CA939 – 「ユネスコ公共図書館宣言」改訂へ / 柳与志夫

カレントアウェアネス
No.177 1994.05.20


CA939

「ユネスコ公共図書館宣言」改訂へ

1949年に発表されたユネスコ公共図書館宣言が,その後の世界の公共図書館活動に大きな影響を与え続けていることは今さら言うまでもないだろう。同宣言は,1972年にも改訂されたが,図書館をとりまく環境の急激な変化を背景に,新たな改訂への準備が進んでいる。

それは,1991年のIFLAモスクワ大会で発議され,公共図書館常設委員会で草稿案づくりが行われてきた。そして1993年のIFLA大会に先立って開かれたポルトガルでのセミナーでは,18か国36人の代表が,ユネスコや欧州評議会代表と共に,草稿の詳細な検討を行った。そこで確認されたのは,宣言が今だに発展途上国の図書館振興に大きな意味をもつということである。そしてセミナーでは,改訂版に盛られるべき原則が合意された。その幾つかを例示すれば以下のとおりである。

  • 知る権利,文化・教育を享受する権利は基本的人権であり,従って公共図書館サービスは第一義的に情報と文化と生涯学習に向かうべきこと。
  • 人種,国籍,宗教等の違いに関わらず,コミュニティの構成員すべてに情報への自由なアクセスを保証すること。
  • 公共図書館サービスへの商業主義的なアプローチに対抗して,「市民性」を重視すること。
  • 公共図書館は原則として無料であること。

同セミナーのリポートは1993年のIFLAバルセロナ大会で報告されたが,そこでの最大の話題は,サービス料金の問題であった。無料原則の再確認が改訂版草稿で行われたことへの驚きが,先進国の図書館人の間にあったことも確かであるが,一方で発展途上国の図書館人の大きな支持もあった。

IFLA公共図書館委員会は,改訂版最終草稿を1994年のハバナ大会に提出する予定であり,そこで合意が得られれば,案はユネスコ総合情報プログラム理事会に送付されることになる。

最初の宣言が出された時代と大きく経済・社会環境が変化してしまった英米を始めとする図書館先進国にとって,同宣言の改訂がさほどの重要性をもたなくなっていること,従って大きな関心も呼んでいないことも事実である。しかし,それが変わらぬ意義をもち続けている国も少くないのである。まして何かと同宣言を理念と活動の拠りどころとして引用する人の多いわが国で,この改訂問題がほとんど話題になっていないのは奇妙なことではある。

柳 与志夫(やなぎよしお)

Ref: Gill, Philip. The revision of The UNESCO Public Library Manifesto. Publ Libr J 9 (1) 1-2, 1994