カレントアウェアネス-E
No.428 2022.01.13
E2464
2021年世界図書館・情報会議:IFLA年次大会<報告>
関西館図書館協力課・野村明日香(のむらあすか)
2021年8月17日から19日にかけて,2021年世界図書館・情報会議:国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2205ほか参照)が,“Let’s Work Together for the Future”をテーマとして開催された。2020年は新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響で中止となったため,2年ぶりである。
また,今回初めてオンラインで開催され,各セッションは,大会ウェブサイト上での動画配信やZoomを用いてのディスカッション形式で実施された。例年のような集合形式での開催ではないためか,時差への配慮として,3日間それぞれ別のタイムゾーンが設定されていた。国立国会図書館(NDL)からは,筆者を含め37人が参加した。
8月17日の開会式の後,合計160件以上のセッションが行われた。本稿では筆者が視聴したセッションの内,IFLAで最近方針等の策定・改訂の動きが見られるものから抜粋し,内容を紹介する。
●Expanding Global Digital Access through Controlled Digital Lending
図書館が蔵書をデジタル化し,電子的な複製物を「1部1ユーザー」の制限のもと貸し出す“Controlled Digital Lending(CDL)”について,Kyle K. Courtney氏(法律家,米・ハーバード大学)から概要,Christina de Castell氏(IFLA著作権等法的問題委員会)からIFLAの声明の紹介が行われた。
米国において,CDLは,フェアユースや,合法な手段で入手したものは著作権者の許諾なく販売・貸出できる「ファーストセール・ドクトリン」(first sale doctrine)に照らして法的に問題が無いとした上で,紙資料の貸出と同様のサービスをデジタル空間で実現するものであり,合理的手法であると述べられた。自館の所蔵資料に限ること,同時貸出数は所蔵冊数以内とすること等の推奨事項が提示された。
そして,IFLAが2021年6月に発表した,CDLを支持する声明の内容として,各国における政策を考慮する必要があるとしつつ,収集・貸出の自由は図書館の核となること,デジタル環境での資料の利用は紙媒体と同様の柔軟性を持つべきであること等が紹介された。
●International Guidelines for LGBTQ+ Library Resources and Services
Julie Ann Winkelstein氏(IFLA LGBTQ Users SIG)から同SIGについて,Rachel Wexelbaum氏(IFLA LGBTQ Users SIG)から同SIGが進めるLGBTQ+に関係する図書館資料・サービス等のガイドライン策定プロジェクトについて説明が行われた。
同SIGがLGBTQ+に関するリソースやサービスを提供する際に直面する課題として,差別的な法制度がある国・地域をはじめとしてLGBTQ+コミュニティにとって図書館は必ずしも安全な場所ではないこと,既存のツールキットやガイドラインの内容は英語圏に偏っており,他の国・地域で有効とは限らないこと等が指摘された。これらを踏まえ,社会正義デザイン(Social Justice Design)を用いて,全世界の図書館が活用できるガイドラインの策定を進めていると述べられた。また,現在プロジェクトが抱える課題として,ボランティアによる無償の活動に依存していること,翻訳支援が必要なこと等が挙げられていた。
続いて,Eleonor Pavlov氏(スウェーデン図書館協会)から,近年の法制度を紹介すること,事例や視点を共有することを目的に,同協会が策定・公開したガイドラインの紹介があった。ガイドラインには,図書館における取組,物理的な図書館・電子図書館に関する推奨事項の他,図書館の取組に対する批判・支持の声等がまとめられている。
●The IFLA/UNESCO Public Library Manifesto: a new chapter in library advocacy
このセッションでは,Claire McGuire氏(IFLA Policy and Research Officer)から「IFLA/ユネスコ公共図書館宣言」の概要の説明が行われ,Marielza Oliveira氏(ユネスコ)からのビデオメッセージの後,Ulrike Krass氏(ドイツ・フライブルク公共図書館)から同宣言の改訂作業についての紹介が行われた。
同宣言は,1949年に作成され,1994年に現在の版になっており(CA939参照),2020年からIFLAが改訂作業を進めている。改訂の背景・目的として,同宣言が掲載されているウェブページへのアクセス数は増えており,現在も重要であり続けていること,公共図書館の役割の進化に対応する必要があること等が挙げられた。改訂のポイントとして,デジタル化,利用者の参加,デジタルリテラシー,包摂性をはじめとした内容に言及があった。
そして,同宣言のアドヴォカシーツールとしての活用について,Adriana Cybele Ferrari氏(ブラジル図書館連盟)とViv Barton氏(オーストラリア図書館協会)からそれぞれの国の事例が紹介された。図書館の蔵書構築方針策定や図書館がもたらす影響の説明,生涯教育プログラムの提供時等に用いられてきたこと等が述べられた。
その他にも,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大下における各国の学校図書館の取組等,さまざまなセッションを視聴できた。各国の状況・取組は多様でありつつも,視聴したセッションの多くで,COVID-19を危機として捉えるだけでなく,これまでの図書館サービスを見直し,新たなあり方を考える機会と捉える姿勢が共有されているように感じた。また,前述のLGBTQ+関連のガイドライン策定過程をはじめとして,公平性・多様性・包摂性への意識を強く感じる発表が散見された。変動する社会の中で,図書館は何ができるのか,また,どういった存在であるのかについて考えさせられる大会であった。
今大会については,『国立国会図書館月報』等でも報告される予定である。次回の大会は,“Inspire, Engage, Enable, Connect”をテーマに,2022年7月26日から29日にかけてアイルランド・ダブリンで開催される。
Ref:
IFLA WLIC 2021.
https://www.ifla-wlic2021.com/
“IFLA WLIC 2021: Three days of opportunities across three time zones!”. IFLA. 2021-04-14.
https://www.ifla.org/node/93818
“IFLA releases a statement on Controlled Digital Lending”. IFLA. 2021-06-16.
https://www.ifla.org/news/ifla-releases-a-statement-on-controlled-digital-lending/
“LGBTQ Users Special Interest Group”. IFLA.
https://www.ifla.org/units/lgbtq/
Guide for Working with LGBTQ+ Issues in the Library. Svensk bibliöteksforening. 2021, 35p.
https://wwwbiblioteksfor.cdn.triggerfish.cloud/uploads/2021/08/hbtqi-16-08.pdf
UNESCO.; IFLA. ユネスコ公共図書館宣言1994年. IFLA, 2014.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/185
IFLA WLIC 2022.
https://2022.ifla.org/
村上一恵. 世界図書館情報会議(WLIC):第85回IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (381), E2205.
https://current.ndl.go.jp/e2205
柳与志夫. 「ユネスコ公共図書館宣言」改訂へ. カレントアウェアネス. 1994, (177), CA939, p. 2.
https://current.ndl.go.jp/ca939