による発表では、「ChatGPTは脅威なのか、それとも単なる悪夢なのか」との問いが投げかけられ、ChatGPT 3.5が驚異的な速さでMARC21形式の書誌データを作成していく様子が提示された。しかし、見た目は人間の目録作成者の手によるデータと遜色ないものの、やはり、アクセス・ポイントの選定には誤りが見られた。同氏は、ChatGPTはMARC21の各フィールドに「定義に即したエレメント」を「誤りの無い綴り」で振り分けるという作業には非常に向いており、こうした能力は学習によって一層の向上が期待できるとする一方で、人間の目録作成者が日常的に頭を悩ませている、「雑誌Aと雑誌Bは本当に同じ逐次刊行物か」「Aと同姓同名のBは同一人物か」といった疑問への解は出すことができないと述べた。ChatGPTをその特性を生かしてテキストの読取りや記録等に活用しつつ、人間は複雑な判断を要する作業に労力を割く、といったワークフローを早急に確立するよう提唱し、「ChatGPTは脅威でも悪夢でもない、ChatGPTは現実だ」と発表を結んだ。これは、IFLA本部のコーディネートによる特別セッション「AI図書館員:脅威かチャンスか」において、オランダ国立図書館(KB)のボークステイン(Erik Boekesteijn)氏が語った言葉「AIはまさにここにいる」にも通じるように思われる。
今大会については『国立国会図書館月報』令和6(2024)年2月号でも報告がなされる予定である。各セッションの予稿の一部はIFLAの機関リポジトリで、大会の写真はFlickrで公開されているので、ぜひ参照されたい。
Ref:
IFLA WLIC 2023.
https://2023.ifla.org/
“WLIC 2023 Satellite meeting”. KBR.
https://www.kbr.be/en/agenda/wlic-2023-satellite-meeting/
IFLA Metadata Newsletter. 2023, 9(2), 21p.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/3165
“East Asian Studies professor and librarian uncover rare Japanese medieval documents”. Princeton University Library. 2018-11-28.
https://www.princeton.edu/news/2018/11/28/east-asian-studies-professor-and-librarian-uncover-rare-japanese-medieval-documents
IFLA Repository.
https://repository.ifla.org/
“The International Federation of Library Associations and Institutions (IFLA)”. Flickr.
https://www.flickr.com/photos/ifla/albums/
大迫丈志. 2022年IFLA年次大会オンラインセッション<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (446), E2552.
https://current.ndl.go.jp/e2552
野村明日香. 2021年世界図書館・情報会議:IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (428), E2464.
https://current.ndl.go.jp/e2464
村上一恵. 世界図書館情報会議(WLIC):第85回IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (381), E2205.
https://current.ndl.go.jp/e2205
北野仁一. 世界図書館情報会議(WLIC):第84回IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (358), E2078.
https://current.ndl.go.jp/e2078
和中幹雄. 目録に関わる原則と概念モデル策定の動向. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1713, p. 23-27.
http://current.ndl.go.jp/ca1713
和中幹雄. IFLA Library Reference Modelの概要. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1923, p. 27-31.
https://doi.org/10.11501/11062627