E2247 – 基山町立図書館による「きやまRESASデジタルアカデミー」

カレントアウェアネス-E

No.389 2020.04.23

 

 E2247

基山町立図書館による「きやまRESASデジタルアカデミー」

基山町立図書館・江上真太郎(えがみしんたろう)

 

●概要

   基山町立図書館(佐賀県)では,2017年より毎年「きやまRESASデジタルアカデミー」事業を行っている。当事業は経済産業省と内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が提供する地域経済分析システムRESAS(リーサス)を活用し,全国の地方公共団体のビッグデータで町を分析しながら,まちづくり関係の本も参考にしつつ,将来の町の課題を考えていくものとなっている。当事業は2019年には図書館総合展にて第5回図書館レファレンス大賞の奨励賞を受賞した。本稿では当事業について紹介する。

●背景

   2006年に文部科学省から発表された「これからの図書館像‐地域を支える情報拠点をめざして‐(報告)」に紙媒体と電子媒体の組合せによるハイブリッド図書館の整備という言葉がある。図書館のサービスでデジタルと本の情報を組み合わせる事業を何らかの形でできないかと思っていた。

   また当図書館のある基山町は住宅地開発を行い,2000年には人口が1985年の1.5倍近く急増した。しかし今は一気に高齢化が進んでいる。当図書館も行政機関の一つであり,町の大きな課題に対して何ができるかを考えなければと思っていた。

●RESASでの事業

   そのような中,上司よりRESASを使って何かできないか,との話があった。RESASはインターネット上のシステムで,誰でも無料で使え,全国の地方公共団体の人口・経済・産業・観光の状況などを簡単に比較することができる。便利なシステムだと思ったが,これを図書館の事業として行うとなると,操作するだけでは物足りない気がした。

   最初に述べたハイブリッドな図書館,そしてまちに役立つ図書館。そのテーマで考えたときに,RESASでまちを分析した後,そこで見つけた課題を参加者自身に考えてもらうコンセプトはどうかと思った。

   RESASでは将来の人口推移をシミュレーションすることができる。そこで2040年の当町の人口ピラミッドを見ると恐ろしいほどの現実が見えてくる。これは国・地方公共団体だけではとても手に負えないのでは,と感じた。人口減少が言われて久しいが,実際私たちがそれを肌で感じることは少ない。だが今からの社会はあらゆる分野の構造が劇的に変化する。まずはそれを認識すること,そして地域ごとに違う事情をもとに,そこで暮らす人自らが対策を考えていくことは重要なことだと思う。

   事業名は「きやまRESASデジタルアカデミー」とし,住民が地域の将来を自らで考えていくという目標を据えた。具体的には3回の内容に分け,1回目はRESASの操作の研修およびまちの分析を行う。2回目は分析をもとに,課題を明らかにし,これからどうすればいいかをグループに分かれて具体的に考える。3回目はそれを町長にプレゼンするという形をとった。しかしデータは現在の状況は示してくれても,変わりゆく先の解決策までは示してくれない。そこで図書館ならではの取り組みとして,まちの課題の解決策を考えるときに,本の展示とブックトークを行った。内容は人口減少の本,データの見方の本,まちづくりの本,町の福祉計画や定住調査などの行政資料である。限られた時間の中で資料を活用してもらうために,ジャンル別に分け,本の内容を要約したPOPも作成した。特にブックトークを行った後は,参加者の資料への関心が一気に深まった。情報をいかに司書が発信していくかということの大切さを感じた瞬間だった。

   また事業の中では,こんな情報や本はないか,といった質問が参加者から発せられる。それに答えることこそ司書の役目であり,まさにレファレンスである。意外だったのは行政資料の活用である。普段利用は多くないが,RESASにはない町独自のデータが沢山眠っている。改めて行政資料の重要性を感じた。

   早いものでこの事業も2019年度で3年目を迎えている。2018年度の高校生の提案は,地域内外の高校生がふるさと大使となって,Instagramを通じて当町の魅力的スポットを発信するというものであった。発案者である高校生の,「若者はホームページを見ません,SNSです」との言葉はウェブサイト中心の情報発信をしがちな筆者には目から鱗だった。この提案は町長も何らかの形で実施したいと言っている。また81歳の参加者の提案は,高齢化はマイナスでなく,健康寿命を伸ばす取り組みを行うことで元気な高齢者が町を活性化するという内容だった。自身が高齢者であるからこその視点だと言えよう。参加者の様々な視点からの提案は行政にはないユニークさと鋭さもある。なお提案書は当図書館のウェブサイトで公開している。

   前述した人口減少時代を前に,この事業を通じて住民が町の将来を認識し,我が事として考えるようになったのは,民主主義の観点からも有意義ではないかと思う。地域の人材は素晴らしい可能性を秘めている,その可能性を様々な方法で見いだせれば,そう感じた次第である。

   冒頭に書いたハイブリッドな図書館の形は筆者自身今も模索中である。今後は人工知能(AI)やロボットなどの技術革新も進んでいき,情報を巡る環境は更に変わっていくだろう。しかし好奇心を忘れず様々な新しい技術に触れ,情報を活用する環境をデザインしていくこと,そういった思考は今後図書館でもますます必要とされると思う。デジタル時代の図書館はまさに今から私たちが作っていくものだからである。事業終了後の参加者とスタッフの達成感を交えた満足げな笑顔を見ると,住民の力を引き出す図書館に,地域の未来を開く大きな可能性を感じている。

Ref:
“2018年きやまRESASデジタルアカデミーを行いました!”. 基山町立図書館.
https://www.kiyama-lib.jp/topic/RESAS/2018RESAS.html
“2019年きやまRESASデジタルアカデミーを行いました!”. 基山町立図書館.
https://www.kiyama-lib.jp/topic/RESAS/2019/2019RESAS.html
RESAS 地域経済分析システム.
https://resas.go.jp/#/13/13101
“第5回図書館レファレンス大賞 最終審査・授賞発表”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/forum/2019/8418
これからの図書館の在り方検討協力者会議. “これからの図書館像-地域を支える情報拠点をめざして-(報告)”. 文部科学省. 2006-03.
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286794/www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06032701.htm