E1938 – 「国立国会図書館資料デジタル化の手引」2017年版を公開

カレントアウェアネス-E

No.329 2017.07.27

 

 E1938

「国立国会図書館資料デジタル化の手引」2017年版を公開

 

 国立国会図書館(NDL)は2017年4月,「国立国会図書館資料デジタル化の手引」(以下「手引」という)の2017年版を公開した。

 「手引」は,NDLの所蔵資料を画像としてデジタル化する際の仕様を共通化し,技術を共有することを目的に,2005年11月に初版を公開した(E413参照)。今回は,2011年版(2011年8月;E1215参照)以来の2回目の改訂である。資料デジタル化に関する技術動向及び国内外の規格に係る内容を更新するとともに,2011年の改訂以降のデジタル化作業においてNDLが蓄積してきた知見を追加し,情報を再整理した。

 NDLでは,2009年度補正予算による大規模デジタル化(E1193参照)に代表される規模の大きなデジタル化の際に得られた知識と経験を踏まえて,実務に即して内容を見直し,「手引」の刊行・改訂を行ってきた。大量にデジタル化を実施する場合においては,効率的な作業管理と品質管理の観点が欠かせない。そのような状況のもとで改訂された2011年版の内容を踏襲しつつ,2014年度補正予算による災害対応力強化のためのデジタル化(災害・防災関係資料等約8万8,000冊をデジタル化)など,その後の仕様改善の検討成果及び実務的な知識・留意事項等の内容を反映し,改訂したのが2017年版である。

 2017年1月現在,国立国会図書館デジタルコレクションには,262万点以上のデジタル化資料が搭載されており,膨大なデータを長期的に維持管理する必要がある。単にデジタル化して終わりとするのではなく,これまでの手法を弛まず見直し,長いタイムスパンでのデータの維持管理がより容易になるような形でのデジタル化を志向する必要がある。2017年版における改訂は,この観点を重視している。

 以下,2011年版と比較した2017年版の主な改訂点を列挙する。

  • 第2章「デジタル化の技術」及び第3章「画像データ等の作製」については,内容の関連性に基づいて構成順序を大幅に見直した。例えば,解像度,圧縮率,カラースペース,階調といった画像データに関する項目を「2.2 デジタル画像の仕様」の下に集約した。
  • 規格の改訂及び他機関の動向・仕様等については,可能な範囲で追加調査し,書き換えを行った。
  • デジタル化の新規担当者にとって有用と思われる情報を新設又は項目を格上げして補足するなど,基礎的な内容を拡充した。例えば「2.3 カラーチャート」では,主要なカラーチャート4種類の特徴を解説した。また,「3.1.2 作業場所」を新設し,原資料を適切にスキャニングするために必要な作業環境や注意事項を示した。「4.4 品質チェックツール」では,JPEG2000形式の画像ファイル検査に用いられる代表的なソフトウェアを2点紹介した。
  • 原資料の取り扱い方法に関する実務的な注意事項を加えた(第3章)。「3.1.4 事前調査」や「3.1.5.3 スキャニング作業」において,手袋や指サックの使用可否,資料の置き方,スキャニング時の注意点等を解説した。
  • 「品質検査」については,第4章「画像データの品質検査」及び第5章「デジタル化のプロジェクト管理」において,実態にあわせて評価や検査方法,検査ポイント等の説明を変更・追加した。例えば「4.6 ファイルの同一性チェック」として,画像等のデータの欠損や重複をチェックする手法を紹介した。また,「5.2.1 進捗管理」においては,進捗の遅れが発生し,委託業者から再計画が示された際に,発注側として注意すべき点等を追記した。
  • 参考資料3「デジタル化仕様書サンプル」については,他機関から古典籍資料等貴重な所蔵資料のデジタル化に関する仕様の問い合わせが多かったことも考慮し,図書用のサンプル仕様書に代えて古典籍資料などの貴重資料用のサンプル仕様書を掲載した。
  • 参考資料4「著作権処理」については,文化庁長官裁定の手続変更(E1785CA1873参照)に合わせ,事務処理方法等を更新した。

 また,今回の改訂を機に印刷版の刊行を止め,PDF版のみとしたことも大きな変更の一つである。インターネット上で利用することを念頭に,容易に検索できるような用語の解説等は一部削除した。PDFファイルは,国立国会図書館デジタルコレクションに登録しているが,NDLウェブサイトの「国立国会図書館資料デジタル化の手引」のページからもリンクにより案内している。

 基本的に,NDLでデジタル化を担当する実務者向けの資料として作成しているが,上述のとおり,サンプル仕様書について他機関からの問い合わせが多かった貴重資料用のものを採用するなど,NDL以外の機関でも参照されることを意識して改訂を行った。参考になる部分があれば,是非ご活用いただきたい。

関西館電子図書館課

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/digitization/guide.html
https://doi.org/10.11501/10341525
E413
E1215
E1193
E1785
CA1873