E2060 – TPP11整備法の成立と図書館:保護期間延長問題を中心に

カレントアウェアネス-E

No.355 2018.10.04

 

 E2060

TPP11整備法の成立と図書館:保護期間延長問題を中心に

 

 2018年6月29日,参議院本会議において「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(平成30年法律第70号;以下「TPP11整備法」)が可決,成立した。この法律については,成立までの過程が若干複雑であり,本論から外れる部分もあるが,成立にいたるまでの経緯を概観しておきたい。

 2013年7月から日本が交渉に参加した,環太平洋パートナーシップ協定(以下「TPP12協定」)には,著作権等の保護期間を20年延長する条項が存在していた。そのTPP12協定へ参加するにあたって,関連する国内法の規定の整備を目的とした,「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(平成28年法律第108号;以下「TPP整備法」)が2016年12月に国会で可決,成立した。TPP整備法には,保護期間の延長などの著作権法を改正する規定が含まれており,TPP12協定発効後,施行されることとなっていた。しかしその後,2017年1月に米国が交渉・締結からの離脱を表明したため,TPP12協定は事実上発効できない状況となった。TPP12協定は米国を除く11か国で再度交渉が行われ,2018年3月に11か国が署名し,環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下「TPP11協定」。2018年9月現在未発効)となった。TPP11協定では,著作権等の保護期間を20年延長する条項は凍結されていたが,TPP整備法,冒頭で述べたTPP11整備法においても,20年延長の条項が引き続き残されており,TPP11整備法の可決,成立によって,「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定が日本国について効力を生ずる日」(署名国のうち6か国が手続完了の旨を事務局に寄託してから60日後)を以て,著作権等の保護期間の延長等の著作権法の改正事項が発効することが確定した。

 こうした経緯を受け,改めて今回の著作権法改正のポイントをまとめると,以下の5つの点が挙げられる。

  1. (1)著作権等の保護期間の延長
  2. (2)著作権等侵害罪の一部非親告罪化
  3. (3)アクセスコントロールの回避等に関する措置
  4. (4)配信音源の二次使用に対する報酬請求権の付与
  5. (5)損害賠償に関する規定の見直し

 今回のTPP11整備法のなかで,図書館員として最も関心があるのは,(1)の著作権等の保護期間の延長(TPP整備法第8条による著作権法第51条等)であろう。現行の著作権法において,保護期間については原則,著作者の死後50年,団体名義,無名,変名の著作物については,公表後50年となっている。また,実演,レコードについてはそれぞれ実演が行われた日,レコードの発行日の属する年の翌年から起算して50年という規定になっている。これらについて,いずれも今回の法改正で保護期間が70年に延長される(映画は現行の著作権法においても保護期間が公表後70年であり,また放送及び有線放送についてはそれが行われた日の属する年の翌年から起算して50年であるが,これらは今回の法改正で延長されない。)。

 日本でも,大学図書館や公立図書館等において,デジタルアーカイブの構築を行っているところが多く見られる。現状では,アーカイブの対象となる資料については,古典籍資料など,著作権処理の不要な資料が中心となっている。古典籍資料などのデジタルアーカイブが一段落したので,次は少し時代を下って,資料の経年劣化が進んでいる明治期以降のものから,昭和戦前期の資料についても,デジタルアーカイブの構築を検討している図書館もあるだろう。今回の保護期間の20年の延長により,後述する裁定制度の活用の機会が必然的に増えることとなる。また,複写サービスへの影響も必至であると考えられる。

 折しも現在,内閣府を中心として,「デジタルアーカイブジャパン推進委員会」が立ち上げられ,デジタルアーカイブの連携の強化と利活用に向けての取り組みが,国を挙げて推進されているところである。デジタルアーカイブの利活用の機運が盛り上がりつつあるなかで,今回の著作権等の保護期間の20年の延長が,コンテンツのさらなる充実という目的に対して少なからず影響が生じてしまう点については,図書館員という立場に加えて,一利用者としても残念に思うところである。また,いわゆる孤児著作物についても,保護期間の延長を機にさらに増加してしまうことも懸念される。さらに学術研究やイノベーションへの影響も考えられることから,この問題に対しては,国公私立大学図書館協力委員会からも,これまでパブリックコメント等を通じて,著作権等の保護期間の延長については反対の意思表示を行ってきた経緯がある。孤児著作物については,著作権者不明等の場合の裁定制度が存在するが,図書館からの裁定申請の件数は少数であるという。現在,この裁定制度の利活用を促進するため,文化庁委託事業として「著作権者不明等の場合の裁定制度の利用円滑化に向けた実証事業」(E2020参照)が行われているが,今後こうした取り組みに対して,図書館として積極的に関わり,制度に対する理解を深めていく必要がある。

 国公私立大学図書館協力委員会大学図書館著作権検討委員会では,「大学図書館における著作権問題Q&A」(現時点での最新版は第9版)を同委員会のウェブサイト上で広く公開している。TPP11整備法の施行に伴う変更点についても,追って対応していく予定である。

 なお,著作権法第31条の「図書館等における複製等」は,権利制限規定であり,今回のTPP11整備法の施行の影響を受けるものではないことを最後に確認しておきたい。

国公私立大学図書館協力委員会大学図書館著作権検討委員会・服部光泰

Ref:
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/196/meisai/m196080196062.htm
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/tpp2015.html
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/192/meisai/m19203190047.htm
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/index.html
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048&openerCode=1
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoki/h27_08/pdf/sanko_8.pdf
https://julib.jp/wordpress/wp-content/uploads/2016/07/copyrightQA.pdf
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