E1644 – 電子図書館サービス実証実験@山中湖情報創造館

カレントアウェアネス-E

No.274 2015.01.22

 

 E1644

電子図書館サービス実証実験@山中湖情報創造館

 

 2014年10月14日,株式会社日本電子図書館サービスと特定非営利活動法人地域資料デジタル化研究会とによる,電子書籍のニーズの把握と検証を兼ねた,山中湖情報創造館での電子図書館サービス実証実験が開始された。期間は2015年3月31日までのほぼ半年間。原稿執筆時においては実験開始後3か月に満たない時点ではあるが状況報告をしてみたい。

利用状況

 2014年12月31日において貸出可能な電子書籍は1,823点。図書館向けの電子書籍の提供に賛同するKADOKAWA,学研,講談社,筑摩書房,文藝春秋,インプレス等の出版社の協力による充実した作品群での提供である。また利用者においては山中湖情報創造館の利用者登録者(暗証番号登録者)が利用可能であり,のべ総ログイン数1,294回,のべ電子書籍貸出数836点という結果となった。これが多いか少ないかという判断はあろうが,期間中にNHK甲府放送局による「NEWSまるごと山梨」において山梨県立図書館での電子書籍貸出の実績が年間800点ほどという数字があがっていた。村立図書館で2ヶ月あまりでほぼ同等の数字ならば,悪い数字ではないと考える。しかしながら,諸外国における電子図書館の利用を見聞きするにあたり,もう少し多くてもよいのではないか,まだ周知も含めて不足しているのではないか,という思いがある。

電子図書館サービスの周知

 当館では,山中湖村広報の「山中湖情報創造館だより」をもって村民への電子図書館サービスの周知を行っている。また,ホームページ,ブログの他,TwitterやFacebookページなどを開設し,同サービスについての情報提供を行っている。当然ながら,電子図書館サービスに関する館内へのポスター掲示や使い方も記したリーフレットを作成し配布も行っている。

 私はこれまで電子図書館の利用者像は,図書館の利用者のうち,スマホやタブレットでの読書に抵抗がない層…という集合図で考えており,きわめて小さい対象層であろうと予想していたが、実はこれが間違っていた。OverDrive社による電子図書館を最初に導入した米国オハイオ州・クリーブランドにあるカヤホガ郡公共図書館のサリー・フェルドマン女史による7つの教訓のひとつに,“New media for new audiences”というものがある。電子図書館サービスを始めるにあたっては,これまで図書館を利用したことの無かった層にいかに情報提供を行うかが求められる。これまでの図書館は来館者への情報提供の手段は持っていたものの,来館しない潜在的利用者層への告知活動はほとんどしてこなかったのが現状である。山中湖情報創造館においては10年前の開館時に新聞折込広告を入れるなどの取り組みはしたが,図書館における広告宣伝費の予算枠は無く,外部への告知方法はもっぱら費用のかからないインターネット上での告知になっている。今回においては「図書館まで足を運ぶことが難しい利用者」を想定し,近隣の従業員の多い企業,病院,自衛隊駐屯地などへポスターの掲示とリーフレットの配布を行った。厳密な効果測定はしていないが,電子図書館サービスを始めることによって,図書館が営業に行く…というルートを作れたように思う。

 一方インターネット上での告知により,連休を使って来館し利用者登録をされる方もいた。郵送での利用者登録の希望もあったが,最初の一度だけは来館して欲しい旨を伝えた。いつでもどこからでも利用できる電子図書館であるがゆえに,ライセンス契約の内容等を考慮しつつ,オンラインで利用できる電子図書館サービスの利用者の範囲の取り扱いに関しては検討しなければならない。

現状の電子図書館サービス

 国産の電子図書館サービスシステムは,まだ誕生したばかりだといってもいい。基本的な機能はあるものの,フィジカルな図書館における開架書架のような一覧性には乏しい。電子図書館サービスを開始してから,システムの外に日本十進分類法(NDC)に基づくジャンルの一覧ページや9類(文学)の著者一覧のページを作成するなどの運用の工夫も必要であると感じるようになった。電子図書館サービスを核として,図書館側の運用に応じたカスタマイズも必要となる。特集ページとしてのブックリスト機能だけでは十分でないし,公式ホームページやブログに書誌や書影の埋め込むコード生成機能も欲しい。また,諸外国の電子図書館サービスにあるような,利用者がTwitterやFacebookなどのSNSを通じて電子書籍の感想を共有する機能もあると良いだろう。

 電子図書館サービスの本格導入にあたっては,まだまだ考慮すべき点がある。この実証実験の終了後の予定は未定だが,本格的な導入においては単館ではなく複数館での共同導入ということもあるだろう。また,一館が複数社のサービスを導入したい…ということにもなろう。

 私自身,今回このような形で電子図書館サービスの実証実験に関わること ができ,リサーチだけでは得られなかった貴重な体験をすることができた。 この体験を踏まえ,国内における電子図書館サービスの普及や電子書籍,電子コンテンツの図書館への導入方法などを,機会を通じて提案していきたい。 山中湖情報創造館は住所が村内村外を問わず利用者登録できるので,実証実験終了までまだ時間があるこの機会に来館し電子図書館サービスを体験して欲しい。

 山中湖情報創造館指定管理者 館長・丸山高弘

Ref:
http://www.lib-yamanakako.jp/
https://www.d-library.jp/yamanakako/g0101/top/
http://www.jdls.co.jp/
http://www.digi-ken.org/
https://www.lib.pref.yamanashi.jp/info/h25riyo.pdf
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1411/06/news104.html
http://coloradodc.lib.overdrive.com