カレントアウェアネス-E
No.107 2007.05.30
E653
EBLIPは専門性を変容させるのか?(第4回EBLIP国際会議報告)
2007年5月7日から3日間にわたり,米国ノースカロライナ州ダーラムで,EBLIP(E583,CA1625 参照)の第4回国際会議が開催された。総合テーマ「EBLIPを通して専門性を変容する」のもと,分科会3会場での口頭発表38本が行われたほか,会場ロビーに設けられたポスター展示のコーナーでは20本以上のポスター発表も行われた。また講演も前回が2本であったのに対して今回は5本が行われ,いずれも充実したものであった。
EBLIP国際会議は,2001年英国で開催された第1回の会議以降,カナダ,オーストラリアで開催されてきたが,米国で開催されるのは今回が初めてである。米国をはじめ,英国,カナダ,オーストラリア,ニュージーランドなどの英語文化圏のほか,デンマーク,トリニダード・トバゴ,スウェーデンなどからあわせて200名以上の参加もあり,活発な議論が行われた。
初日の基調講演では,2004年に図書館・情報専門家協会(CILIP)会長を務めたヘインズ(Margaret Haines)が,これまでEBLIPのコンセプトのプロモーションと実践を積み重ねてきたことを踏まえ,問題自体にフォーカスしてきた段階から,その問題の具体的解決にフォーカスする段階にあるとして,これからEBLIPが成熟期に入るとの認識を示した。
口頭およびポスター発表の内容は,図書館業務の多様な局面でエビデンスをどのように導き出し,適用するのかを基本にすえつつも,図書館業務の設計,アウトカム評価,蔵書構築,利用者のニーズ理解,レファレンスサービスの質的向上など,バラエティに富んだものであった。日本からも,永田治樹(筑波大学)が口頭発表を,酒井由紀子(慶應義塾大学信濃町メディアセンター),小田光宏(青山学院大学)および筆者がポスター発表を行った。
最終日には,ディベート“EBLIP: Clear, simple,- and wrong? A friendly debate”が行われた。EBLIPは,明確で,単純で,そして間違っているとして批判する立場にプルーチャック(T. Scott Plutchak)に対して,EBLIPの中心的推進者の1人であるブース(Andrew Booth)が,『不思議の国のアリス』などを引用しつつ,ユーモアたっぷりに持論を繰り広げた。これまでのEBLIPに対するストレートな批判と,それに対するEBLIPの理論と実践の変遷をたどる内容となっており,興味深いディベートであった。
EBLIP国際会議は,2年後の2009年にストックホルム(スウェーデン)で開催される予定である。英語文化圏を中心に成長してきたEBLIPがはじめて非英語圏の国で国際会議を行うことになる。今後2年間で議論がどのように深まり,実践が展開されていくのか,また実践を支える環境がどのように整備されるのか,今後の動向が期待される。
(国立国会図書館: 依田紀久)
Ref.
http://www.eblip4.unc.edu/
http://www.eblip4.unc.edu/downloads/eblip4_final_smaller.pdf
http://www.kaken-evidence.jp/
E583
CA1625