カレントアウェアネス-E
No.329 2017.07.27
E1937
図書館員に研究マインドを:実務と理論双方の発展のために
Theory without practice is empty;Practice without theory is blind.
(実践なき理論は空虚であり,理論なき実践は盲目である。)
2017年2月,オーストラリア図書館協会(ALIA)は,同国のチャールズスタート大学との共同研究報告書“Relevance 2020 LIS Research in Australia”を公開した。
報告書の冒頭でも紹介されている上記の言葉にあるように,理論と実務の相互理解は,双方の発展に必須であり,同国の図書館界でも,様々な取組が行われてきた。しかし,学界での研究は必ずしも現場の課題を解決し,方向性を示すものになっておらず,また,図書館員も研究成果に無関心で実務にいかしていないなど,現実は理想と程遠いという。本報告書は,そのような現状認識のもと,研究者と図書館員が,調査の優先度が高いと考えるテーマや,研究を進めるにあたって感じている課題の違いを把握し,その差を解消することで両者の連携を促し,図書館界での研究文化の進展をもたらすために行なわれた調査の成果である。
調査は,2016年9月から11月にかけて,全6州の州都で,現地の図書館情報学の研究機関が主催するイベントとして行われた。各回,基調講演や実務に基づいた研究の事例報告に加え,ワークショップ(WS)が開催され,図書館情報学の研究機関の学生・研究者や,専門・TAFE(職業教育機関)・学校・公共の各図書館の職員等,合計172人が参加した。報告書は,当日の記録や事後に実施したオンライン調査の結果を分析し,まとめたものである。
WSでは,参加者がグループに分かれて,職場や研究において調査の優先度が高いテーマをあげることから始められた。計96のテーマが示され,報告書では,これらを,2014年にALIAが図書館情報学の近年の研究テーマを調査した際の主題に基づき,16の研究領域(選書,教育,歴史,情報行動,情報リテラシー,情報組織化,情報資源,情報検索,情報サービス,情報理論,経営,広報,法規,図書館の責務,研修,その他)に分類している。
次に,報告書では,上記研究領域のWSでの発言数と,研究者や図書館員によってこの5年間に発表された論文の数を比較している。結果,発言数が多いテーマでは図書館員が発表した論文数も多い傾向がある一方,「情報サービス」「広報」等発言が多かったテーマで,研究者の論文が少ないものがあり,両者の優先度に差があるテーマが存在することが明らかとなった。また,最も発言が多かった「図書館の責務」「経営」は,研究成果が多数発表されている分野であり,図書館員が,そのような研究成果を把握できていないことも指摘している。その後,WSでは,研究者の指導のもと,提示したテーマを研究上の「問い」に落としこむ作業を行なった。報告書では,立てられた「問い」が,日常業務の改善を目的としたものが多かったと指摘する。
続いて,WSでは,研究と実務や,研究者と図書館員が連携するにあたっての課題と,研究を促進させるための要因について議論が行われた。課題として,「職場の理解」「共通の関心を持つ人との連携」「研究費の捻出」「研究への情熱の維持」「職場の研究文化や研究活動への支援」「研究のための専門知識の獲得」「研究者と図書館員間の課題の共有」の7つが示され,また,37の促進要因があげられた。報告書では,一連の促進要因を活用して課題を解消する必要性を述べるが,図書館員と研究者が考える促進要因には,類似点と相違点があることから,その比重を勘案して,推奨事項を定める必要があるとし,以下の通り検討している。
まず,比重は高くないが,研究者と図書館員双方が必ず言及するものとして,助成金の重要性を指摘する。報告書では,助成額は,多額である必要はなく,少額の助成金を獲得する機会があれば十分であるとの図書館員の発言を紹介している。また,図書館員が研究する場合,勤務時間外に行う必要があることから,業務量の削減,研究時間の拡大,研究倫理の審査の簡素化が,促進要因として高く評価されている。その他,図書館員は,研究にあたっての研究者からの助言や訓練,所属機関からの様々な支援,関係者との連携を重要な促進要因として評価していると指摘する。
以上から,報告書では,関係者に対し,次の事項を推奨している。まず,図書館・図書館員は,日常業務に研究を加え,エビデンスに基づいた専門職になるべきとする(CA1625参照)。次に,図書館情報学の研究者や研究機関へは,図書館員と学界の媒介役を積極的に担うとともに,応用研究は理論研究に劣るという認識を改め,図書館員が優先的と考えているテーマにも取り組むべきとする。そして,ALIAに対しては,研究に関する情報のデータベースの構築や,計画的な助成金制度の構築等を通じた,両者のギャップを埋める役割を,引き続き担うよう求めている。
2016年11月に開催された第64回日本図書館情報学会研究大会シンポジウムでは,研究者と図書館員の連携の必要性が指摘されている(E1879参照)。日本においても,両者が連携して,図書館情報学・図書館サービス双方を発展させることが求められているといえよう。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
https://www.alia.org.au/media-releases/launch-alia-report-relevance-2020-lis-research-australia
https://read.alia.org.au/sites/default/files/documents/alia-relevance-2020-lis-research-in-australia-online.pdf
E1879
CA1625