E2283 – 現在(いま)をアーカイブする:COVID-19図書館動向調査

カレントアウェアネス-E

No.395 2020.07.30

 

 E2283

現在(いま)をアーカイブする:COVID-19図書館動向調査

saveMLAK COVID-19libdataチーム

 

●カーリルからsaveMLAKへ

  saveMLAKは,2011年の東日本大震災をきっかけに,被災したMLAK(美術館・博物館,図書館,公文書館,公民館)の情報を集約し,ウェブサイトでの公開を行っている。

  新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大に伴い,2020年4月7日に,政府による一部都府県を対象とした緊急事態宣言が発出された。その直後である4月9日,株式会社カーリルによる全国の図書館休館調査の結果が発表された。この結果を受け,4月12日,saveMLAK有志の打ち合わせにてCOVID-19に関する取り組みが検討された。

  COVID-19は地震等の自然災害とは異なるが,多くの図書館が休館することとなった。現状を記録するために,全国の図書館の状況のスナップショットを保存するような,継続した一斉調査の必要性が話し合われ,カーリルだけでの調査は困難なことから,saveMLAKに引き継がれることとなった。第2回調査より,この趣旨に賛同する有志が参加し調査が行われた。

●調査に携わって

  この調査は全国の公共図書館・図書室等のウェブサイトを目視で確認し,Googleのスプレッドシートに記録する方法で実施した。調査対象のウェブページはInternet ArchiveやArchive.todayといったウェブページ保存サービスを活用し,収集時点のウェブページを見られるようにした。毎回の調査前に凡例を整理し,開館状況や休館中でも行っているサービスを類型化できるようにした(図書館が「開館」と記載していても,開架エリアに進入できない場合は「休館」扱いにするなど)。凡例は図書館の動向に合わせて都度更新し,できるだけ実態に即したものにした。

  誰でも参加できるよう調査参加者は公募し,「できる人ができるだけ」行った。第8回までに北海道から沖縄県まで日本全国から延べ238人の有志が参加し,累計1万館超の図書館を調査した。参加者はSlackを使ってコミュニケーションを取り,調査の疑問点を相互に解決していった。また,Zoomを用いてミーティングをしながら毎回の調査結果に関するプレスリリースを共同編集するなど,各種ツールを使い全てをオンラインで進めていった。

  苦労した点はエビデンスとなるウェブサイトをアーカイブすることだ。保存したいウェブページのURLが開くたびに変わる,調査時にURLを保存しても調査時点でのウェブページがアーカイブでうまく呼び出せなかったり,海外のウェブサイトからのアクセスを弾く設定になっていて保存できないケースもあった。複数のインターネット保存サービスを併用したり,地方公共団体のウェブサイトやSNSの投稿を代わりに保存するなど試行錯誤を重ねた。

●調査から見えてきたもの

  まず,本調査の主要指標の休館率は,第2回(4月16日)57%,第3回(4月23日)88%,第4回(5月6日)92%と休館の全国拡大が如実に現れた。ひとつの要因と考えられる,緊急事態宣言発出との関連性をグラフやマップにより可視化する方法を採った。第3回調査では,4月16日に特定警戒地域に指定された13地域の休館率が顕著に上昇した。それ以降,各都道府県で発出された図書館はじめMLAK機関に対する休業要請に関して,措置調査を第6回調査(5月21日)まで継続的に実施した。休業要請の延長が休館継続の意思決定に影響を及ぼしたことが,明らかとなった。

  合わせて図書館サービスの動向調査も行った。休館率の高さと相まって,資料の郵送宅配,電子書籍,デジタルコンテンツの利用促進やオリジナルコンテンツ配信等の事例が見られた。緊急事態宣言が解除されると,入館記録やロードマップ提示等の再開館のための動きが活発になった。第8回(6月20日)では,1.6%の休館率となり調査はほぼ区切りを迎えた。

  以上が,個人の調査では成しえない,意思を同じくする全国有志による集合知が創り出したデータから見えてきたものである。公開情報をベースに,図書館等が利用者にいかに情報を提示しているかを確認できた。現場の担い手自身が本調査への参加を通して全国の状況を認識し,それぞれの事業や政策に資するであろう情報を生み出せたことは,得がたい経験となった。

●「アフターコロナ」と言われる時代に向けて

  COVID-19により日本全国で外出が阻まれる事態となり,本調査は,調査する全員が当事者であった。参加者の1人である常川真央氏は,これまでsaveMLAKではウェブサイトに各機関の情報を載せていく「ドキュメント志向」の調査が中心だったが,本調査は全国の公共図書館の情報を同時に1枚のシートに集約する「テーブル志向」だったと指摘する。

  特筆すべきは,全国的な調査を1回につき2日から3日という短期間で,かつ約3か月間に8回も行ったことである。瞬間を一遍に輪切りのように切り取った8回のポイントを繋げ曲線を生み出すことで全体の流れが見えるようになった。調査で集まってきた「ドキュメント志向」にあたるベストプラクティス(先行事例)は,プレスリリースに反映させた。調査結果は後から検証できるようにし,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCC0で公開している。誰でも使いたい時に使える形で残すことを意識したためである。

  状況が変わるにつれ,COVID-19が風化するかのように情報が消えていった。「現在(いま)」をアーカイブすることは「現在(いま)」しかできない。

  本調査のように実際に集まらずとも短期間で最新情報を公表できるこの方法は,様々な場面で有用ではないだろうか。調査方法についても,活用しやすい形で遺していきたい。

Ref:
“COVID-19 : 多くの図書館が閉館しています”. カーリルのブログ. 2020-04-09.
https://blog.calil.jp/2020/04/stay-at-home.html
saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/saveMLAK
“covid-19-survey”. saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/covid-19-survey
“COVID-19”. saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/COVID-19
Internet Archive.
https://archive.org/
Archive.today.
http://archive.vn/
常川真央. ICTツールを活用した,COVID-19の影響による図書館の動向調査の取り組み. 2020-06-21.
https://drive.google.com/file/d/1zuPba5XnWFe0jPFJmq7MEk4qPO8W6G8I/view
“災害への『しなやかな強さ』を持つMLAK機関をつくる”. saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/CallForResilience

 

 

クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0

※本著作(E2283)はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 パブリック・ライセンスの下に提供されています。ライセンスの内容を知りたい方はhttps://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.jaでご確認ください。