E1645 – アーカイブ座談会「担い手が語る/若手が語る」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.274 2015.01.22

 

 E1645

アーカイブ座談会「担い手が語る/若手が語る」<報告>

 

 日比谷図書文化館において,2014年11月7日に,第1回座談会「こんなアーカイブにしたい!~担い手が語る~」が,同年12月22日に,第2回座談会「これからのアーカイブ:若手が語る」が開催された。全2回の本座談会は,アーカイブの現状や問題点を明らかにし,今後のあり方や対応を議論するものである。その内容を報告する。

 第1回では,脚本,アニメ,地域資料,レコードや漫画等のアーカイブの構築や運用に長年関わってきた権利者団体,大学,図書館の教職員が主な登壇者となり,「アーカイブの現状」,「アーカイブの対象」,「人材育成」を中心に議論がなされた。

 「アーカイブの現状」は,森川嘉一郎氏(明治大学)らから,アーカイブやデジタルアーカイブを構築する機運が高まっているものの,それぞれのアーカイブの段階には差があることに留意する必要がある。漫画やゲーム,アニメは,物を収集することが喫緊の課題で,デジタル化に着手する段階ではないと指摘された。よって,空間的,物理的なアーカイブの構築は,分野によって現在もなお重要である旨が説明された。

 森川氏は,「アーカイブの対象」についても言及した。日本では,書籍は納本制度によって概ね網羅的に収集・保存され,美術品も残すべきものは残されている。一方,ゲームは,遊ばれて価値の出るものであり,プレイ動画を含めて残すことによって,ゲームの持つ文脈が検証できるという。また,花井裕一郎氏(小布施町立図書館まちとしょテラソ前館長)からは,地域資料アーカイブでは,人や地域の記憶を残すという観点で,オーラルヒストリ ーがきわめて重要であるとの指摘がされた。会場からは,分野によって適切な対象や残し方が異なることに留意が必要である,という意見が出された。

 植野淳子氏(株式会社アーイメージ)からは,「人材育成」の点で以下の 説明がされた。単に文化資源を保存して蓄積するだけなく,アーカイブの文脈を理解し,利活用を促進できる人材である「コーディネーター」の育成が必要である。人材育成は,雇用確保とともに考えなければならない。学校で教育するだけでなく,担い手が十分に食べていける職場がなければ,専門的な人材の継続的な確保は難しい。

 最後に,司会の生貝直人氏(東京大学)から,登壇者の今後の目標は何かという質問があり,その回答の中で,(飾り物である)アンティークから,(使われる)アーカイブへ,というキーワードが提示され,アーカイブの利活用の重要性が確認された。

 第2回では,アーカイブの研究や情報発信を担う大学教員,大学院生,弁護士,アーキビスト,図書館員が登壇し,これからのアーカイブのあり方について,議論が交わされた。司会の福島幸宏氏(京都府立総合資料館)による,よいアーカイブとは何か,という問題提起に対し,登壇者は回答にやや苦心していたように見えた。その回答のひとつは,本稿の最後に紹介する。

 議論は,アーカイブの利活用に力点が置かれた。嘉村哲郎氏(東京藝術大学)や中川隆太郎氏(骨董通り法律事務所)からは,文化財(例えば仏像)を素材としたカードゲームや,鑑賞するだけでなく体験的に楽しめるアーカイブ等が,案として例示された。一方,会場からは,空間,時間,所有権に拘束されないというデジタルアーカイブの強みを生かす工夫をもっと考えたい,との意見があった。

 中川氏からは,アーカイブに利活用の仕組みを具備する重要性が説明された。利活用の仕組みにはいくつかの段階があり,まずは著作権者や二次利用の範囲の表示,次に著作権者の連絡先の掲載,そして簡便な決済システムの 具備が必要であること。それらはアーカイブの担い手がすべてを用意するのではなく,外部の著作権管理団体に任せられる点は任せてよいという。

 会場からの発言も活発であった。アーカイブの構築には,権利関係や調整の簡素さから,非営利の文化資源を優先することがしばしば見受けられる。潜在的な利活用の需要の大きさを考えると,むしろ営利目的で制作されたコンテンツをアーカイブする方が,再生産に用いられる可能性が高い。とはいえ,どれほど利活用が促進されても,利用料だけではアーカイブを存続させられるほどの資金を回収するのは難しく,運営には一定の資金の投入が必要でないかとの意見が出された。

 よいアーカイブとは何か。よいデジタルアーカイブと読み替えたときのひとつの回答として,生貝氏は次のように答えた。それは,検索エンジンでヒットしないものは存在しないとすら考えているようなデジタル世代が,文化の楽しさや素晴らしさを,これまでの世代と同様にもしくはそれ以上に享受できるもの,ではないだろうか。例えば,欧州の多数の文化機関がEuropeanaの傘のもとに集まっているが,それは,デジタル世代を含めた多くの人々に,自館の持つ文化資源の素晴らしさを知ってほしいという,文化機関の強い思いの表れかもしれない,と補足した。

 筆者は,本座談会を通じ,次の所感を持った。アーカイブの取り組みの段階は各分野によって異なっており,その進度によって課題が異なるのは留意すべきである。また,アーカイブには,容易に利用することが可能で,かつ,権利者に適切な対価の橋渡しができる仕組みづくりが求められている。

電子情報部電子情報サービス課・井上奈智

Ref:
「アーカイブ立国宣言」編集委員会 編. アーカイブ立国宣言 日本の文化資源を活かすために必要なこと. ポット出版, 2014, 272p.
http://www.pot.co.jp/news/20141014_191134493934382.html
http://www.pot.co.jp/news/20141120_164516493934526.html