E2217 – 図書館総合展2019フォーラムin大阪<報告>

カレントアウェアネス-E

No.383 2020.01.16

 

 E2217

図書館総合展2019フォーラムin大阪<報告>

宮津市立図書館・有山尚利(ありやまなおとし)

 

 2019年9月28日,大阪市にあるYMCA国際文化センターを会場に,2019年3回目の図書館総合展地域フォーラム(CA1944参照)が開催された。3回目のテーマは「open」である。フォーラムは,第1部に関西の各機関・グループで活躍する8人の登壇者によるリレートーク,第2部に協賛企業によるプレゼンテーション,第3部に「OpenGLAMの可能性を再度考える」というテーマで講演・報告が行われた。

 第1部では福島幸宏氏(東京大学大学院情報学環)が司会を務め,それぞれの登壇者が自身の活動や「オープンデータ」「Open」についてリレートークを行った。1人目の井上昌彦氏(関西学院大学職員)が,「マインドをOpen」にして,「オープンデータ」や「アーカイブ」に関して現在行われている事業・活動を知り,多くの人と密接に対話することが「Open」に関わる上で大切というトークをし,他の各登壇者の報告に移った。

 伊達深雪氏(京都府学校司書,edit Tango)からは,市民が自身の手で郷土資料を調査し,オープンデータ化する「Wikipediaタウン」(CA1847参照)の取り組みを行っている「edit Tango(エディット丹後)」グループの活動紹介があった。山崎竜洋氏(五條市教育委員会文化財課)からは,奈良県五條市における古文書の目録データのウェブ公開事業についての報告が行われた。砂川佳子氏(和歌山県立文書館)からは,2018年から公開している「和歌山県歴史資料アーカイブ」についての報告があった。

 きたむらきよこ氏(ししょまろはん)からは,「本に出てくる京都のおいしいもののデータ」「図書館員が調べた京都のギモン~京都レファレンスマップ~」などのオープンデータ作成活動をしている京都府立図書館自主学習会「ししょまろはん」の紹介があった。大月英雄氏(滋賀県県政史料室)からは,公文書・行政文書のデジタルアーカイブ化に関する滋賀県県政史料室での取り組み等に関する報告が行われた。天野絵里子氏(京都大学学術研究支援室)からは,京都大学における機関リポジトリの取り組みと,データ・情報の収集・オープン化における課題,例えば現状の制度では公開できない情報があること,必要なリソースが不足していること等が報告された。大久保ゆう氏(青空文庫/京都橘大学)からは青空文庫と「文学忌」に関するSNS上での取り組みが報告され,「文豪・文学」に関心がなかった人に関心を持ってもらう工夫について紹介があった(E2061参照)。

 第3部は江上敏哲氏(国際日本文化研究センター)の司会で行われた。古賀崇氏(天理大学)は,「OpenGLAM」に関する近年の動向,「歴史資料」やアート領域での情報アーカイブ活動の紹介,また「OpenGLAM」の促進の戦略として学校教育・教材への展開,「GLAM」の教育・教材化や,司書や学芸員などのGLAM関係の資格を取得する学生に対する「Open」への意識教育,それ以前に一般教員への「OpenGLAM」教育が重要という講演を行った。外丸須美乃氏(大阪市立中央図書館)からは,大阪市立図書館におけるブックリスト等のオープンデータコンテンツやデジタルアーカイブの画像等のオープンデータ化(CA1925参照)について事業報告があった。原田隆史氏(同志社大学)は,「OpenGLAM」がなぜ推進されないのかという点について,情報をオープン化する際に「GLAM」側で,この情報の活用方法は何かと考えてしまい,重要な情報や活用が見込まれる資料を優先していることが,データのオープン化が進んでいないことの一因であるとし,情報の有用性を判断するのは利用者なので,まずは情報を「Open」にしてしまうべきと講演した。特に原田氏の講演は,会場全体から笑い声が上がるなど刺激的な内容で多くの聴衆が熱心に聴講していた。

 今回のフォーラムでは,Wikipediaから古文書,県全体で行われている事業から個人的な学習会で取り組まれている活動など,非常に幅広い報告がされ,どの報告も魅力的であった。筆者個人が興味深かったのは,第3部の原田氏も指摘されていたが,今回のフォーラムで紹介された各活動・事業の中には莫大な資金や人員・労力,特別な技術を用いずに行われていたものも多かったということである。「こんな活動であれば自身も参加したい」もしくは「自身でも実践できるのでは」と考えさせる報告が多数あり,今まで「Open」に対して興味・関心がなかった者でも情報をオープンデータとして公開する必要性・重要性を感じることのできる,言わば「「Open」への入門編」のようなフォーラムであったように感じた。

 情報は持っているだけでは活用されない。今回報告された取り組みが注目されること,そして「Openなマインド」を持った人が増えていくことを期待したい。

Ref:
https://www.libraryfair.jp/news/8483
https://www.libraryfair.jp/news/9339
https://www.city.gojo.lg.jp/soshiki/bunka/1_1/4/1411.html
https://www.lib.wakayama-c.ed.jp/monjyo/archive/index.html
http://libmaro.kyoto.jp/
https://www.pref.shiga.lg.jp/kenseishiryo/
E2061
E1942
CA1944
CA1847
CA1925