カレントアウェアネス-E
No.355 2018.10.04
E2061
第27回京都図書館大会<報告>
2018年8月20日,同志社大学寒梅館ハーディホール(京都市)で第27回京都図書館大会が開催された。本大会(E1839ほか参照)は館種を越えた図書館関係者の連携を図り,研鑽を積むことを目的として1992年から年1回開催されている。第27回大会では情報提供の場としての図書館の在り方を見つめ直すべく,「図書館の可能性について~多様化する図書館~」と題し,研究者,図書館員,出版関係者,翻訳家等の多様な立場の登壇者から発表がなされた。
午前中は慶應義塾大学名誉教授の田村俊作氏より「多様化する図書館:歴史的視点から」と題して基調講演が行われた。田村氏は図書館の現状を振り返るうえで,現在に至るまでの背景が明らかになる点や,図書館の歴史をより広い視点から相対的に捉えられるという点において,歴史的経緯を押さえておく意義があると述べた。そして,都道府県立図書館の位置づけの変化を例に挙げ,環境や時代の要請に応じて図書館の業務は変わりうることを示した。次に公共図書館の新たな動向として,子ども読書支援活動としてのビブリオバトル(CA1830参照)の実施や図書館資料の新たな収集の在り方として東近江市立図書館(滋賀県)による地域紙発行の事例(E1547参照),既存の蔵書の捉え直しとして千代田区立千代田図書館(東京都)での内務省検閲本のコレクション化の事例が挙げられた。また,2018年の米国図書館協会(ALA)年次大会(E2054参照)の様子が紹介され,日本の公共図書館の取り組み事例が発表され好評を博していたことが語られた。最後に,図書館における事業実施にあたっては職員が企画力を発揮し,他機関と連携を視野に入れつつ,自館の資源を活かして展開させることが重要となると述べ,講演を締めくくった。
午後には,事例紹介が3件発表された。最初に,特定非営利活動法人地域資料デジタル化研究会の丸山高弘氏から「山中湖情報創造館での取組み~未来もつくるモノコトづくり図書館~」と題した発表がなされた。同氏は山中湖情報創造館(山梨県)の指定管理に携わっており,電子図書館(E1644参照),人型ロボットPepperの導入(E1856参照)等の同館での様々な取り組みについて紹介した。また,欧米の図書館の新たな動向に常に目配りしていることや,自館の取り組みを積極的にSNSで発信するなど新たな実践を行うにあたっての情報収集・発信のノウハウについても紹介があった。
その後,本に関わる様々な活動を行っている宮迫憲彦氏から,「本を届けるということ」と題し,様々なチャネルを通じて本を届ける活動について紹介があった。宮迫氏は,京都市内の外国文学を中心に取り扱う書店Montag Booksellersや,映画館に併設された書店CAVA BOOKSの運営に携わっている。本に関する企画を進める上で心がけている点に関して,企画の対象者をなるべく明確化する,様々な専門を持つ人々に携わってもらい,各自の専門に応じた仕事を積極的に振り分けるようにするなどのポイントを挙げた。また,情報を入手する手段や娯楽が多様化している現代において,同氏が本を届ける上で意識しているのは,本が好きな人に本を届けるだけではなく,本にあまり関心のない人に手に取ってもらうことであると述べた。
次に,京都橘大学の大久保友博(ゆう)氏から「スマホから文学へ:ゲーム・マンガを通じて全集を読む若い世代」と題して,若者の間で流行する文豪をキャラクター化したゲームやマンガが,文豪の作品受容に変化をもたらしていることが紹介された。同氏は,青空文庫(E715参照)の中心メンバーとして活動しているほか,文豪をキャラクター化したマンガ『文豪ストレイドッグス』の監修にも携わっている。同氏は文豪をキャラクター化したコンテンツを通じて,文豪とその作品に親しむ若者が増加している現象である「文豪ブーム」を紹介し,彼らが文学作品それ自体だけでなく,作家本人および同時代の作家との関係性に高い関心を抱いていると述べた。それは文豪の交友の記録を熱心に辿る,文豪にゆかりのある「聖地」を訪問するなどの傾向に現れているという。文豪への愛着心の到達点として文学全集を購入することがあり,その動機のひとつに単行本では未収録の書簡集等を読む目的があると述べた。大久保氏はこうした受容の在り方によって,文豪の定義が文学の大家としての作家本人を指すのみならず,作品や他の作家との関係性を含んだ集合体へと変化していると述べ,「文豪ブーム」は文学の新たな受容の一形態として位置づけられうると締めくくった。
最後にフロアから寄せられた質問に答える形でパネルディスカッションが行われた。登壇者それぞれの立場から,中学生・高校生向けの読書支援活動などについて意見が述べられた。また,本に触れる機会を多様化することや,イベントを企画する際に図書館や本の可能性を主催者自身が面白がることの重要性について言及された。
今回の大会で提示された多様な取り組みの紹介や異業種間の対話は,今後の図書館の在り方をより広い視点から検討する上で有用であると思われる。
関西館図書館協力課・小野恵理子
Ref:
https://www.library.pref.kyoto.jp/?page_id=14824
http://montagbooksellers.com/
http://cvbks.jp/
https://www.aozora.gr.jp/
E1839
E1547
E2054
E1644
E1856
E715
CA1830