カレントアウェアネス-E
No.390 2020.05.14
E2256
第3回SPARC Japanセミナー2019<報告>
東京海洋大学学術情報課・小山美佳(おやまみか)
2020年2月7日,国立情報学研究所(NII)において第3回SPARC Japanセミナー2019「実践 研究データ管理」が開催された。
冒頭に,国際農林水産業研究センターの林賢紀氏から本セミナーの概要説明があった。オープンサイエンスを実現するための基盤として研究データ管理(RDM)が必要だが,具体的にどのように行っていくのか,管理は誰が行うのかに関する情報が乏しいことから,日々管理しているリポジトリ,図書館,研究支援管理ツール等についての事例報告を通して,明日から何をすべきか,何ができるかを考える機会としたい,とのことであった。
はじめに,名古屋大学附属図書館事務部/情報連携統括本部情報推進部の竹谷喜美江氏より「名古屋大学における研究データ基盤整備推進組織の整備について」と題した講演があった。名古屋大学では,2019年12月,研究データに関する取り組みを推進することを目的として,情報連携統括本部や附属図書館等といったステークホルダーを構成員とした研究データ基盤整備部会を設置したとのことである。部会の設置経緯や運営について,また,事務局として,各部署との事前打ち合わせ,課題の洗い出し・担当者同士の意識すり合わせ等の活動を行ったとの報告があった。今後は,情報連携統括本部を主担当とし研究データポリシーの策定を,附属図書館ではデータ公開の体制整備・人材育成等に,各部署と連携・情報共有して取り組んでいく予定とのことである。
続いて,公益財団法人野口研究所の山田一作氏より「糖鎖科学における研究データ管理」と題した講演があった。糖鎖科学分野においては,論文等での文字列表記・画像・一次構造・三次元構造等,糖鎖構造のデータの記述が統一されていなかったため,糖鎖構造の記号・文字列表記・ID付与等糖鎖科学における標準化に取り組むことになった。2013年に開催された国際会議の結果,糖鎖構造のリポジトリを構築すること,及びデータの品質向上のためのガイドラインを提唱することが合意され,2014年8月には国際糖鎖構造リポジトリGlyTouCan が公開された。また,糖鎖科学では質量分析法により糖鎖構造を解析するが,その際に生成するデータも重要であることから,これらのリポジトリとしてUniCarb-DRおよびGlycoPOSTが開発された。これらはガイドラインに基づいて作成されているため,データの参照が容易であり,研究者は正確な研究データを利用可能となっている。
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)の熊崎由衣氏からは「原子力機構における研究データポリシー策定に向けた検討」と題した講演があった。これまでRDMは各研究開発部門によってなされてきたが,国立研究開発法人に研究データの管理・利活用のための方針を2020年度末までに策定することを求めた2018年6月15日の閣議決定「統合イノベーション戦略」を受けて,RDMと公開に関する方針を定めた研究データポリシーの策定に向けた準備を行っているとのことである。職員や研究者へのアドボカシー活動,研究データ取り扱いの状況調査,研究者へのヒアリング等を行い,作成したポリシー案は内部公開し,集まったパブリックコメントの結果を反映させた上で研究開発成果管理委員会・役員による審議を行った。今後は,ポリシーの策定・公開,取り扱いに関する規程の制定,管理に関するガイドライン作成に取り組むが,研究開発分野が多岐にわたることから統一的な方針を策定する難しさがあるとのことである。また,研究者への負担増大により研究者本来の研究開発活動への影響の危惧,公開データの質や信頼性を確保するための技術の整備・人材育成等が今後の課題である。
NIIの込山悠介氏からは「研究データ管理サービスの概要と利用事例の紹介」と題した講演があった。学術機関におけるRDMの需要が高まりつつある中, NIIは,2020年度後半から,データ管理・公開・検索の3つの研究データのライフサイクルをサポートする総合的な研究データ基盤NII Research Data Cloudの一部として,RDMサービスGakuNin RDMを提供していくとのことである。研究推進と研究公正をサービス・ヴィジョンとするGakuNin RDMの機能・ツール,及び,利用者のユーザビリティー,実利用現場における業務フローとの適合性,及び導入運用における課題項目の抽出等を目的に全国の学術機関で実施中の実証実験におけるユースケースが紹介された。
最後に,オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR) 研究データ作業部会主査でもある北海道大学附属図書館の結城憲司氏より「JPCOARによる研究データマネジメント人材の育成と研究データに関する取組について」と題した講演があった。JPCOAR(E1830参照)が取り組んできたRDM人材の育成(教材の作成,研修の実施)の他,研究データに関する取り組み(データベースレスキュープロジェクト,RDM事例形成プロジェクト,JPCOARスキーマ等)について紹介があった。その他,大学ICT推進協議会研究データマネジメント部会での研究データ管理に関する提言や,研究データ管理に関するアンケートの雛形の公開,国立大学図書館協会オープンアクセス委員会における機関リポジトリの再定義やオープンサイエンスに向けて図書館が担う具体的な役割に関する文書の公開,「研究者に対する研究データ調査項目リスト(案)」についての紹介があった。
各講演を踏まえたパネルディスカッションでは,林賢紀氏に加え,バイオサイエンスデータベースセンターの八塚茂氏がモデレーターを務め,RDMにおける最大の課題とは何か,その課題に対して誰がどのような役割を果たすべきか,という話題を中心に活発な討論が行われた。RDMの推進に関連する他部署との連携は必要だが,連携しようというだけでは押し付け合いになってなかなか進まない,自分がやろう,摩擦を起こしても進めていこう,と熱意を持った人がいると促進していくのではないか,まず声をあげることから始まるのでは,等の意見が出された。
最後に,閉会挨拶として,NIIの木下聡氏より,オープンサイエンスやその実現の基盤となるRDMは日々実践的になってきているように感じられるが,令和時代がオープンサイエンスの花咲く時代になるよう,それを担う人達の熱意が更に広がっていってほしい,と発言があった。
本セミナーは,RDMの実践例の報告,RDMサービスとRDMを担う人材育成の取り組みの紹介等,RDMの最前線を知ることができ,今後の取り組みへの足掛かりとなる充実した内容であった。
Ref:
“第3回 SPARC Japan セミナー2019「実践 研究データ管理」”. 学術情報流通指針委員会.
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2019/20200207.html
“総合イノベーション戦略2019”. 内閣府.
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/index.html
“学術機関における研究データ管理に関する提言”. 大学ICT推進協議会研究データマネジメント部会.
https://axies.jp/report/publications/proposal/
“大学における研究データ管理に関するアンケート(雛形)”. 大学ICT推進協議会研究データマネジメント部会.
https://rdm.axies.jp/sig/24/
機関リポジトリの再定義について. 国立大学図書館協会オープンアクセス委員会.
https://www.janul.jp/sites/default/files/janul_redefining_the_institutional_repository_20190805.pdf
オープンサイエンスに向けて国立大学図書館が担う具体的役割. 国立大学図書館協会オープンアクセス委員会.
https://www.janul.jp/sites/default/files/janul_specific_role_for_open_science_20190412.pdf
江川和子. オープンアクセスリポジトリ推進協会の発足. カレントアウェアネス-E. 2016, (309), E1830.
https://current.ndl.go.jp/e1830