E2236 – 第30回保存フォーラム「収蔵資料の防災」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.386 2020.02.27

 

 E2236

第30回保存フォーラム「収蔵資料の防災」<報告>

収集書誌部資料保存課・小野智仁(おのともひと)

 

 2019年12月19日,国立国会図書館(NDL)は,東京本館において第30回保存フォーラム「収蔵資料の防災―日頃の備え・災害対応・連携協力」を開催した。保存フォーラムは資料保存の実務者による知識の共有,情報交換を意図した場である(E2109ほか参照)。

 日本では近年,自然災害が頻発し,各地の図書館や文書館等でも収蔵資料が被災している。今回のフォーラムは,日常の備えや発災後の初期対応,地域内外・他機関との連携の枠組みや事例についての報告を受けて,収蔵資料の救済に関する各自の防災・減災の意識を高め,取り得る対策について理解を深めることを目的とした。

 以下,当日の内容を紹介する。

●報告1「地域史料の防災対策―埼玉県内の取り組みを中心に」(埼玉県立歴史と民俗の博物館学芸主幹・新井浩文氏)

 新井氏は,埼玉県地域史料保存活用連絡協議会(以下「埼史協」)での活動及び防災アンケートからみた防災対策について説明した。過去の被災経験等により緊急時の搬出用箱の重要性を認識し,現在は県内4か所に独自開発した保存箱を保管しつつ,全国的な無償提供も行っていると述べた。また,埼史協が2013年に埼史協会員及び全国歴史資料保存利用機関連絡協議会機関会員に対して実施したアンケートから,河川付近に立地する施設の割合が多い点や防災マニュアルのない機関が9割も占めた点等を示し,これらの課題に対して,ハザードマップの確認など各地の実情に即した防災マニュアルの作成が必要と指摘した。

●報告2「鳥取県における災害時の県諸機関及び自治体の連携」(鳥取県立図書館長・網浜聖子氏)

 網浜氏は,2017年に同県で策定された「災害時等の県立公文書館、図書館、博物館等の市町村との連携・協力実施計画」について,発災時の具体的なフローや平時の対応等について説明した。災害時には県の諸機関と市町村や地域の歴史研究会,資料を所有する個人等が連携して情報収集及び共有を行い,支援要請後に現地での状況調査を行うと述べた。一方,平時には関係機関の連絡会議や資料の緊急避難先一覧の作成,そして被災時に必要な資機材の備蓄等を進めていることを紹介した。このような連携に図書館が加わる意義として,職員の危機意識向上や館内の危機管理対応の促進を指摘した。

●報告3「歴史資料ネットワークの活動と広域連携」(神戸大学大学院人文学研究科特命助教,歴史資料ネットワーク事務局・加藤明恵氏)

 加藤氏は,歴史資料ネットワーク(CA1743参照)での活動の経験から,日常的にも関係を保ちながら市民とともに資料保全活動を行う重要性と現在の活動の広がりについて説明した。災害からの資料保全にはボランティアとともに持続的に活動することが重要と述べ,現在の活動では,2019年の台風第19号(E2208参照)で被災した栃木県など地域の歴史資料ネットワークがない場所への支援も行っていると報告した。一方で2018年の台風第21号(E2070参照)による被災時には大阪周辺の歴史的資料の被災情報がほとんど入ってこない状態に陥ったため,京阪神におけるネットワークのあり方を見直す必要性についても言及した。

●報告4「文化財防災ネットワーク推進事業の概要と今後の展望」(独立行政法人国立文化財機構文化財防災ネットワーク推進室長・岡田健氏)

 岡田氏は,文化庁所管の独立行政法人として全国的な文化財防災のためのネットワーク構築の推進役を担う立場から文化財防災体制の考え方を説明した。文化財防災には現実を見据えた対策が重要であり,様々な災害を全て想定することが必要と述べ,それらの情報を詳細かつ具体的に整理しておく必要があると指摘した。実態を正しく認識した上での危機管理が必要であり,リスクに対処できない場合も含めた,考え得る現実的な「防災のための体制」を示し,構築することが重要だと強調した。

●報告5「国際図書館連盟(IFLA)における資料防災と海外事例」(収集書誌部司書監・佐藤従子)

 佐藤から,IFLA2019年年次大会(E2205参照)オープンセッションで発表された海外の防災事例を中心に説明した。フランス国立図書館(BnF)では,主要2施設がセーヌ川沿いに立地するため,防災計画策定・コンクリート防水壁・事前の保存箱への収納等の対策を講じており,ギリシャ国立公文書館では,経費削減による施設整備難のため老朽化に伴う施設内事故の懸念から,そのリスク分析と評価結果を可視化し,事故発生時,誰でも対応可能なように書架へリスク評価の結果を示す印を付ける等の対策を講じたと報告した。

 報告終了後の質疑応答では,(1)被災資料レスキュー時の各機関・団体等の対応,(2)被災資料のトリアージ等についての質疑が交わされた。(1)については,被災した地方公共団体に知人がいれば直接情報を集めるが,そうでない場合は大学や学会連合などの関係各所から情報収集に努めているとの紹介があった。(2)については,劣化状況によって,迅速な処置を要するもの,後の処置で対応可能なもの,凍結保存にて時間を稼ぐものというような形で区分可能だが,現場での情報とその場での判断力が大切との指摘がなされた。

 当日の配布資料はNDLのウェブサイトで公開している。

Ref:
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/preservationforum30.html
https://monjo.spec.ed.jp/埼玉県地域史料保存活用連絡協議会
https://www.pref.tottori.lg.jp/269967.htm
http://siryo-net.jp/
https://ch-drm.nich.go.jp/
E2109
E2208
E2070
E2205
CA1743