カレントアウェアネス
No.339 2019年3月20日
CA1944
図書館総合展の20年
白百合女子大学基礎教育センター:今井福司(いまいふくじ)
図書館総合展は年1回10月または11月に開催される、日本の図書館業界では最も大規模な入場無料のトレードショーである(1)。公共図書館・自治体、大学・研究組織、企業・専門機関といった各種図書館関係者だけでなく、学生や一般の来場者も訪れるこのイベントは1999年に始まり、2018年で20周年(第20回)を迎えた。本稿では、図書館総合展の20年について、各種の記録(2)を踏まえながら論じていく(3)。
1. 図書館総合展のはじまり
雄松堂書店(現丸善雄松堂株式会社)の代表取締役の新田満夫氏(故人)は、古書・稀覯本を取り扱う業務の傍ら、世界各地のブックフェアを視察するなどしていた(4)。その一環として米国図書館協会(ALA)の年次大会(E2054ほか参照)、国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2078ほか参照)などを訪れていた。そこに、様々な図書館関連企業や関連団体が出展している様子を見て、日本でもこのような催しができないかと構想したという(5)。
雄松堂書店のグループ企業で、新田氏が社長を兼ねていた株式会社カルチャー・ジャパンの企画・運営により、1999年10月13日から15日まで「Library Fair’99 第1 回図書館総合展」が東京・有楽町の東京国際フォーラムで開かれた。図書館総合展のはじまりである。
第1回は「21世紀の図書館:ネットワークと図書館」をテーマに掲げ、書籍、出版、印刷、製本、映像、データベース、情報、流通、設備、建築、設計、コンピューターなどの業種から62社が出展した(6)。会場では5つのテーマゾーンによる展示が行われるとともに、14のセミナーと講演会が開かれた(のちに、これらをフォーラムと呼ぶようになる)。「国際古書展」も併催された(7)。会期中の総入場者数は1万4,535人で、当時の日本図書館協会(JLA)の関係者によれば、この種の展示会の来場者動員数としては大成功の人数だったようだ(8)。
2. 図書館総合展の概要
その後、来場者数は毎年増加を続け、第5回には2万人を超えた。第6回からは、会場使用時期の都合から横浜・みなとみらいのパシフィコ横浜へと移転している。現在では来場者数3万人を超えるイベントに成長している(表を参照)。
表 図書館総合展の開催期間、会場、来場者数
回 | 開催期間 | 開催場所 | 来場者数 |
1 | 1999年10月13日~15日 | 東京国際フォーラム | 14,535 |
2 | 2000年11月16日~18日 | 東京国際フォーラム | 17,761 |
3 | 2001年11月15日~17日 | 東京国際フォーラム | 18,023 |
4 | 2002年11月20日~22日 | 東京国際フォーラム | 18,205 |
5 | 2003年11月4日~6日 | 東京国際フォーラム | 20,182 |
6 | 2004年11月24日~26日 | パシフィコ横浜 | 17,635 |
7 | 2005年11月30日~12月2日 | パシフィコ横浜 | 19,978 |
8 | 2006年11月20日~22日 | パシフィコ横浜 | 22,087 |
9 | 2007年11月7日~9日 | パシフィコ横浜 | 23,090 |
10 | 2008年11月26日~28日 | パシフィコ横浜 | 23,036 |
11 | 2009年11月10日~12日 | パシフィコ横浜 | 24,493 |
12 | 2010年11月24日~26日 | パシフィコ横浜 | 24,505 |
13 | 2011年11月9日~11日 | パシフィコ横浜 | 25,631 |
14 | 2012年11月20日~22日 | パシフィコ横浜 | 27,357 |
15 | 2013年10月29日~31日 | パシフィコ横浜 | 29,963 |
16 | 2014年11月5日~7日 | パシフィコ横浜 | 31,632 |
17 | 2015年11月10日~12日 | パシフィコ横浜 | 34,359 |
18 | 2016年11月8日~10日 | パシフィコ横浜 | 31,355 |
19 | 2017年11月7日~9日 | パシフィコ横浜 | 30,701 |
20 | 2018年10月30日~11月1日 | パシフィコ横浜 | 31,774 |
第6回からは開催地である横浜市との連携関係も始まり、第14回からは横浜市中央図書館を会場としたフォーラムも開催されるようになった(現在は行われていない)。
第10回からは「一層のスキルアップ・スケールアップ」のため「学術研究機関・学会・大学研究室・専門分科会等及び文書館・美術館・博物館などの参加も不可欠である」との認識のもと(9)、「学術情報オープンサミット」を併催、第17回からはこれをさらに「教育・学術情報オープンサミット」と改称、第20回では、美術館関係者のための総合展「Art Museum Annuale2018」を併催する、というように、周辺領域への拡張を続けている。
海外諸機関との連携にも積極的である。中国国家図書館(NLC)、ALA、台湾大学等々からの講師を招聘するのみならず、ALAとは広報・交流についての提携を文書で取り交わしている。また図書館総合展運営委員会(以下「運営委員会」)は丸善雄松堂との共催で、ALA年次大会への見学研修ツアーを毎年行っている。
図書館総合展の運営は、出展企業・団体、大学教員、出版社からそれぞれ数人が参加する運営委員会を主催者とし、前掲の株式会社カルチャー・ジャパンが運営事務局をつとめている。運営委員会は月1回の定例会議を開催しその主催企画や開催の枠組み等を合議制によって決定している。この体制は第1回から大きな変更はない。また、現役図書館員を中心に50人程度の運営協力委員がいて、議事録を共有しまたイベント実務にも参加している。
3. 主催者企画・フォーラム
本展は、多彩な出展者が各々に趣向を凝らした展示やフォーラムを行う多様性に特徴があるが、ここでは運営委員会による企画を中心に動向を見ていく。
ごく初期から行われている企画としては「図書館へのおすすめ本」展示がある。第1回は34社、125点の出展に留まっていたが、第14回から展示のみではなく発注システムとも連動した企画となり、第20回では、283社、約1,600点の出展であった(10)。
運営委員会主催のフォーラムも特徴的である。運営委員会主催フォーラムが設定されたことにより、出展企業フォーラムの扱いにくい話題、カバーしきれない話題についても取り扱えるようになっており、それが本展のもつバラエティ感の演出となっている。初期には「図書館と図書館員のサバイバルプラン」と銘打った図書館に関わる法律問題を扱うフォーラムや、顧客満足を図るためのPR方法、図書館関連企業の概要を扱う運営委員会主催フォーラムが人気を博していた。第20回の現在では17の運営委員会フォーラムが開かれている。「全国学生協働サミット」、「学術情報のこの1年」、「グレートブックス」、「コラーニング」など定例企画となっているものもある。第1回では2つの会場で14のフォーラムが行われたが、現在では9つの会場で91のフォーラムが開かれており、フォーラムだけで1万3,242人もの参加がある。
なかでも、図書館界の流れを定点観測的に追える企画としてLibrary of the Year(CA1669,E2102参照)は特筆すべき企画であろう。第8回から開始した同企画は現在まで図書館総合展のフォーラム枠で最終審査会が行われてきた(現在の主催は知的資源イニシアティブ(IRI))。詳細は関係者の回顧(11)に譲るとして、第17回から開始された地方創生レファレンス大賞(CA1918参照)とともに、毎年新しい図書館の取り組みを目撃できる貴重な場面といえよう。
またこの種のトレードショーとしてはユニークな取り組みとして、学生来場者への対応が挙げられる。ビジネスショー本来の目的から考えれば、「学生」は現今、直接の取引相手ではない。しかし、本展運営委員会またおそらく出展者にとっても、彼らは将来、業界仲間・同僚になるかもしれない層、将来の顧客になるかもしれない層であるとの共通認識のもと、第14回から入場者のカテゴリとして「学生」を設定している(12)。また第16回からは学生がより展示を理解しやすくするための「図書館に関心をもつ学生のための展示ブースツアー」が開催されている(E1893参照)。
そして、これらの定型枠には収まらない企画を受け入れる枠として、第16回からは小規模なプレゼンテーションを行うための「スピーカーズ・コーナー」、第17回からは製作体験・ワークショップを中心とした参加型コーナーとして「メーカーズ・ラボ」(13)を設定している。さらに「来場者がPRする側にまわる企画」として、図書館の公式マスコットを全国にお披露目する「図書館キャラクターグランプリ」(E1760参照)や、展示企画「こんなにあります!あなたも使える専門図書館」、「全国の災害アーカイブ実施図書館」、「新館さん いらっしゃい!」を開始、第19回からは図書館総合展の広報番組として「総合展ラジオ」というポッドキャスト番組を開始している。これらが重なり、単なるトレードショーの枠を超えたイベントという印象を与えるようになりつつある(14)。
そして年1回のパシフィコ横浜での展示会だけに留まらず、2011年の京都を皮切りに各地での地域フォーラムも開かれるようになり、関東での一イベントから全国的なイベントへと発展してきている(E2035ほか参照)。
4. おわりに
以上、図書館総合展の20年の概要を振り返った。このように年1回のお祭りのような雰囲気を持ちながら、図書館業界の先端・トレンドを提示していく場所が図書館総合展であると筆者は考えている。今後、このイベントがどこまで継続するかは未知数である。ただ、毎月の運営委員会で交わされている最新動向の情報や、新しい取り組みに柔軟な組織であること、そしてある年に来場者であった図書館員や学生が数年後には出展側に回っていたり、運営協力委員に加わったりといった関係者の入れ替わり循環が絶えず起こっていることを踏まえると、少なくともしばらくは現在の規模を維持できると考えている。第21回の開催に向けてすでに準備も開始している。
会期中の事務局となっている展示ホールD11室には初日に50人以上のスタッフ証が置かれ、20人以上のボランティアやアルバイトスタッフが常に動いている。そして来場者のために各出展ブースの担当者は、前日から設営にかかりきりになる。言うまでもなく、フォーラム、ポスターセッションの登壇者は、会期前から準備に取り組んでいる。数多くの方の尽力によって、3万人の来場者を迎えるイベントが支えられている。本稿で1人1人の方の名前を挙げることはできないが、図書館総合展運営委員としてこの場を借りて深く御礼申しあげたい。
本来であれば、小さなエピソードも拾い上げて紹介したい(15)ところであるが、紙幅の都合上叶わなかった。この記事を契機に各所で「私と図書館総合展」と題した話題がやりとりされることを願っている。
(1) 毎年のように、来場者からは参加しやすい土日の開催をとの要望が寄せられている。仮に土日の開催が可能であるかとのシミュレーションも行っているが、出展企業にとっては休日出勤になることから負担増になる、また会場使用コストが増大することにより、現在無料としている入場料を有料にしなければいけないとの見通しから実現には至っていない。
(2) 本稿の執筆にあたり、図書館総合展事務局より過去のパンフレットおよび開催記録の提供を受けた。
(3) なお、図書館総合展は印刷媒体での記事化が希である。その代わり、インターネット上での記録はかなり多く、代表的なものとしてはTwitterの投稿アーカイブサイトであるTogetterが挙げられる。Togetterでは第14回(2012年開催)から図書館総合展の投稿まとめが行われており、参加者による当時の反応も含め、詳細に開催の様子を知ることができる。また、カレントアウェアネス・ポータルでも図書館総合展に言及した記事を多く見つけることができる。
(4) 新田満夫の業界通信. Vol.4 BOOK FAIR をご存じですか. 丸善雄松堂. 1999-05.
https://myrp.maruzen.co.jp/timewithbook/industryreports_4/, (参照 2019-01-04).
(5) 図書館総合展運営委員会. “総合展ラジオ第7回”. YouTube.
https://www.youtube.com/watch?v=rvxWd0xCk_I, (参照 2019-01-04).
運営委員会委員長の飯川昭弘氏の発言より。また、図書館総合展に初期から関わっていた高山正也氏の回顧によれば、1986年8月にIFLA東京大会が日本で開かれた際に、栗原均氏、高橋徳太郎氏の尽力により展示会が併催され、好評を博したことも大きかったという(第20回図書館総合展フォーラム「図書館これまでの20年とこれからの20年」での高山氏の講演より)。
(6) 第1回図書館総合展開催:図書館に関する初めてのイベント. Pinus. 1999,(48), p. 24-25.
(7) 新田満夫の業界通信. Vol.8 1000年代、人類の発明は. 丸善雄松堂. 1999-11.
https://myrp.maruzen.co.jp/timewithbook/industryreports_8/, (参照 2019-01-04).
(8) 合庭惇. 電子出版の周辺No. 33:第1回図書館総合展. 出版ニュース. 1999, (1853), p. 38.
(9) 第10回図書館総合展ガイドブックより。
(10) 第1回の数字は図書館総合展ガイドブックより、最新のデータは以下のウェブページから確認した。
“図書館へのおすすめ本”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/recommendation, (参照 2019-01-04).
(11) 福林靖博. 総特集, Library of the Year の軌跡とこれからの図書館:Library of the Year とは何か : 10年間の経緯を振り返って. LRG=ライブラリー・リソース・ガイド. 2015, (13), p. 6-14.
岡野裕行. 総特集, Library of the Year の軌跡とこれからの図書館:「良い図書館」を「良い」と言い続ける未来のこと. LRG=ライブラリー・リソース・ガイド. 2015, (13), p. 15-54.
ふじたまさえ. 総特集, Library of the Year の軌跡とこれからの図書館:Library of the Year10年の記録. LRG=ライブラリー・リソース・ガイド. 2015, (13), p. 55-89. (12) 第14回ガイドブックより。
(13) “会場内イベントのご案内(スピーカーズ・コーナー、メーカーズ・ラボ)”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/news/7705, (参照 2019-01-04).
(14) “総合展ラジオYouTube プレイリスト”. YouTube.
https://www.youtube.com/playlist?list=PLy-3j04ZbzMCWyVME9ttJkj-pqZq5efkR, (参照 2019-01-04).
(15) 例えば、第15回図書館総合展の出展者インタビューや、各種出展団体の個別の動きなどは割愛した。
“主催者・出展者・参加者インタビュー”. 第15回図書館総合展.
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8830598/2013.libraryfair.jp/node/1282, (参照 2019-02-05).
[受理:2019-02-05]
今井福司. 図書館総合展の20 年. カレントアウェアネス. 2019, (339), CA1944, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1944
DOI:
https://doi.org/10.11501/11253590
Twenty Years of Library Fairs in Japan