E2257 – 「国立国会図書館関西館書庫棟」の竣工

カレントアウェアネス-E

No.390 2020.05.14

 

 E2257

「国立国会図書館関西館書庫棟」の竣工

関西館総務課

 

   国立国会図書館は,納本制度に基づき,国内で刊行された出版物を網羅的に収集しており,収集した資料は,東京本館(1,200万冊収蔵可能),関西館本館(600万冊収蔵可能),国際子ども図書館(105万冊収蔵可能)の3施設に分散して保存している。所蔵資料の増加に対応した書庫の確保は,国立国会図書館の重要な課題となっているが,2002年の関西館開館から18年が経過し,東京本館,関西館ともに書庫の収蔵能力が限界に近づいてきたため,関西館第2期施設整備事業として,「関西館書庫棟」(以下「書庫棟」)を関西館本館(以下「本館」)の南側敷地に建設し,2020年2月に竣工した。

   書庫棟は,地下1階,地上7階の建物で,延床面積が約2万5,000平方メートル,収蔵能力は約500万冊である。2014年度から設計業務を開始し,2016年9月から建築工事が始まり,工期は3年半にもおよんだ。書庫棟という名称が表すとおり,書庫に特化した建物となっており,資料を保存するための様々な工夫がなされ,また,周辺の景観に配慮した外観デザインとなっている。

   本稿では,書庫棟の建築的特徴を中心に述べることとする。

●外観の特徴について

   書庫棟の高さは26.47メートルとなっており,本館よりも高さを低く抑え,かつ,建物の横幅を揃えることで,本館に付随する形で配置されている。外壁は書庫としての重厚感,緑豊かな風景との調和を考慮し,本館外構に設置されている修景滝の石の色をイメージした自然石が採用されている。

   その他,本館ガラスキューブ部に正対した書庫棟北側の1階から5階の一部をガラス壁面で構成し,本館から書庫棟にかけてガラスの連続性をイメージさせるデザインを採用した。これにより,書庫としての機能を備えながらも自然採光を実現するという機能性も併せて確保している点も特徴の一つである。

   また,外観上,最大の特徴とも言えるのが,書庫棟の東西壁面のデザインで,本の「天」と「地」の部分をモチーフにデザインされており,書庫として,資料や情報が増加するイメージを表すことを意図している(写真1)。

●内装の特徴について

   書庫棟は,1階から6階までを書庫スペースとして使用し,地下階は設備室,7階はファンルームとなっている。建物中央に吹き抜けの階段室を設け,その左右(東西)に書庫スペースを配置する。また,階段室に隣接して設置されているエレベーターは壁面がガラスで構成されており,吹き抜けの階段室と合わせて閉塞的になりがちな書庫に明るく開放的な空間を提供している。

   設置されている書架は手動ハンドルの集密書架(一部の固定書架を除く)となっており,主に図書・雑誌用と新聞用の2種類が設置され,それぞれ書架の幅と段数に違いがある(図書・雑誌用は幅900ミリメートル,新聞用は1,350ミリメートルとなっている)。

   また,書架のサイドパネルは通気性を良くし,カビなどの発生を抑制するため,穴あきのパンチングパネルが採用されている。サイドパネルは位置により色分けされており,書庫の北側を寒色系(藍色・水色),書庫の南側を暖色系(黄色,桃色)とすることで,窓がない書庫の中でも自分のいる位置がわかるように配慮されているのも特徴となっている(写真2)。

●書庫内環境への配慮について

   書庫内の温湿度については,本館書庫と同様,大切な資料を長く保存するため,資料の保存に最適とされる温湿度,室温22度(±2度)/ 湿度55パーセント(±5パーセント)を目安として,年間を通じて大きな変化がないよう,適正な保存環境に配慮した設定としている。また,外壁と書庫の間にバッファーゾーンと呼ばれる二重の緩衝帯を形成して,外気温の直接的な影響を抑制するような設計となっている。

   その他,消火設備も本館書庫と同様,万が一の場合に資料が水損しないよう,水を用いるスプリンクラーではなく,不活性ガス(窒素ガス)による設備を採用し,窒素ガスを噴射することで酸素濃度を11パーセント程度まで下げて消火できるようになっている。

   このように,書庫としての機能を有しながら,建築のデザインを高次元で融合させたスタイリッシュな建物となっており,準備が整い次第,書庫棟に資料を搬入する予定である。


写真1

写真2

Ref:
“関西館書庫棟完成!”. 国立国会図書館月報. 2020, (708), 巻頭1 p. 1.
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11460015_po_geppo2004.pdf?contentNo=1#page=3
“平成26年11月 国立国会図書館建築委員会が国会に対し関西館第2期施設(第1段階)の建設を勧告”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/kansai/about/history_201411.html