CA2003 – 公立図書館における補助金・交付金の活用 / 小泉公乃

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カレントアウェアネス
No.349 2021年09月20日

 

CA2003

 

公立図書館における補助金・交付金の活用

筑波大学図書館情報メディア系:小泉公乃(こいずみまさのり)

 

1. はじめに

 現在、図書館を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの公立図書館が一時的に休館せざるを得ない状況にあった(E2283参照)。休館中、そして開館後もオンラインサービスを模索するなど、全国の公立図書館では新たな取組を積極的に推進する必要に迫られている。このように激変する環境においては、新たな事業領域への戦略的な投資が求められる。その際、過去を踏襲する予算計画では対応できないために、重要となるのは設置主体外からの外部資金の獲得である。日本の公立図書館が獲得できる外部資金には、政府からの補助金、民間からの寄付・募金(CA1915参照)、雑誌スポンサー制度のほか、近年では命名権(E2202CA1916参照)やクラウドファンディング(CA1917参照)といった手段が挙げられる(1)。なかでも、2020年5月に創設された「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」(2)の活用事例には、「図書館パワーアップ事業」が含まれており、この時期に日本政府が特定領域に交付金を投じたことは日本の公立図書館への強いメッセージと受け取れる。

 本稿では、公立図書館の設置・整備に関する外部資金と公立図書館のサービスの充実に関する外部資金について取り上げ、特に、現在の公立図書館に関する補助金、交付金、助成金を中心に活用事例とともに説明する。1997年度限りで廃止された「公立社会教育施設整備費補助金」以降の外部資金を概観することで、各図書館の状況に応じてさまざまな資金を獲得する機会を知る契機になることを期待する。

 

2. 公立図書館の設置に関する補助金等の種類

 文部科学省の「公立社会教育施設整備費補助金」は、1976年以降、生涯学習の重要な拠点である公立図書館の整備が進んでいない地方公共団体を主な対象に提供されていた。しかし、同補助金は、1997年7月の地方分権推進委員会の勧告により、地方公共団体の自主性・自立性を高める観点から廃止された(3)。日本政府はこれに代わるものとして、2000年に「過疎地域自立促進特別措置法」を制定したが、その際、公立図書館は対象外となっていた。公立図書館が対象となったのは、2010年の改正(改正過疎法)からである(4)。これには、北海道置戸町立図書館の活動が貢献している。置戸町立図書館は新図書館建設にあたり、過疎債対象施設に公立図書館が含まれていなかったことから、図書館条例を廃止し「生涯学習情報センター」と名称を変更して財源確保に努めた。同時に町議会で過疎法における補助対象に図書館を含めるよう政府に要請するなど、図書館復活に向けた活動を展開した(5)。2021年4月に「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」が制定され、現在は公立図書館が整備の対象に含まれている(6)

 また、国土交通省の「社会資本整備総合交付金」は、2010年3月に都市環境の改善と住生活の安全等を目的に創設され、地方公共団体等が行う社会資本の整備とその他の取組を支援している(7)。2013年度以降、同交付金は成長力強化や地域活性化を図る事業を主な対象とした。このなかで図書館は市街地再開発事業の公益的施設の社会教育施設に含まれる。

 公立図書館の設置に関する資金の出所については、2008年に濱田が「公立図書館設置に向けた市町村の取組等に関する調査」を実施している(8)。この調査では、2002年1月以降に公立図書館の未設置を解消した全国の市町村を対象として、当該図書館136館の調査を行っており、105館について設置の経緯や交付金等の活用を明らかにしている。その他には、都道府県による「図書館建設促進費補助金」「市町村総合補助金・地域政策補助金・自治振興事業補助金」を活用しているものも比較的多いことがわかる。なお、都道府県が設けている補助金は、各都道府県で名称や補助対象の事業も異なるためそれぞれ確かめる必要がある。

 

3. 公立図書館サービスの充実に関する補助金・交付金・助成金の種類

 総務省の「住民生活に光をそそぐ交付金」は、2010年度の補正予算に盛り込まれた「地域活性化交付金」の3,500億円から1,000億円が割り当てられ、公立図書館は交付金の使途の一つである「知の地域づくり」に含まれた(9)。図書館関連の事業件数の総数(あらゆる館種が含まれる)は4,485件(うち公立図書館は2,004件)にも上り、多くの地方公共団体でこの資金を活用したことがわかる(10)。事業の内訳で図書の購入が45.8%で最も多く、資料のデジタル化は0.4%程度しかなかった。公立図書館の基盤である図書に投資することの重要性は理解できるが、将来への戦略的な投資であることを考慮すると資料のデジタル化といった通常の予算ではなかなか実施できないサービスの創造にも多くの投資がされることが望ましかった。

 2015年度から国は地方の人口減少を抑制するために地方創生の政策を打ち出し、その一環として、交付金の制度を設けた(11)。地域の雇用創生に重点を置きながら、効果の発現が高い事業を対象とした内閣府の「地方創生加速化交付金」の交付対象事業として、2015年度には福島県浪江町・大熊町・双葉町の「震災アーカイブス事業」と北海道幕別町の「図書館を核とした活字と笑いで活気あるまちづくり事業」が選定された(12)。一方で、その後の地方創生に関わる主な交付金(「地方創生拠点整備交付金」(2016年度から現在)、「地方創生推進交付金」(2016年度から現在))では、図書館事業を主要な交付目的としていないが、一部の地方公共団体では副次的な効果として図書館に触れ、例えば宮崎県椎葉村のように図書館の整備を行った事例もある。

 内閣府の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」は2020年度に創設された臨時交付金で、第一次補正予算から第三次補正予算まで合計4兆5,000億円が全都道府県・全市区町村を対象として交付されたものである(13)。新型コロナウイルス感染症への対応に必要なものであれば、使途に制限がないことが特徴である。第三次補正予算の交付は完了しているが、予備費については今後も交付するとしている。各地方公共団体の事業についてはポータルサイトで公表されている(14)

 地方公共団体への補助事業については、内閣府のウェブサイトでまとめられているが、現在明示的に公立図書館を対象としたものは見受けられない(15)。この中でも、まちづくりや社会教育をキーワードとしているものについては、補助事業の内容をよく精査し自らの図書館が必要とする新しい事業に適合する場合には、地方公共団体内の関連部局などとも事前によく調整し活用することができるだろう。このためには日頃より経営努力にいそしみ、地域に密着し市民のニーズをくみ取ることで、将来的に自館がどのような新しい事業を創造していくべきかを検討しておく必要がある。

 その他、毎年行われており、新規事業のための安定的な資金としては民間財団等による助成金があげられる。代表的なものとして、図書館振興財団は、毎年度テーマを設け、図書館の振興を目的とした事業について助成を行っている。2021年度の振興助成事業の対象は13件、総額5,789万9,974円である(16)。振興助成事業のほか、提案型助成事業についても募集しているため多様な事業のスタートアップに活用できるといえる。また、国立青少年教育振興機構は、子どもの健全な育成を図ることを目的として、子どもゆめ基金による助成を行っている(17)。読書活動の推進に関連する取組に交付されるが、地方公共団体は対象ではない。地域のボランティア団体が助成を受けることで図書館の利用の活性化につながるものであるといえる。

 

4. 補助金・交付金の活用事例

 図書館の整備に関する交付金の活用事例では、岡山県鏡野町が2008年度から「電源立地地域対策交付金」を活用し、福祉対策措置の「図書館維持運営事業に対する補助金」によって町民の生涯学習の拠点となる町立図書館の整備を実施している(18)

 国土交通省の「社会資本整備総合交付金」を活用した代表的な事例としては、オガールプラザ(岩手県紫波町)、オーテピア高知図書館(高知県高知市)やみんなの森ぎふメディアコスモス(岐阜県岐阜市)などが挙げられる(19)。また、先述の通り、「改正過疎法」の事例として北海道置戸町立図書館がある。

 「住民生活に光をそそぐ交付金」の事例として、設置条例とともに施設の拡充と資料の充実に活かし、公民館図書室を公立図書館とした岡山県吉備中央町図書館などがある(20)

 「地方創生加速化交付金」および「地方創生推進交付金」では前述の北海道幕別町が「図書館を核とした活字と笑いで活気あるまちづくり事業」を行っており、図書館でのストレス測定と落語会、相談会の開催による予防医療モデルの啓発を目的としている(E1878参照)(21)

 2020年度の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」における「図書館パワーアップ事業」の事例として、福島県国見町では図書229冊を購入し、子どもの読書環境充実のため保育所、幼稚園、小学校、中学校に貸出を行った(22)。同様の事例として、千葉県八千代市では、在宅中の子どもへの読書支援として、市内在住、在勤、在学の18歳以下の子どもに対し、臨時休館中の図書館から図書の郵送貸出を実施した。また、八千代市では、電子図書館拡充事業として、44万円をあて、読書環境の充実を図るとともに外出の抑制につなげる目的で電子図書館を拡充した(23)。実際に、コロナ禍で非来館型の図書館サービスである電子図書館への期待が高まり、電子図書館サービスの導入館が急増している(24)

 図書館振興財団の助成金の活用事例は、機関誌『図書館の学校』で報告されている(25)。2019年度は12の事業に対し、6,998万7,228円の助成が行われており、「ICT化推進」「特定コレクションに基づく図書館サービスの向上」などのテーマのもとで活用されている。例えば、和歌山県有田川町教育委員会を対象とした事業では2019年4月から2020年3月までに900万円が助成され、蔵書へのICタグ付与をはじめ、ICゲート、貸出機の設置を進めた(26)。一方で課題として、読取性能の調整と職員の業務効率化の実現をあげており、継続的な取組が必要である。また、滋賀県近江八幡市立近江八幡図書館では、同期間で600万円の助成を受け、デジタルアーカイブ事業を行った。貴重書を多く所蔵しているため、そのデジタル化による提供と適切な保存を実施しているが、一度の助成で対応しきることは難しいため、今後も継続する必要があるとしている(27)

 

5. 補助金を活用したサービスのその後の状況

 図書館振興財団の助成事業報告をみても、助成によって新たな事業を実施したり、業務の効率化のための整備ができたりと有効に活用されている一方、助成を受けたあとも継続的な取組が必要であることが示されている。これは補助金、助成金かを問わず、最も重要な点であるといえる。継続的な取組となったものとして、例えば、「住民生活に光をそそぐ交付金」を基礎に新しいサービスを創造した愛知県田原市図書館がある。同館は、高齢者福祉施設への訪問サービス「元気はいたつ便」を定着させ、厚生労働省の老人保健健康増進等事業の「認知症の私と輝く」大賞を受賞している(28)。戦略的投資によるサービス創造の段階から、組織体制を整えた安定的な運用の仕組みづくりをすることが、持続的なサービス展開につながっていると考えられる(29)

 

6. おわりに

 日本の公立図書館は既に厳しい予算状況にあり、それもさらに削減されていく傾向にある。このような環境下で内向きになり新たな経営資源獲得の活動をしなければ、経済合理性の視点から経費削減に目を奪われ、それに終始することになる。これでは、日本の公立図書館に未来はない。図書館の職員は市民の声に耳を傾け自らの知恵を絞り、ここで紹介したような政府からの補助金などを未来への投資として、積極的に獲得していく外向きの姿勢がより一層求められる。自らの事業にうまく適合する外部資金がない場合は、政府や関連団体などに要求していくロビー活動も重要となるだろう。そして、このような外部資金獲得の機会を逃さないためには、日頃からの情報専門職としての自己研鑽とともに、年度予算による持続的な図書館経営を維持するための地方公共団体内での広報活動、さらには将来にわたる経営計画やサービス計画を立案しておくという不断の努力が欠かせない。

 

(1) 加藤晃一. 窓 図書館と外部資金調達. 図書館雑誌. 2020, vol. 114, no. 4, p. 172.

(2)“新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金”. 地方創生.
https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/index.html, (参照 2021-07-10).

(3)“図書館に関する政策についての日本図書館協会の質問と政党の回答”. 日本図書館協会.
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/kenkai/200910.html, (参照 2021-07-10).

(4)“過疎地域自立促進特別措置法の一部を改正する法律案要綱”.衆議院.
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8430266/www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g17401003.htm, (参照 2021-07-10).
“改正過疎法が成立 58市町村を追加指定へ”. 47News. 2010-03-10.
https://web.archive.org/web/20100421042009/http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010031001000102.html, (参照 2021-07-10).

(5)“図書館実践事例集~地域の要望や社会の要請に応えるために~”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/mext_01041.html, (参照 2021-07-11).

(6)“過疎法改正関係資料”. 総務省.
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/2001/kaso/kasomain2.htm, (参照 2021-07-11).
過疎地域自立促進特別措置法(旧法)との比較表. 総務省, 78p.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000744506.pdf, (参照 2021-07-11).

(7) 国土交通省. 社会資本整備総合交付金交付要綱. 2021, 17p.
https://www.mlit.go.jp/common/001284112.pdf, (参照 2021-07-11).

(8) 濱田幸夫. “公立図書館の実態に関する調査”. 地域の人々に役立つ公共図書館を目指して. つくばリポジトリ. 2009-08-26.
http://hdl.handle.net/2241/103430, (参照 2021-07-11).

(9)“片山総務大臣閣議後記者会見の概要”. 総務省. 2010-10-26.
https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/36590.html, (参照 2021-07-10).

(10)片山善博, 糸賀雅児. 地方自治と図書館:「知の地域づくり」を地域再生の切り札に. 勁草書房, 2016, 252p.

(11)内閣府地方創生推進室. 地方創生加速化交付金の交付対象事業の決定について. 2016, 104p.
https://www.chisou.go.jp/sousei/pdf/h27-kasokuka.pdf, (参照 2021-07-10).

(12)“地方創生関係交付金”. 地方創生.
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/kouhukin/index.html, (参照 2021-07-10).

(13)“新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金”. 地方創生.
https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/index.html, (参照 2021-07-10).

(14)地方創生図鑑.
https://www.chihousousei-zukan.go.jp, (参照 2021-07-15).

(15)“地方公共団体への補助事業”. 内閣府.
https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/followup/followup02/local.html, (参照 2021-07-11).

(16)“助成事業”. 公益財団法人図書館振興財団.
https://www.toshokan.or.jp/jyosei/, (参照 2021-07-11).

(17)子どもゆめ基金.
https://yumekikin.niye.go.jp, (参照 2021-07-11).

(18)“図書館維持運営事業に対する補助金”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/gensi/1351280.htm, (参照 2021-07-11).

(19)“社会教育施設の複合化・集約化”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/gakugei/1387273.htm, (参照 2021-07-11).

(20)片山, 糸賀. 前掲. p. 125.

(21)“【知る・読む・笑う】歳末落語会”. 北海道幕別町. 2018-11-26.
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/events/288575-rakugo-2018-2, (参照 2021-07-15).

(22)“図書館パワーアップ事業(新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金事業)の取組み”. 福島県国見町. 2020-07-13.
https://www.town.kunimi.fukushima.jp/soshiki/1/8316.html, (参照 2021-07-10).

(23)“新型コロナウイルス対応地方創生臨時交付金について”. 八千代市. 2021-05-10.
https://www.city.yachiyo.chiba.jp/11000/page100001_00014.html, (参照 2021-07-10).

(24)“「LibrariE」の導入館が大幅増 、200館に到達。”. 日本電子図書館サービス. 2020-06-18.
https://www.jdls.co.jp/news/2020/06/「librarie」の導入館が大幅増-200館に到達。/, (参照 2021-07-10).

(25)“機関誌「図書館の学校」”. 公益財団法人図書館振興財団.
https://www.toshokan.or.jp/magazine/, (参照 2021-07-11).

(26)2019年度 図書館振興助成事業報告<1>振興助成事業. 図書館の学校. 2020, 2020・夏,p. 26-29.

(27)2019年度 図書館振興助成事業報告<2>振興助成事業. 図書館の学校. 2020, 2020・秋,p. 22-25.

(28)“「認知症の私と輝く」大賞発表フォーラム開催のお知らせとお申込み方法のご案内”. みずほリサーチ&テクノロジーズ.
https://www.mizuho-ir.co.jp/seminar/info/2016/ninchisho0227.html, (参照 2021-07-16).

(29)天野良枝, 河合美奈子. “第5章元気はいたつ便”. 地域活性化志向の公共図書館における経営に関する調査研究. 国立国会図書館関西館図書館協力課. 2014, p. 101-133., (図書館調査研究リポート, No.15).
https://doi.org/10.11501/8649952, (参照 2021-07-16).

 

[受理:2021-07-16]

 


小泉公乃. 公立図書館における補助金・交付金の活用. カレントアウェアネス. 2021, (349), CA2003, p. 5-8.
https://current.ndl.go.jp/ca2003
DOI:
https://doi.org/10.11501/11727157

Koizumi Masanori
Utilization of subsidies and grants in public libraries