E2020 – オーファンワークス問題解決に向けて:シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.346 2018.05.17

 

 E2020

オーファンワークス問題解決に向けて:シンポジウム<報告>

 

 2018年3月31日をもって,2017年度の文化庁「著作権者不明等の場合の裁定制度の利用円滑化に向けた実証事業」,通称「オーファンワークス実証事業」が終了した。これはオーファンワークス実証事業実行委員会が受託した2回目の文化庁実証事業である。終了にあたり,2018年3月9日に,シンポジウム「オーファンワークスと裁定制度・その未来とは?」が行われた。本稿では,シンポジウムで報告された,実証事業に至る経過とその成果及び課題について述べていきたい。

 まず,この実証事業を説明するにあたっては,その基本コンセプトが成立したオーファンワークス勉強会から始めるべきであろう。オーファンワークス勉強会は,「自炊」と呼ばれる書籍の電子化を行うことについて,許諾事業化を検討していた蔵書電子化事業連絡協議会(Myブック変換協議会)にそのルーツがある。2013年に設立されたこのMyブック変換協議会は,当時盛んに行われていた自炊代行業を違法行為であるとしながらも,社会的なニーズがあることを踏まえて,公益社団法人日本文藝家協会,一般社団法人日本写真著作権協会,公益社団法人日本漫画家協会などの権利者団体と,この事業に賛同する企業等が集まって合法的な許諾事業としての成立を目指していた。超高齢社会における個人の蔵書処理問題,障害のある人々へのアクセス拡大等を,このスキームを実現することで,解決することができるのではないか,と考えていたのである。

 結果としては様々な問題から事業化に至らなかったが,ここで書籍の電子化における著作権問題の解決については,法制度と許諾事業を組み合わせて解決することが効果的であるとの結論を得ることができた。そして,このような出版物の利用においては,多くの場合,許諾を得ることが不可能である「オーファンワークス」と呼ばれる著作権者不明の著作物への対応が,最も重要であることが明らかとなったのである。

 Myブック変換協議会の成果を踏まえ,具体的にオーファンワークス問題を解消する手段として,権利者の不明な著作物を利用するための文化庁の裁定制度(E1785CA1873参照)を利用する許諾事業の検討が行われ,広い分野の権利者団体に参加が呼び掛けられた。この結果,元から参加していた,文芸・写真・漫画分野に加え,美術・グラフィック・脚本・シナリオ・音楽という幅広い分野の権利者団体の参加を得て,2015年にオーファンワークス勉強会が設置されたのである。

 このオーファンワークス勉強会において,現在の基本コンセプトである問題解消については,権利者が率先して行うべきであること,また,持続的な事業として裁定制度の利用円滑化が必要であることなどが確認された。これは権利者団体が幅広く結集して事業を行うという点でも画期的であったが,利用円滑化についての事業であることも日本のみならず,世界的にも例をみない企画であった。

 この結論を受けて,文化庁が実証事業を委託し,権利者団体はオーファンワークス実証事業実行委員会を組織して,実証が開始された。第1回実証事業は,2016年10月に受託し,3回の裁定申請を行った。具体的な内容としては,裁定利用のニーズを利用者から受け,著作権者の探索や補償金額の見積もりなど,裁定申請に必要な作業を,実行委員会が利用者の代わりに行い,申請を行う,というものであった。更に2017年,より多くの申請実績を得るために,2016年度から期間を延長して第2回実証事業が実施された。ここでは第1回実証事業をより実用化するために,業務フローの整備などが行われた。この結果,最終的に16件の利用者からの利用要請に基づき,3,404点の著作物について裁定申請を行った。

 このような経緯で実施に至ったオーファンワークス実証事業であるが,大きな成果としては,権利者団体が積極的に裁定制度の利用円滑化に取り組む基本的な体制が整った,という点にある。これは今後の著作権問題解決に向けて,大きな力となっていくであろう。

 そしてこの事業の提示した問題点は,大量の処理が必要となる分野があり,その分野については制度的なアプローチが必要である,ということである。具体的には試験問題の二次利用や図書館等によるアーカイブ化とインターネット公開などの用途については,他のアプローチが必要だと考えられる。

 権利者による許諾事業は,今後,人工知能(AI)が大量のコンテンツを学習し,そして複雑にコンテンツを生成する時代に,創作のサイクルを擁護しつつ,裁定制度の利用の円滑化を図るための重要なポイントとなるであろう。Myブック変換協議会からオーファンワークス問題の解決策が生まれたように,今度はこの許諾事業から次の課題解決策が生まれてくることを期待している。

一般社団法人日本写真著作権協会・瀬尾太一

Ref:
https://jrrc.or.jp/orphanworks/
https://jrrc.or.jp/orphanworks/2018/019/
https://jrrc.or.jp/orphanworks/wp-content/uploads/2018/03/orphanworks2018.pdf
E1785
CA1873