E2463 – 博物館防災に関する国際会議ICOM-DRMC2021<報告>

カレントアウェアネス-E

No.428 2022.01.13

 

 E2463

博物館防災に関する国際会議ICOM-DRMC2021<報告>

京都国立博物館・栗原祐司(くりはらゆうじ)

 

   2021年11月4日から7日にかけて,国際博物館会議博物館防災国際委員会(Disaster Resilient Museums Committee:ICOM-DRMC)の年次大会が日本で開催された。ICOMには32の国際委員会があり,DRMCは2019年のICOM京都大会(CA1971参照)で新たに設立された一番新しい国際委員会である。筆者はDRMCのボードメンバーであり,ICOM日本委員会副委員長でもあるため,本稿では主催者の立場で同大会の概要について報告する。

   2020年の年次大会がコロナ禍で中止になったことから,今回がDRMC初の年次大会であった。日本で年次大会を開催することについては,ちょうど2021年が東日本大震災10周年に当たることから筆者が提案したもので,文化庁の補助金内示を受け,財源を確保できた時点で具体的な検討を開始した。DRMCとしては,当初は対面式の開催を想定していたが,世界的な感染拡大の状況を踏まえ,ハイブリッド形式での開催とした。結果的に,海外からの参加はいまだ難しく,残念ながら会場に足を運べたのは日本在住者のみとなったが,30か国・地域からの参加があり,現地参加とあわせて11月4日(東京開催)では145人,11月6日(岩手開催)では180人の参加があった。

  大会テーマは,2020年10月に国立文化財機構に文化財防災センターが発足したことや,かねてより筆者が博物館・図書館・アーカイブ(MLA)の連携やブルーシールド(E688参照)の必要性を主張していることもあり,「文化財防災ネットワークの構築:連携に関する事例研究」とした。会場は,当初は海外からの参加者も見込んでいたことから,まず東京国立博物館で会議を開催し,その後いわゆる「大津波プロジェクト」として,被災文化財の保存修復に日本博物館協会や東京国立博物館とともに取り組んできた岩手県陸前高田市に移動してシンポジウムを開催することとした。

  東京国立博物館で開催した11月4日は,開会行事に続いて歴史資料ネットワーク代表委員の奥村弘神戸大学理事・副学長が,「災害時の地域歴史資料保存に関するネットワーク形成の現状と課題-「史料ネット」の26年間の活動を中心に-」という演題で基調講演を行い,阪神淡路大震災以降全国各地で活動を展開している史料ネットの活動(CA1743CA1995参照)と地域歴史資料学の構築について説明した。各地の史料ネットは,2021年3月時点で30団体となっており,行政とは違う立場で地域に密着した歴史資料の保存・継承のために欠かすことのできない存在になっていると言っていい。

  東京での研究発表は,1人15分,3人で1セッションとし,合計4セッションを行った。20件以上寄せられた発表提案の中から,ボードメンバーで選考を行い,韓国,台湾,ベトナム,エジプト,エチオピア,エクアドル,スイス,フランス,そして日本からの4件を含め合計12件の発表があった。日本では,博物館防災は自然災害を念頭に置いているが,海外では紛争下の文化財保護についても重要な課題となっていることを実感させられる発表も多かった。国際協力・貢献という観点から,常に視野に入れておくべき課題であろう。

   11月5日には,岩手県に移動して岩手県立博物館を見学し,翌6日は東日本大震災津波伝承館や震災遺構である旧陸前高田市立気仙中学校校舎を見学後,陸前高田市コミュニティホールでシンポジウムを開催した。「市民と博物館がまもり,つなぐふるさとの宝~東日本大震災後10年目における博物館活動の再生と創造」というテーマの下,福島県,宮城県,岩手県3県の被災文化財の救援・修復に携わった研究者が登壇し,これまでの取り組みと今後の課題を述べた。また,リモートで松岡由季・国連防災機関(UNDRR)駐日事務所代表が「世界津波の日(11月5日)」と世界津波博物館会議の意義について説明した。さらにパネルディスカッションでは,大規模災害からの復興に向け,博物館が担うべき役割について国内外に向けた主張が行われた。

  翌7日には,陸前高田市立博物館の被災資料の仮収蔵施設として安定化処理や保管を行っている旧陸前高田市立生出小学校を見学後,2022年秋に開館予定の新しい陸前高田市立博物館の内部を特別に見学させてもらい,全行程を終了した。

  東京での研究発表では,一橋大学社会科学古典資料センターの馬場幸栄氏から2019年台風被害(E2208参照)による水損図書の救援に関する事例発表もあったが,防災・減災は博物館だけでなく図書館や公文書館においても同様に重要な課題である。上述の文化財防災センターが事務局を務めている文化遺産防災ネットワーク推進会議には,国立国会図書館や日本図書館協会,国立公文書館も参画しており,国際図書館連盟(IFLA)や国際公文書館会議(ICA)でも活発な議論がなされている。今後,DRMCのみならず,こうした国際会議等で日本の文化財防災の取り組みを継続的に発信していく必要があるだろう。なお,本会議は,当分の間,YouTube上で記録動画の配信を行っており,ICOM日本委員会のウェブサイト上からも閲覧いただけるので,ぜひご視聴願いたい。

Ref:
“【動画配信】ICOM-DRMC年次大会が開催されました”. ICOM日本委員会.
https://icomjapan.org/updates/2021/11/24/p-2732/
“ICOM-DRMC年次大会2021”. YouTube. 2021-11-12.
https://www.youtube.com/watch?v=cau4DqVhz0k
ブルーシールド―危険に瀕する文化遺産の保護のために<文献紹介>. カレントアウェアネス-E. 2007, (112), E688.
https://current.ndl.go.jp/e688
令和元年台風第15号・第19号等による図書館等への影響. カレントアウェアネス-E. 2019, (382), E2208.
https://current.ndl.go.jp/e2208
平井俊行. 第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会2019. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1971, p. 13-15.
https://doi.org/10.11501/11471489
川内淳史. 被災資料を救う:阪神・淡路大震災からの歴史資料ネットワークの活動. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1743, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/3192155
天野真志. 資料保存をとりまくネットワーク—災害対策と地域社会をめぐる動向—. カレントアウェアネス. 2021, (347), CA1995, p. 22-25.
https://doi.org/10.11501/11648996