CA1956 – 国際子ども図書館の中高生向けサービス:調べものの部屋と調べもの体験プログラム / 小熊有希

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カレントアウェアネス
No.340 2019年6月20日

 

CA1956

 

国際子ども図書館の中高生向けサービス:調べものの部屋と調べもの体験プログラム

国際子ども図書館児童サービス課:小熊有希(おぐまあき)

 

1. はじめに

 国立国会図書館国際子ども図書館(以下「当館」)には、中高生の調べものに役立つ資料を開架した「調べものの部屋」(1)がある。そこでは、一般的な閲覧サービスだけでなく、図書館の利用方法や図書館資料を用いた調べ方を体験して学ぶことができる「調べもの体験プログラム」(2) (3)を中高生向けに提供している。2016年2月に調べものの部屋を開室し、同年4月に調べもの体験プログラムの提供を開始してから、3年余りが経過した。本稿では、これらについて経緯などにも触れながら紹介する。

 

2. 調べものの部屋:開室までの経緯

 当館では2000年の開館以来、子どもへの直接サービスを行ってきたが、親子連れで来館する未就学児や小学生向けが中心だった。中高生については、修学旅行や校外学習での見学を多数受け入れてきたものの、所蔵資料を活用して、中高生を読書や図書館利用に導く手立てを講ずるまでには至っていなかった。

 中高生向けのサービスについては、この年代の読書離れが問題になっている昨今(E1682 参照)、一層の充実が課題となっている。当館でも、国立の児童図書館として、全国の図書館関係者や学校関係者の参考になるモデルを示す必要がある。そこで、2015年度に当館の増築棟が竣工することに伴うリニューアル事業の一つとして、中高生向けの資料室である調べものの部屋の開室に取り組むこととした。

 開室準備(4)に当たって参考にしたのは、国内の学校図書館である。中高生に特化した資料室作りのノウハウを得るため、学校図書館の視察や有識者へのヒアリングを重ねた。2012年から2013年にかけては「中高生向け調べものの部屋の準備調査プロジェクト」(5)として、充実した活動を行っている学校図書館の蔵書データの統計的な分析等を行い、その結果を蔵書構築の考え方に反映させた。

 

3. 調べものの部屋の概要

 調べものの部屋は図書約1万冊と新聞5タイトル、雑誌6タイトルを開架し、閲覧席15席、蔵書検索用端末2台等を用意している。

 調べものの部屋のコンセプトは、本を通して中高生に知の世界の奥深さの一端を感じてもらうことである。調べるための資料に特化しつつ、体系的な調べものには不向きでも、中高生の知的好奇心を喚起し、探究するきっかけになるようなノンフィクションやルポルタージュも備えたバラエティ豊かな書架になっている。読解力や前提知識、関心分野が様々な中高生に対応するため、この年代向けに書かれた資料のほか、小学校高学年向けから一般書、大学教養レベルまで織り交ぜて、あえて資料の難易度に幅を持たせている。開室に際しての集中的な蔵書構築作業が落ち着いたことから、2018年度には改めて選書方針を定め、より魅力的な資料室にすべく、日々選書を行っている。

 調べものの部屋は、後述する調べもの体験プログラムでも活用(6)されている。

 

図1 調べものの部屋

 

 

図2 調べものの部屋平面図

 

 

4. 調べもの体験プログラムの概要

 当館が位置する上野公園(東京都台東区)には、博物館等の文化施設が集中しており、修学旅行や校外学習で多くの中高生が訪れる。調べもの体験プログラムは、そのような中高生を主な対象とし、1時間から2時間程度で気軽に調べものを楽しんでもらうことを前提に検討した(7)。学校での活動の一環としての参加を想定しているため、原則的に学校からの事前申し込み制である。サービスを開始した2016年4月から2019年3月までの3年間で延べ85校、約1,200人の参加があった。中学校と高校の比率はおよそ2対1で中学校が多く、数は少ないが中高一貫校で中学生と高校生が一緒に参加する例も見られた。参加校の所在地は、都内と関東圏内が大部分を占めるが、東北、中国、九州といった遠方の学校からも主に修学旅行で利用されている。

 職業学習や図書委員活動での参加もあり、人数も5人又は6人のグループからクラス単位までと幅がある。多様なニーズに対応するため、6つのコース(8)を用意している。

 6つのコースは調べものに重点を置いた4コースと創作性の強い2コースに大きく分けられる。前者には「調べもの対戦コース」「調べものクイズコース」「館内探索スタンプラリーコース」「クイズ出題対決コース」があり、いずれもクイズ形式の問題を調べて解くことをベースとしつつ、参加可能な人数や形式等が少しずつ異なっている。後者には「ストーリー創作コース」と「POP広告作成コース」の2つがある。本から情報を読み取るという点では調べものと共通する要素も含まれるが、ストーリーやPOP広告を作るといった、よりクリエイティブな課題に取り組む。それぞれのコースの3年間の実施件数は次のとおりである。

 

表1 2016年4月から2019年3月までの各コース実施件数(9)

コース名 件数
調べもの対戦コース 14件
調べものクイズコース 24件
館内探索スタンプラリーコース 19件
クイズ出題対決コース 9件
ストーリー創作コース 10件
POP広告作成コース 9件

 

 

5. 調べもの体験プログラムの流れ

 調べもの体験プログラムの流れを調べもの対戦コースを例に紹介する。調べもの体験プログラムは、見学と合わせて90分ほどで実施することが多い。表2は、タイムスケジュールの一例である。

 

表2 タイムスケジュールの一例

内容 時間
当館の概要説明・見学 40分
ルールと「調べ方のコツ」の説明 10分
【第1問】出題→回答→解説
    (出題・回答8分+解説4分)
【第2問】出題→回答→解説(同上)
【第3問】出題→回答→解説(同上)
36分
アンケート 4分

 

 問題に取り組んでもらう前には、ルールとともに、OPACの使い方、NDCの仕組み(10)、OPACでの検索キーワードの考え方、目次・索引の使い方という図書館で調べる際の4つのポイントを「調べ方のコツ」としてパワーポイントのスライドで説明を行う。調べもの対戦コースでは、数人のチームに分かれて1問ごとに調べる速さを競う。1問ずつ出題し、1チームでも正解が出るか、制限時間が過ぎたら回答時間が終了となる。その後、当館職員が検索キーワードの例や参考となる本など具体的な調べ方の解説をする。このコースでは各チーム不正解が続いた末に制限時間終了間近に正解が出るなど、白熱した勝負になることもある。ゲーム要素が強く、チーム内での連携が必要となるため、にぎやかに楽しみたい場合におすすめしている。

 

6. 本とインターネットの併用

 調べものに重点を置いた4コースは、本を使った調べものを体験してもらうことを主眼に置いているが、あえて本だけでなくインターネットの検索エンジンも利用できることにしている。中高生の多くは日常的にスマートフォンやPCを用いて「ググる」調べものに慣れており、調べもの体験プログラムの場でも慣れた手段に手が伸びがちである。インターネットで気軽に情報を検索できる環境に身を置きながら、本の有用性や面白さを実感できる体験を目指している。

 出題する問題にはインターネット検索では調べにくい要素を織り込み、少しだけ「いじわる」している。例えば、ある問題は、インターネットで検索しても結果にノイズが多くなかなか必要な情報にたどり着けないが、前述の「調べ方のコツ」を踏まえて調べものの部屋の本を使えば正解できるようになっている。

 回答時間終了後の答え合わせの際には、本を用いた場合だけでなくインターネットを用いた場合の調べ方についても解説する。あえて「いじわる」をした点についても、検索エンジンの機能や検索演算子を使うなどの工夫によって解決できる場合には、その手法も紹介する。本とインターネットという2つの調べものの手段の間で試行錯誤しながら情報を探索する体験が、参加者の調べものの幅を広げるきっかけになればと考えている。

 課題もある。参加者はSNSやブログの記事など出典が不確かな情報源を参照していても、結果的にクイズに正解すれば満足してしまうことがある。単に情報を探す調べものから一歩踏み込み、「信頼できる情報源を選ぶ」「情報の正確性を確認する」といったプロセスも含めて調べることの面白さを体験してもらうためには、さらなる工夫が必要だと感じている。

 

図3 調べもの体験プログラムの様子

 

 

7. 今後にむけて

 新たな中高生向けサービスを開始してから3年が経過し、運営は軌道に乗ってきた。2018年度には、国立国会図書館が図書館関係者向けに提供する講師派遣型研修(11)のメニューに「国際子ども図書館の中高生向けサービス」を追加した他、司書に調べもの体験プログラムを体験してもらう試みを始めるなど、図書館関係者や学校関係者に向けて当館の取組について説明する機会も徐々に増えつつある。学校司書からは、「短時間で実施できる調べもの体験プログラムは学校図書館でのオリエンテーションの参考になる」といった感想も寄せられている。現在のサービスのブラッシュアップを続けながら、そこで得たノウハウの発信にも今後は力を入れていきたい。

 

(1) “調べものの部屋”. 国立国会図書館国際子ども図書館.
http://www.kodomo.go.jp/use/room/teens/index.html, (参照 2019-03-22).

(2) “見学・体験(中高生向け)”. 国立国会図書館国際子ども図書館.
http://www.kodomo.go.jp/use/tour/youth.html, (参照 2019-03-22).

(3) 永野祐子. 特集, これからのYAサービスに向けて: 国際子ども図書館の中高生向けサービス : 調べものの部屋と調べもの体験プログラム. 図書館雑誌. 2018, 112(5), p. 310-311.

(4) 開室までの経緯の詳細については以下もご参照いただきたい。 堤真紀. 調べものの部屋の開室. 国際子ども図書館の窓. 2016, (16), p. 33-39.
https://doi.org/10.11501/10198325, (参照 2019-03-22).

(5) 国立国会図書館国際子ども図書館. 学校図書館におけるコレクション形成 : 国際子ども図書館の中高生向け「調べものの部屋」開設に向けて. 2014, 104p., (国際子ども図書館調査研究シリーズ, no.3).
https://doi.org/10.11501/8484023, (参照 2019-03-22).

(6) 図2のとおり、調べもの体験プログラムは、閲覧スペースに隣接する専用のスペースで実施している。参加者は調べもの体験プログラムスペースと書架を行き来して、課題に取り組む。

(7) 検討段階からの経緯については以下もご参照いただきたい。ただし、同文献の公表時以降にコースの改廃を行ったため、現状とは異なる部分も含まれている。
舟串宙. スマホ世代は非デジタルな情報探索を楽しめるのか : 調べもの体験プログラムが試みたこと. 国際子ども図書館の窓. 2016, (16), p. 40-45.
https://doi.org/10.11501/10198325, (参照 2019-03-22).

(8) 目的によってどのコースがおすすめかを整理した表を国際子ども図書館ウェブサイトに公開している。
“調べもの体験プログラム 各コースかんたん比較表”. 国立国会図書館国際子ども図書館.
http://www.kodomo.go.jp/use/tour/pdf/comparison_program.pdf, (参照 2019-03-22).

(9) 年度ごとに多少のコース名・内容の変更があるが、ほぼ同内容のコースをまとめて集計した。

(10) 中高生が日常的に利用する図書館と同じ使い勝手で調べものの部屋を利用できるようにするため、蔵書の分類には、学校図書館や公共図書館で一般的なNDCを採用している。

(11) “図書館員の研修”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/training/index.html, (参照2019-03-22).

 

[受理:2019-05-14]

 


小熊有希. 国際子ども図書館の中高生向けサービス:調べものの部屋と調べもの体験プログラム. カレントアウェアネス. 2019, (340), CA1956, p. 32-34.
http://current.ndl.go.jp/ca1956
DOI:
https://doi.org/10.11501/11299460

Oguma Aki
Services of the International Library of Children’s Literature for Junior High and High School Students- Teen’s Research Room and Research Practice Programs