CA1959 - CHORUSダッシュボード・サービスと千葉大学附属図書館での取り組み / 高橋 菜奈子, 千葉 明子

PDFファイル

カレントアウェアネス
No.341 2019年9月20日

 

CA1959

 

CHORUSダッシュボード・サービスと千葉大学附属図書館での取り組み

東京学芸大学附属図書館(前 千葉大学附属図書館):高橋菜奈子(たかはしななこ)
千葉大学附属図書館:千葉明子(ちばあきこ)

 

1. はじめに

 千葉大学は、2016年3月に「千葉大学オープンアクセス方針」を策定した(1)。この方針では、学術雑誌等によって公表された教員の研究成果を機関リポジトリにより公開することを定めたが、一方で、査読済み学術論文の捕捉率は日本全体でみると6%に過ぎず、研究者自身に機関リポジトリにセルフアーカイブしてもらうことの難しさも指摘されていた(2)。このため、策定・承認の過程において、研究者に作業負担をかけない形でオープンアクセス(OA)を実現することが課題となっていた。

 本稿では、CHORUS機関ダッシュボード・サービス(3)を利用し、著者に作業負担があるグリーンOAでも、論文処理費用(APC)の費用負担があるゴールドOAでもない、第三のOAの道を探る取り組みを紹介する。

 

2. CHORUS機関ダッシュボード・サービスとは

 CHORUS(Clearinghouse for the Open Research of the United States)は、研究資金を得てなされた研究の成果を、容易かつ永続的に、発見可能、アクセス可能、検証可能とすることを目指して、資金助成機関、出版社、研究者、及び研究機関が研究論文のパブリックアクセスを実現することを支援するイニシアティブである(4)。運営は、米国に拠点を置く非営利団体CHOR, Inc.が行っている。

 CHORUSには、Elsevier、Wiley、Springer Nature等主要な学術出版社60社(5)(6)が加盟し、出版社ウェブサイトで“Publicly accessible versions”(出版社が受理した著者最終版、または出版社版のいずれかのバージョン)の本文ファイルを公開している。公開する本文ファイルのバージョンやエンバーゴの選択は出版社に委ねられている(7)。出版社が公開した著者最終版は出版社ウェブサイトで誰でも閲覧できるが、購読している電子ジャーナルを閲覧できる環境からアクセスした場合には、出版社版の本文ファイルが自動的に表示される。出版社による本文ファイル公開は、資金助成機関による研究成果のOA義務化への対応としてなされている。

 「CHORUSダッシュボード・サービス」(8)とは、CHORUS に加盟する資金助成機関10機関(9)(10)から助成を受けた研究で、CHORUS加盟出版社が出版した全ての論文の情報とOAの状況を、CHORUSがモニターしデータ提供するサービスである。日本の資金助成機関では、科学技術振興機構(JST)が加盟している。CHORUSダッシュボードで提供されるデータは、Crossref、Funder Registry(旧FundRef)、Scopus、ORCID、Scholix、Portico及びCLOCKSS、並びにAtypon等の電子出版インフラを用いて収集されている(11)(12)(13)。学術情報流通に関わる既存のインフラを連携させ活用し、情報提供していることが特長である(14)

 このダッシュボードには、研究機関向けと資金助成機関向けの2 種類がある。千葉大学が契約した研究機関向けの「CHORUS機関ダッシュボード・サービス」では、所属研究者の論文についてデータが提供され、(1)統計グラフの表示(CHORUS捕捉論文数の推移の線グラフ、出版社ウェブサイトでのOAが確認された比率等項目別の円グラフ、資金助成機関ごとの論文数の棒グラフ)(図1)、(2)データの抽出(DOIを含む論文単位のデータ、DOIとORCID iD(CA1740参照)を含む著者単位のデータ等)(図2)、(3)CHORUS捕捉論文の検索、といった機能を備えている。

 なお、JSTが契約した「CHORUSジャパン・ダッシュボード・サービス」(15)は、資金助成機関向けのもので、研究者の所属機関に関わらずJSTの助成を受けた論文についてデータが提供されており、ウェブ公開されている(16)

 

図1 CHORUS機関ダッシュボードの統計グラフ

 

 

図2 データ抽出画面

 

 

 

3. 機関リポジトリにおける取り組み

 千葉大学は、2016年8月から2017年5月の間、CHOR, Inc.と日本の資金助成機関であるJSTとの間で行われた「CHOR-JST試行プロジェクト」(E1844参照)(17)に参加し、そこでの検証を経て、2017年12月にCHORUS機関ダッシュボード・サービスを有償契約した(18)。実験的な取り組みとして、ダッシュボードにある論文情報を機関リポジトリに一括登録し、DOIを介して出版社ウェブサイトの本文へリンクするモデルと業務の流れを検討した。

 具体的な作業手順は以下の通りである。

  • (1) CHOR, Inc.によって出版社ウェブサイトでのOAが確認された論文のデータ(論文単位と著者単位)をダッシュボードから抽出。
  • (2) 論文単位のデータをjunii2形式のメタデータにExcelの関数を用いて一括変換。
  • (3)機関リポジトリにメタデータを一括登録し公開。
  • (4) 著者単位のデータから千葉大学所属研究者をKAKENデータベースで同定し、著者情報(NRID、日本語氏名)を機関リポジトリに追加登録。

 2019年6月までに計167件(2016年11月 14件、2017年1月 2件、2018年3月 63件、2019年6月 88件)の論文情報を機関リポジトリに登録し、CHOR, Inc.へダッシュボードの改善点をフィードバックした。

 

4. 評価

 CHORUSのサービスは、出版社ウェブサイトで雑誌に掲載された論文がOAになるという点においてはゴールドOAと似ているが、APCを支払うことなくオープンになるという点ではグリーンOAに近い。APCの費用増大が懸念される中、また、著者によるセルフアーカイビングの拡大にも限界が見える中、今回の実験を通じて、少なくとも短期的にはOA推進の手法として意義があることが確認できた。さらに、バージョン管理・エンバーゴ管理は出版社サイトで行われ、図書館での管理負担がない新たなデータフローと業務の流れを検討できたことにも大きな意義があった。加えて、CHORUSダッシュボードが日本の資金助成機関と研究機関にとって利用しやすいものになるよう実験を通じて様々な提言を行い、所属機関情報を含む著者情報が抽出データに追加される等、実際に改善がなされたことも評価している。

 CHORUS機関ダッシュボード・サービスによって、各機関の研究成果を容易に把握でき、機関リポジトリを介してメタデータを流通させることでビジビリティを上げることに更なる期待をかけているが、現時点での課題としては、以下の3点が挙げられる。

 第一に、機関の研究成果に対するカバー率である。試行段階でのカバー率は低かったが、現在ではCHORUSに加盟する出版社が増加し、カバー率も上昇している。対象となる資金助成機関もFunder Registryに登録されている資金助成機関へと段階的に拡大されている。日本の資金助成機関としては、日本学術振興会(JSPS)、日本医療研究開発機構(AMED)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も2019年1月に追加された(19)。ただし、CHOR, Inc.によるOAの状況の確認作業は、CHORUSに加盟する資金助成機関(現在10機関)に限られる点に留意が必要である。

 CHORUSダッシュボードの網羅性・即時性・情報の正確性・OA化率については、JSTが検証を続けているが(20)、捕捉漏れを防ぐため、論文投稿時にFunder IDやGrant Number、ORCID iDを入力するよう研究者へ周知することも必要である。

 第二に、CHORUSダッシュボードは書誌情報自体の提供を目的とはしていない。それゆえ、詳細な書誌情報を機関リポジトリに入力しようとすると、メタデータを補完しなければならない。提供されたDOIやORCIDの識別子を基にメタデータは他から取得することが今後の検討課題となる(21)。この点は、JPCOARスキーマ(22)の適用によって簡便になることを期待している。

 第三に、試行プロジェクトの初期段階においては、本文ファイルとして“Publicly accessible versions”を出版社から入手し、機関リポジトリに登録するべく千葉大学と出版社との間で交渉を行ったが、出版社の賛同は得られなかった。なお、フランスの学術機関コンソーシアムCouperinとElsevierとの新しい契約では、出版社からリポジトリへ本文ファイルの提供がなされるようであり(23)、今後、出版社の態度が変わることも期待したい。

 

5. 今後にむけて

 研究機関として、資金助成を受けた研究成果のOAの状況を簡単にモニターできることがCHORUS機関ダッシュボードの利点である。学内のリサーチ・アドミニストレーター(URA)へも情報提供し、研究成果のOA推進への協力を求めている。

 また、CHORUSダッシュボードの新機能として、2018年8月に論文に関連付くデータセットのDOIが追加され、この項目も抽出できるようになった。データセットの情報の活用も検討しているところである。

 本プロジェクトは、大学および大学図書館の立場からOAを実現する手法として戦略的に検討する必要がある。CHORUSが基礎とする、出版社ウェブサイトでの無料での論文ファイルの公開というOAの手法が、長期的に研究者と大学にとって持続可能な枠組みとなるのかを今後も注視していきたい。

 

(1) 千葉大学. 千葉大学オープンアクセス方針. 千葉大学学術成果リポジトリ CURATOR. 2016-03-10.
https://www.LL.chiba-u.jp/curator/about/doc/Chiba_Univ_OA_policy.pdf, (参照 2019-06-21).

(2) 尾城孝一. オープンアクセス推進と研究支援: 大学図書館の新たなチャレンジ. 第4回SPARC Japan セミナー2015, 2016-03-09.
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2015/pdf/20160309_doc2.pdf, (参照 2019-07-23).

(3) CHOR, Inc. “CHORUS Institution Dashboard Service”. CHORUS: Advancing Public Access to Research.
https://www.chorusaccess.org/resources/chorus-for-institutions/chorus-institution-dashboard-service/, (accessed 2019-07-23).

(4) CHOR, Inc. CHORUS: Advancing Public Access to Research.
https://www.chorusaccess.org/, (accessed 2019-06-21).

(5) CHOR, Inc. “Our Members”. CHORUS: Advancing Public Access to Research.
https://www.chorusaccess.org/about/our-members/, (accessed 2019-08-02).

(6) CHORUS加盟出版社数は、2019年5月26日付でCHOR, Inc.よりメールで回答を得た。

(7) CHOR, Inc. “Publisher Implementation Guide v2.2.1”. CHORUS: Advancing Public Access to Research. 2019-06.
https://www.chorusaccess.org/publisher-implementation-guide-v2-2-1/, (accessed 2019-07-23).

(8) CHOR, Inc. “Dashboard Service”. CHORUS: Advancing Public Access to Research.
https://www.chorusaccess.org/services/dashboard-service/, (accessed 2019-07-23).

(9) CHOR, Inc. “CHORUS Funder Participants”. CHORUS: Advancing Public Access to Research.
https://www.chorusaccess.org/resources/chorus-funder-participants/, (accessed 2019-08-02).

(10) CHORUS加盟資金助成機関数は、2019年5月26日付でCHOR, Inc.よりメールで回答を得た。

(11) CHOR, Inc. “How It Works”. CHORUS: Advancing Public Access to Research.
https://www.chorusaccess.org/about/how-it-works/, (accessed 2019-07-23).

(12) CHOR, Inc. “CHORUS Selects Scopus Data to Strengthen Its Services for Institutions and Funders”. CHORUS: Advancing Public Access to Research. 2017-11-07.
https://www.chorusaccess.org/chorus-selects-scopus-data-strengthen-services-institutions-funders/, (accessed 2019-08-02).

(13) CHOR, Inc. “New Framework for Linking Data”. CHORUS: Advancing Public Access to Research. 2016-06-24.
https://www.chorusaccess.org/new-framework-for-linking-data/, (accessed 2019-08-02).

(14) 時実象一. オープンアクセスの動向(1): オープンアクセスの義務化とその影響. 情報の科学と技術. 2014, 64(10), p. 426-434.
https://doi.org/10.18919/jkg.64.10_426, (参照2019-06-21).

(15) 科学技術振興機構. “論文のオープンアクセスに関して「CHORUSジャパンダッシュボードサービス」利用を開始”. 科学技術振興機構. 2017-10-11.
https://www.jst.go.jp/report/2017/171011.html, (参照 2019-06-21).

(16) CHOR, Inc. CHORUS Dashboard: Japan Science and Technology Agency.
https://dashboard.chorusaccess.org/jst#/summary, (accessed 2019-06-21).

(17) CHOR-JST試行プロジェクトの期間は、当初2017年2月までの予定であったが3か月延長された。

(18) 千葉大学附属図書館. “「CHORUS機関ダッシュボード・サービス」を契約しました”. 千葉大学学術成果リポジトリ CURATOR. 2017-12-01.
https://www.LL.chiba-u.jp/curator/news/index.html#n16 (参照 2019-07-23).

(19) 2019年5月26日付でCHOR, Inc.よりメールで回答を得た。

(20) 小賀坂康志. JSTにおけるオープンサイエンス・オープンアクセスの実践. Wiley Research Seminar Japan 2018. 2018-08-05.
https://impactforum.wileyresearch.com/wp-content/uploads/2018/08/Yasushi-Ogasaka201808.pdf, (参照 2019-06-21).

(21) 竹内比呂也 . CHORUS から機関リポジトリへ : 千葉大学CURATORにおけるDOIの活用. Japan Open Science Summit 2019. 2019-05-28.
https://opac.LL.chiba-u.jp/da/curator/106097/JOSS20190528_CHOR_CURATOR.pdf, (参照 2019-06-21).

(22) オープンアクセスリポジトリ推進協会. JPCOARスキーマガイドライン. 2017-10-27.
https://schema.irdb.nii.ac.jp/, (参照 2019-07-23).

(23) Clavey, Martin. Un accord de 4 ans entre Elsevier et la recherche francaise. The Sound Of Science, 2019-04-16.
https://www.soundofscience.fr/1754, (accessed 2019-06-21).

 

[受理:2019-08-07]

 


高橋菜奈子, 千葉明子. CHORUSダッシュボード・サービスと千葉大学附属図書館での取り組み. カレントアウェアネス. 2019, (341), CA1959, p. 8-11.
https://current.ndl.go.jp/ca1959
DOI:
https://doi.org/10.11501/11359092

 

Takahashi Nanako
Chiba Akiko
Evaluation of the CHORUS Dashboard Service through Initiatives in Chiba University Library