E2227 – SPARC Japanセミナー2019特別編<報告>

カレントアウェアネス-E

No.385 2020.02.13

 

 E2227

SPARC Japanセミナー2019特別編<報告>

小樽商科大学附属図書館・中筋知恵(なかすじともえ)

 

 2019年11月12日,横浜市のパシフィコ横浜で開催された第21回図書館総合展における国立情報学研究所(NII)主催のフォーラム「SPARC Japanセミナー2019特別編 オープンアクセスの今とこれから:ステークホルダーの戦略とともに考える」に参加した。日本の学術情報流通に関わるステークホルダー(NII,オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR),大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE),科学技術振興機構(JST))が一堂に会してオープンアクセス(OA)の在り方,今後の見通しなどについてそれぞれの立場から見解を述べ合うセミナーであった。本稿では各ステークホルダーの取組にスポットを当てながら,セミナーの要点を報告したい。

 NIIの武田英明氏からは,NIIによる学術情報流通推進委員会(SPARC Japan)の活動の経緯及び現在の取組について詳細な報告があった。2003年,日本の英文論文誌の電子化から始まり,OA推進の活動を進めてきたこと,2018年からOAやオープンサイエンス(OS)を推進し,見えづらいOAの実態を可視化してきた過程について詳細な話があった。OAの推進に当たり,JUSTICE,JPCOARなど国内の学術的なステークホルダーとの協調を進めてきたこと,プレプリントサーバarXiv.org等の国際的な取組の活動支援を行っていること,SPARC Japanセミナー等のアドボカシー活動にも積極的に取り組んでいることなどの紹介があった。

 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の林和弘氏からは,OAをめぐる動向と自身が委員を務めるSPARC Japanの活動の詳細について紹介があった。まず,欧州で,助成を受けた論文を即時にOA化することを謳った“Plan S”の10原則の適用が2021年からに延期されたことについて話があった。SPARC JapanはPlan Sとそのガイダンスを和訳するなど同取組に関する積極的な情報提供を行っているという。また,海外(英国・オランダ(E1790参照)・ドイツ)の学術雑誌のOA出版への転換に向けた取組も紹介された。後半では,ハゲタカジャーナル(CA1960参照)を例に引き,OA時代において論文の質の保証が難しくなってきていることについて話があった。

 JPCOAR(E1830参照)運営委員長を務める東京大学附属図書館の江川和子氏からは,JPCOARの活動とOA推進について紹介があった。JPCOARは,リポジトリを通じた知の発信システムの構築とリポジトリコミュニティの強化を目的とした組織であり,最近の大きな活動としては,「JPCOARオープンアクセスリポジトリ戦略2019~2021年度」の策定が挙げられるとのことである。この戦略は,「研究データ公開」「コンテンツ流通」「コミュニティ強化」「人材育成」「協会の活動基盤強化」の5点を柱としているという。また,JPCOARに設置された各作業部会の2019年度の活動報告として,「研究データ作業部会」ではデータベースレスキュー(研究者が過去に作成したデータベースのうち,持続的な管理が困難になっているものを,機関リポジトリへ移管することを目標とするプロジェクト),学習管理システム(学認LMS(仮称))によるオンライン教材の試験運用,若手教員向け教材の作成などの活動を進めていることや,「コンテンツ流通促進作業部会」では新JAIRO Cloud開発に情報提供を行っていることなど,現在大学図書館が直面しているOS関係の先進的な取組を支援するJPCOARの活動例が多数紹介された。

 JUSTICE(E1189参照)運営委員を務める早稲田大学図書館の笹渕洋子氏からは,JUSTICEの紹介およびOA2020ロードマップについての詳細な説明があった。OA2020とは,学術雑誌の購読モデルをOA出版モデルへ転換することを目指し国際的なイニシアティブを取っており,2020年までに主要雑誌をOAへ転換することを目的としている。JUSTICEは2016年8月,OA2020の関心表明に署名している。今回JUSTICEが策定したOA2020ロードマップは,主に5つのアクション「現状確認」「交渉材料分析」「著者コミュニティ等への働きかけ」「国際的活動」「計画策定」を定め,OA出版モデル実現までの移行期を乗り越える道筋を明らかにすることを目的としているという。また,JUSTICEでは,SPARC Japanとともに論文公表実態調査を行い,日本の論文処理費用(APC)支払い額の把握を図りながら,日本がOA2020の目標を達成するための道筋を考えているということである。今回の講演の中では,新しいOAモデルがいくつか紹介され,OA2020が実現するためには,研究者との合意・大学執行部の後ろ盾が必要であること,大学では予算の配分方法に変更が生じてくるのでその点でも合意や準備が必要となってくることなど,現場の図書館職員にとって大いに参考となった。

 JSTの小賀坂康志氏からは,JSTにおけるOSの促進活動について報告があった。OS促進活動の一つとして,データ管理計画(DMP)の導入があり,この導入によって研究者たちの研究データ管理への認識が深まるのではないかとの話であった。また,特色ある取組例として,CHORUS(コーラス)ジャパンダッシュボードサービス(CA1959参照)によるOAのモニタリングが挙げられるとのことである。さらにJSTでは,Web of Scienceに収録されたメタデータを使ったモニタリングも行っているとのことであった。

 最後に講演者全員によるディスカッションが行われた。主な話題は「国内の学協会問題」「著者IDについて」であり,多数の問題提起が行われた。例として,学協会とJPCOAR,JUSTICEなどの組織とのコミュニケーションの機会がほとんど無く,情報交換が難しいこと,そして著者IDと論文との紐づけ・名寄せの難しさ,などが挙がった。

 今回のセミナーでは,多様なステークホルダーの講演者から現状の問題と今後への取組例が紹介され,大学図書館としてどのような方向を目指してゆけばよいのか大きなヒントを得ることができた。大変有意義な時間をいただいたことに心より感謝申し上げる。

Ref:
https://www.nii.ac.jp/event/other/libraryfair/
http://id.nii.ac.jp/1458/00000184/
E1790
E1830
E1189
CA1960
CA1959