E1879 – 第64回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.318 2017.01.26

 

 E1879

第64回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>

 

   2016年11月13日,天理大学杣之内キャンパスにて,第64回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム「学校図書館への研究的アプローチ」が開催された。パネリストは,足立幸子氏(新潟大学),今井福司氏(白百合女子大学),岩崎れい氏(京都ノートルダム女子大学),中村百合子氏(立教大学),野口武悟氏(専修大学)の5名が,コーディネータ・司会は,平久江祐司氏(筑波大学)が務めた。

   最初に,平久江氏から開催の趣旨が説明された。まず,法整備の充実や,職員の役割・養成・配置に関する議論の活発化など,学校図書館の現状が整理された。つづいて,研究におけるエビデンスの定義や在り方について,2015年に改定版が公表された「IFLA学校図書館ガイドライン」(E1724参照)でのエビデンスの捉え方を踏まえ,(1)エビデンスは科学的な根拠のある研究と客観的な測定に基づくものである,(2)意思決定にエビデンスを用いるための実務経験の進展が重要である,の2点がシンポジウムにおける議論の前提として示された。

   前半は,パネリストから研究方法や対象について発表が行われた。今井氏は,「日本の学校図書館研究における文献レビューの問題整理」と題して,国立国会図書館の季刊誌『カレントアウェアネス』やアメリカ教育省の教育科学研究所が運営するウェブサイトWhat Works Clearinghouse(WWC),同省が提供するデータベースERICを事例として取り上げ,図書館界で協力して体系的,系統的なレビューに取り組む必要性を強調した。中村氏からは,「学校図書館に関する歴史研究」と題して,歴史学者のカー(Edward Hallett Carr)や保城広至氏(東京大学)などの著作を参考としつつ,史料批判や解釈の在り方,歴史を研究する意味などについて発表があった。岩崎氏からは,「海外事情に関わる学校図書館研究の課題」と題して,前提条件が違う中で国際比較をする難しさについて述べられ,国際的な立場から見た学校図書館の社会的価値の確認と,日本の課題を明らかにしたうえでのアプローチの必要性が指摘された。足立氏からは,「読書に関する研究方法」として,自身が関わった「子どもの読書活動と人材育成に関する調査研究」を題材に,調査設計の方法と結果の解釈について解説があった。野口氏からは,「学校図書館における「特別支援」に関する研究」として,研究者が少ない,発表学会が多岐にわたるといった状況のなかで,実践者と研究者との連携や,実践者自身による研究への支援が必要であるという指摘がなされた。

   後半の研究討議は,(1)科学的研究と実務経験の識見,(2)研究における学際性と可能性,(3)研究者の育成と学会の役割,の3つを論点として行われた。

   1つめの論点については,図書館現場からの実践報告をどう研究に位置付けるかが議論された。中村氏は,インタビューやアクションリサーチと併せて分析をすればいいとした。一方,今井氏は,それらの実践報告の多くは依頼原稿であり,分析に必要な要素が不足していることを指摘した。そこで,岩崎氏や野口氏からは,どういう内容があれば,分析に役立つのかという基準について発言があった。

   2つめの論点について,足立氏は,学際性を含んだレビューの必要性を述べられた。それを受けて,今井氏からは,発表事例を参考に,大学院生を含め,大学間の共同でレビューを行うなどの体制づくりを考える必要があるとの発言があった。岩崎氏は,国際比較をするときには,図書館の場合,公共政策や公教育,貧困,出版文化など,様々な事情が問題となることを指摘した。

   3つめの論点については,他分野との連携やエビデンスの在り方に関して議論された。野口氏や岩崎氏は,他学会との合同シンポジウムや他分野との共同研究の可能性について言及した。中村氏は,過去に国際図書館連盟(IFLA)で委員を務めた経験から,エビデンスという言葉が単純化されすぎている印象を受けるとし,慎重に議論するべきと指摘した。

   最後に,フロアからの質問や意見が寄せられた。フロアからは,大学の附属学校に勤める学校図書館職員と大学の研究者による共同研究,学会による海外の研究者の招聘,実務者の事例報告作成に対する研究者の支援,といった可能性について提案があった。また,事例を研究素材として活用する方法について質問があり,今井氏から,研究者でもアクセスしづらい事例があることから,オープンにして広めることが重要との回答があった。

   当日は,実務に携わっている人が少なからず参加しているように見えた。シンポジウムの内容が,研究者の中に留まらず,実務者にも共有され,広く議論されることを期待したい。また,検討された課題の多くは,決して学校図書館だけに当てはまるものではないと感じた。本シンポジウムは,学校図書館に限らず,図書館界における実務と研究の関係を考える契機となったのではないだろうか。

青山学院大学大学院教育人間科学研究科・仲村拓真

Ref:
http://www.jslis.jp/conference/2016Autumn.html
http://www.ifla.org/publications/node/9512
https://ies.ed.gov/ncee/wwc/
http://eric.ed.gov/
http://bit.ly/JSLIS2016IMAI
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/81/
E1724