E2284 - 各国の図書館における新型コロナウイルス感染症への対応例

カレントアウェアネス-E

No.395 2020.07.30

 

 E2284

各国の図書館における新型コロナウイルス感染症への対応例

総務部支部図書館・協力課・矢部萌(やべもゆ)

 

●はじめに

   2020年5月5日,国際図書館連盟(IFLA)は,事務局と図書館協会運営分科会が共同で,世界中で新型コロナウイルス感染症への規制が緩和される中で再開館する図書館を支援することを目的に,各国の図書館協会等による図書館を安全に再開館するための計画の事例収集を行っていると発表した。収集された情報はIFLAのウェブサイト内の“COVID-19 and the Global Library Field”ページにて随時更新されている。

   本稿では,同ページの概略を述べるとともに,同ページの7月14日版をもとに,各国図書館の再開館後に安全に運営を行っていくための工夫を一部紹介する。数々の事例が掲載されている中,ここではサービス再開の基本的な課題であるソーシャルディスタンシングや,資料の検疫の基準を踏まえつつ,様々な国や館種の事例を取り上げるよう心掛けた。また,閉館中に利用者の情報アクセスを保証するために行われたサービスや,ウィズコロナの時代を見据えた新たなサービスについても取り上げる。

●ページ概要

   同ページには,IFLAが収集した,各国図書館の閉館・再開館の状況,各国の国立図書館や図書館協会が策定した指針,安全を確保した上で図書館を再開するための取組,遠隔サービスの事例,図書館職員が在宅勤務を円滑に進めるための工夫,等が掲載されている。これらの情報は,5月上旬以降,数日に一度のペースで更新され続けている。なお,有志による同ページ5月1日版の日本語訳「コロナウイルスの感染拡大への対応における図書館のための重要な情報源」が,日本図書館協会ウェブサイト内「COVID-19に向き合う」のページから入手可能である。

●事例:各国図書館協会等による計画・指針

   同ページでは,図書館自体に開館するか否かの裁量がある程度ある場合,適切なガイダンスや指針による支援が重要となると述べられている。また,性急な再開館は行わないようにと警告しており,サービスを提供する図書館職員の安全を確保する義務があるとしている。例えば,デンマークの文化省が公表した公式ガイダンスでは,労働組合等が再開の決定に関与する必要性を強調している。

   各国の図書館協会が作成した指針では,職員管理や図書館運営にかかわる事項にまで言及している場合がある。カナダ都市図書館協議会(CULC)が作成した詳細なチェックリストには,新たな環境に対応するための戦略や方針等の見直し,急速に変化する状況下での迅速な意思決定のための準備,高齢者等社会的弱者に対するサービスへの考慮,困難な状況下での職員の意欲向上のための工夫,といった項目が盛り込まれている。

   また,既に来館サービスを再開している図書館の多くにおいて,今後は再び状況が悪化した場合の対応を検討することも重要となってくる。米国ウェストバージニア州などでは,習慣を維持するため開館後も一定の頻度で在宅勤務を行い、今後も在宅勤務を上手く活用していくためにスタッフ会議で在宅勤務の評価を行うことが推奨されている。また,在宅勤務に必要なPC等機器購入費の予算化も求めている。

●事例:安全な来館サービスを提供するための具体的取組

   どのようにして感染リスクを削減しつつ来館サービスを提供するかは,図書館にとって最大の関心事である。

   資料を介した感染の危険性に対処するため,ウイルスの不活性化を目的とした資料の隔離(quarantine)を行っている図書館がある。隔離期間はアイルランド等では72時間,チェコでは48時間,オーストラリアでは24時間と国によって異なる。OCLCと米国の博物館・図書館サービス機構(IMLS),バテル記念研究所の共同プロジェクトREALM (REopening Archives, Libraries and Museums)では,図書館資料としてよく使われている様々な材質においてウイルスが不活性化するまでの期間の実験を行っている。

   また,国によって目安は異なるものの,概ね1メートル以上のソーシャルディスタンシングを保つことが推奨されている。十分な距離を保ちながらサービスを提供するために,多くの図書館は入館する利用者数の制限を行っているが,施設内の適切な人数や,制限の方法(閲覧予約制,抽選制等)は図書館によって異なる。例えば,スイス・ジュネーブの学校図書館のように,一人ずつしか児童を入室させないようにしているところもある。また,高齢者など特定のグループに利用を限った時間帯が設けられている図書館もある。

●事例:遠隔サービスの充実

   言うまでもなく,現在,実際に図書館に足を運ぶことなくサービスを享受できる遠隔サービスへの需要は非常に高まっており,あらゆる図書館がオンラインサービスを促進している。インドネシア国立図書館(NLI)はウェブサイトを通じ,提携している学術関連データベース等の無料提供を展開している。なかには,同時アクセス数の上限緩和,提供リソースの拡大,研究者・学生への著作権保護期間中のコンテンツへのアクセス許可等を行った国も存在する。

   また,従来館内で行っていたイベントをオンラインで開催する動きも広がっている。米国議会図書館は2020年3月,歴史的な手稿のテキスト化等をするイベント「バーチャル・トランスクライバソン」(transcribathon)を主催した。

   その他,Wi-Fiの無償開放,ストレスや不安への対処のための専門家によるウェビナーの実施,オンラインでの求職者への支援など,地域社会におけるセーフティーネットとしての図書館の役割を再認識させる事例もいくつか存在する。

●おわりに

   同ページを通じて,各国の図書館が,利用者・職員双方の安全を守りつつ,非常時であるからこそ情報へのアクセスを保障しようと奮闘する姿が垣間見える。また,今回のコロナ禍を機に,図書館におけるオンラインサービスの重要性がより認識されることとなった。今後,世界中の図書館で,物理的な資料とデジタルのバランスをとったサービス展開が一層促進されていくと考えられる。

Ref:
“Getting Ready to Lift Restrictions: IFLA Surveys Library Associations, Agencies and Networks”. IFLA. 2020-05-05.
https://www.ifla.org/node/93064
“COVID-19 and the Global Library Field”. IFLA.
https://www.ifla.org/covid-19-and-libraries
“COVID-19に向き合う”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/committees/jiyu/tabid/854/Default.aspx
“Official guidelines for reopening of the Danish libraries”. The Library Lab. 2020-05-23.
https://christianlauersen.net/2020/05/23/official-guidelines-for-reopening-of-the-danish-public-libraries/
“Checklists of Key Considerations”. CULC.
http://culc.ca/projects/toolkit/checklists/
West Virginia Library Commission. GUIDANCE STATEMENT 2020-2 Reopening the Library.
https://www.njstatelib.org/wp-content/uploads/2020/05/GUIDANCE-STATEMENT-2020-2-REOPENING-AFTER-STAY-at-HOME-ORDER-2.pdf
“Join us for our first all virtual Herencia Transcribe-a-thon!”. LC. 2020-03-17.
https://blogs.loc.gov/law/2020/03/join-us-for-our-first-all-virtual-herencia-transcribe-a-thon/
“Online Library Service of National Library of Indonesia to Educate People Facing Coronavirus Pandemic”. IFLA. 2020-04-23.
https://www.ifla.org/node/93040