カレントアウェアネス-E
No.318 2017.01.26
E1878
ソーシャルイノベーションの核となる図書館へ
図書館と地域をむすぶ協議会(図&地協)は,図書館が果たすべき本来の機能と役割を追求し,図書館を地域づくりの核となる施設として位置づけ,地域の将来を支える人材の育成や経済文化創出のための多様な方法を実践することを目的とする任意団体である。本稿では,幕別町図書館(北海道)の試みを中心に,図&地協がコーディネートする,ソーシャルイノベーションの核としての図書館づくりの一端を紹介する。
●情報編集センターとしての図書館へ
「ソーシャルイノベーション」は,日本財団が主催するソーシャルイノベーションフォーラムによると「よりよい社会のために,新しい仕組みを生み出し,変化を引き起こす,そのアイデアと実践」と定義され,この実践により「本当の意味での持続可能な〈みんながみんなを支える社会〉が実現する」としている。現在全国各地で,公共図書館を中心に,新図書館建設支援やシステム改修,図書館を核にしたまちづくり事業等をコーディネートする図&地協の活動は,まさにこの考え方を目指している。
幕別町図書館は2014年4月のシステム改修を契機に,図書館の編集機能を高め,地域づくりの核になる「情報編集センターとしての図書館」をコンセプトとして,全面的な図書館改革にのぞんだ。全国で初めてLENコード(カメレオンコード)を蔵書管理のためのインフラとして採用することで,蔵書点検による休館日を無くしたほか,手間のかかる作業から司書を解放した。さらに,設計思想に「編集」いう概念が感じられない既存の図書館システムの導入は取りやめ,行政の文書管理システムとして実績のある「チェンジマジック」を改良して導入することで,棚単位で資料の並びを管理することが可能となり,日本十進分類法(NDC)にとらわれない,自由な文脈的編集による書架の構成や特集棚の充実化などを実現することができた。
同時に,情報発信力や相互コミュニケーション力の向上をめざし,ロゴマークを含むウェブサイトのデザイン戦略を一新しながら構造化をはかった。また、図書館専用に開発された5種類の編集フォームを実装したコンテンツマネジメントシステム(CMS)を導入し、蔵書の書誌データから自由に検索した特定のテーマの書籍一覧から,書影も含めた視覚的な本棚表現を生成できる「バーチャル本棚」と組合せることで,有識者や町民によるテーマ別の特別棚を紹介する「本棚アーカイブ」事業を展開し,多くの新聞やテレビなどで紹介され話題となった。
●地元書店や福祉施設との関係づくり
さらに注目されたのが,地元書店との関係づくりである。同館では,それまで長年にわたり選書・発注からMARC形式の書誌データの取込み,図書の装備,納入までを,ほぼ東京の大手専門業者に依存し,そのフローに準拠した図書館システムを機械的に運用していた。表面上は地元の納入組合から資料購入する形だが,実際は地元書店との関係は途絶していた。そこで,発注方法から採用する民間MARCの選定まで,フローの全てを見直しながら再構築し,現実的に納入能力がある地元書店との連携で司書が全点,自分たちで選書をする本来の状態を取り戻した。
現在の汎用的な図書館システムは,選書・発注からMARCの取込・管理までを一貫した機能として提供するため,大手図書館専門業者がシステムと一体化したトータルなサービスを行なうことで,地元書店には参入する余地がなくなってしまっている。その問題の1つがMARC問題である。現在,筆者も実務者会議のメンバーである活字文化議員連盟「全国書誌情報の利活用に関する勉強会」の答申「全国書誌情報の在り方について~いつでも,どこでも,だれでも使える」(2016年4月)を受けて,無償の全国書誌情報を普及させるため,同作業部会がJPO(日本出版インフラセンター)の新刊書誌情報を活用した選書支援ツールを開発し,書店や図書館,取次,出版社が連携可能な環境づくりを進めており,その成果を期待している。
もう1つ障害となっているのが図書の装備の問題である。現在,装備費用を含めて書店等の納入側が受け持つことが多く,経済的基盤が弱い地元書店が排除される要因となっている。幕別町では,地元書店と福祉施設が連携し,図書の装備を単なる予算問題として片付けず,障がい者が図書装備を担当することで雇用を創出する地域経済の循環モデルとしてとらえ直すことでこの問題を解決した。今では地元書店の店主が図書館に日常的に訪れ,新刊キャンペーンや人気書籍などの情報交換や図書館イベント,展示企画などにも積極的に協力している。福祉施設の作業メンバーは,安定した継続収入と,地域に貢献しているという気概から意欲も高く,施設運用にも活気が出ている。司書は,何よりも大手書籍販売業者のカタログや選書に頼るだけでなく,多様なソースを活用することで選書の幅が大きく広がり,また,様々な人材が図書館に関わることで,それまで閉鎖的だった図書館業務への姿勢が,よりオープンになり,根本的に変化したという。
●地域づくりの核となる図書館へ
地域との関係を再構築していった幕別町図書館では,次の段階として町民による図書館サポーター組織「まぶさLED」(まくべつBOOKサポーター/図書館エディター)を育成する編集力養成講座や,ストレス測定器とストレスケア資料の充実によるレファレンス強化,さらに落語会を組み合わせた予防医療実証実験などを展開した。ストレスケアによる予防医療に注目したのは,今後の地域づくりでは,高齢化社会や労働環境の問題が大きく,その課題解決に図書館が取り組む事で,行政内の図書館の位置づけを上げ,図書館の評価軸を多様にすることを意図したからである。その成果が評価され,2016年度には「図書館を核とした活字と笑いで活気あるまちづくり事業」として,地方創生加速化交付金を獲得し,少子高齢化社会に向けた図書館を中心とする持続型社会インフラの構築を進めている。
この「幕別モデル」はさらに広がりをみせ,2016年7月には,図&地協がシステム構築から空間デザイン,サポート組織づくりまでフルサポートした文化交流館「ふみの森もてぎ」が栃木県茂木町にオープンした。資料を納入可能な地元書店が無くなっていたため,第3セクターで運営する「道の駅もてぎ」内に新しい書店をつくり,福祉施設による図書の装備作業を含め,地域づくりと連動した展開をはかっている。また,2018年春オープン予定で現在建設中の隈研吾氏設計による高知県梼原町の新図書館でも,図&地協がフルサポートし,ソーシャルイノベーションの核となる図書館づくりを目指している。
図書館と地域をむすぶ協議会・太田剛
Ref:
http://toshokan.club
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/events/285100-web
https://www.library.pref.hokkaido.jp/web/publish/qulnh000000006is-att/vmlvna0000000hc8.pdf
http://www.jpo.or.jp/topics/data/20160615a_jpoinfo.pdf
http://www.jpo.or.jp/topics/data/20160615b_jpoinfo.pdf
http://mcl.makubetsu.jp
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/main-kitahon
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/main-anohon
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/main-mbs
http://www.tokachi.co.jp/news/201403/20140304-0017830.php
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG30017_Q4A430C1CR0000/
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/2014-03-26-11-05-05/2-uncategorised/286167-2015-08-10-07-43-31
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/pdf/h27-kasokuka.pdf
http://fuminomori.jp
http://www.kochinews.co.jp/article/58391/