E2226 - 米国図書館界とマクミラン社との電子書籍をめぐる攻防戦

カレントアウェアネス-E

No.385 2020.02.13

 

 E2226

米国図書館界とマクミラン社との電子書籍をめぐる攻防戦

獨協大学経済学部・井上靖代(いのうえやすよ)

 

 ALA元会長フェルドマン(Sari Feldman)によると,米国出版社の中のいわゆるビッグ5と呼ばれる大手出版社の1社であるマクミラン(Macmillan)社が2019年11月から,その電子書籍の図書館への販売方法を変更した。

 奉仕人口数を配慮せず一律に図書館(システム)ごとに1タイトルにつき1部,ただし,平均30ドルに価格を下げて販売するという。たとえ奉仕人口が多いニューヨーク公共図書館でも,人口5,000人の町の図書館でも,同じように1タイトル1部ずつ販売する。8週間たてば追加を2年契約,平均60ドルで購入できるとする。この表明は2019年7月付で著者や画家,出版エージェント向けに発信された。ハードカバーでもニューヨーク・タイムズの推薦リストに掲載されれば予約が瞬く間に増え,何百冊と購入して提供するのが一般的な米国の大都市の図書館にとって,電子書籍も予約の多い,あるいは多くなるのが予想されるタイトルは大量の複本を購入するのが普通である。ということは今回の変更は,待てない利用者はマクミラン社から電子書籍を購入するだろうとの意図による。ALAはこの変更について反対する公開書簡を同社に送ったが,2020年1月25日時点では正式の返答はなく,同日のALA冬季大会で同社のCEOが直接図書館員たちと対話するも,進展はなかった。 それまでも10年以上図書館界と出版社とは電子書籍の貸出利用に関してのライセンス契約の攻防戦を繰り広げてきた。それがさらに過熱していくこととなった。なぜこういう事態になったのか。

 ここ2・3年の間に英語圏での電子書籍の売り上げが停滞していることが背景にある。マクミラン社があげる理由としては公共図書館での電子書籍無料貸出が大きいとしている。ALAが数年前に行った調査では公共図書館で薦める電子書籍は売上も高くなるという結果が出ているにもかかわらず納得していないのである。実際には海賊サイトでの違法ダウンロードの横行や個人電子出版サイトの拡大,電子書籍の価格上昇,電子書籍の読書端末の価格などの要因が背景にある。

 Statistaの統計によれば米国の読者の20%は印刷媒体よりも電子書籍を読むという。一方で23%は電子書籍も印刷媒体の書籍も同じくらい読むという。2018年調査結果では印刷媒体の図書購入者の26%は電子書籍も読む。年齢層でいうと18歳から29歳のミレニアル世代あるいはZ世代とよばれる層の34%は少なくとも年1タイトル以上の電子書籍を読んだというが,65歳以上になると15%となる。別の調査では子育てが終わり余裕のある50歳から60歳代のベビーブーマー世代が電子書籍を読む傾向があるという。文字を拡大したり,声にだして読んでくれるからであろう。

 ところが2017年に比べ2018年には電子書籍販売額は減少している。理由としてあげられるのは以下のようなこととされる。

  • (1)専用の電子読書端末が必要な場合が多いことと,その端末購入が特に貧困者層にとって負担となっていること。
  • (2)自費電子出版が拡大していること。
  • (3)Netflixのような映画などを配信するオンラインサービスが家族や友人とアカウントを共有できるのに比べ電子書籍は共有できないこと。
  • (4)無料の不法ダウンロードが横行していること。米国の不法ダウンロードの41%は18歳から29歳の世代,47%は30歳から44歳の世代によるものであった。これを防ぐためには電子書籍の価格を低下させることが求められる。
  • (5)図書館での無料貸出の電子書籍を利用していること。公共図書館のみならず電子教科書や関連する電子書籍の80%は学校図書館や大学図書館で利用されているという。

 そのうえ,世代によっては電子書籍離れが進んでいる。30歳以下の層では電子書籍よりも紙媒体の図書を読む傾向が増加しているという。

 ビッグ5の他の3社(ハチェット社,ペンギン=ランダムハウス社,サイモン&シュスター社)は2年ごとに,ハーパーコリンズ社は26回の貸出ごとに,ライセンス契約しなおすビジネス・モデルを採用している。図書館界としては,求める人にすべて資料を提供したい。なんでも購入できるわけではない年金生活者や生活困窮者,失業者や求職者や,自分にとって読みやすく文字や音声を変更し翻訳可能な電子書籍を障がい者や新移民者など多様な人々に提供したい図書館側とマクミラン社をはじめとする大手電子書籍出版社との攻防戦はまだまだ続く。

Ref:
https://www.ifla.org/node/92592
https://www.publishersweekly.com/binary-data/ARTICLE_ATTACHMENT/file/000/004/4222-1.pdf
https://d1x9nywezhk0w2.cloudfront.net/wp-content/uploads/2019/10/29160131/A-Letter-from-John-Sargent-.pdf
http://www.ala.org/news/press-releases/2019/10/ala-delivers-ebooksforall-petition-160000-signatures-macmillan-publishers
https://americanlibrariesmagazine.org/blogs/the-scoop/macmillan-ceo-hosts-ama/
https://www.statista.com/statistics/249767/e-book-readers-in-the-us-by-age/
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2019/09/25/one-in-five-americans-now-listen-to-audiobooks/
https://www.statista.com/topics/1474/e-books/
https://www.statista.com/statistics/250007/downloading-or-borrowing-e-books-on-a-public-library-website-in-the-us/
https://company.overdrive.com/2019/01/08/public-libraries-achieve-record-breaking-ebook-and-audiobook-usage-in-2018/
https://www.vox.com/culture/2019/12/23/20991659/ebook-amazon-kindle-ereader-department-of-justice-publishing-lawsuit-apple-ipad
https://goodereader.com/blog/e-book-news/80-of-us-schools-use-e-books-or-digital-textbooks
https://ebooksforall.org/index.php/faq/