CA1886 – 国際化へと始動した日本の学校図書館―国際学校図書館協会とその東京大会― / 長倉美恵子

 

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カレントアウェアネス
No.330 2016年12月20日

 

CA1886

 

 

国際化へと始動した日本の学校図書館―国際学校図書館協会とその東京大会―

元東京学芸大学教授・前実践女子大学教授:長倉美恵子(ながくら みえこ)

 

はじめに

 これまで日本で図書館情報学関連の国際大会は何回か開催されてきたが、学校図書館分野の国際研究大会は2016年8月22日から26日までの5日間、明治大学駿河台キャンパスを会場に開催された国際学校図書館協会東京大会(1)が初めてである。ようやく日本の学校図書館も国際的に発信を始めたと言ってよいであろう。

 

国際学校図書館協会(IASL)

 「初等・中等学校の図書館サービス発展に関心のある人々の国際的話し合いの場」として、世界教職員団体総連合(WCOTP)を母体に国際学校図書館協会(International Association of School Librarianship: IASL)は1971年に発足した(2)。同様な趣旨の国際団体である国際図書館連盟学校図書館分科会(IFLA/SL)とは、経営・活動・体制面で性格的な違いがある。IFLA/SLは、主に国や機関の図書館情報学の団体代表で構成される国際専門団体であるIFLAの1分科会で、学校図書館政策に重点を置くが、IASLは、個人・団体会員を主要構成員とする学校図書館に特化した国際研究団体である(3)。IASLは1981年以降、調整委員(Liaison Officer)を任命し、時には共同研究プロジェクトを実施してIFLA/SLとの緊密な連携をはかっている(4)

 IASLは世界中での学校図書館制度(school librarianship)の樹立と発展を理想として掲げ、以下9項目をその活動目標にしている(5)

 

1.世界各国の学校図書館発展の唱道
2.カリキュラムや学習指導と学校図書館活動との融合
3.学校図書館専門職員の養成と継続教育の促進
4.学校図書館職員間の世界的共同体意識の醸成
5.児童青少年関連他分野との提携
6.学校図書館の研究と関連他分野での研究成果の導入
7.優れた学校図書館事例についての情報発信
8.児童青少年資料や活動事例についての情報交換
9.学校図書館及び情報サービス関連の会合、大会、その他の計画と開催

 

 IASLは入会に際し審査がなく、趣旨に賛同する一般個人や機関・団体のいずれも年会費を支払えば加入できる。日本からも創立当初より、数に増減はあるものの、常時、個人あるいは団体会員として入会している。役員は会長1名、副会長3名(総務、渉外、広報)、会計係1名、地域理事10名で、その任期は3年、地域理事以外は会員による選挙で決定される。地域理事(Regional Directors)は、アフリカ、アジア、カナダ、南米・中米、極東、欧州、北アフリカ・中東、オセアニア、米国の各国・地域代表9名と世界各地にある国際学校の代表1名で、各グループからの推薦に基づいて総会で任命される。毎年、国際研究大会の際に役員会(Board Meeting)を招集、年次事業計画を決定する。その主要な年間事業は、国際研究大会の開催と機関誌の出版である。

 国際研究大会は1972年のロンドン大会以降、毎夏、世界各地で開催されてきた。第1回から第43回までの大会開催地と大会テーマは、IASLの沿革とともに、須永和之氏による記事(6)に掲載されている。大会での研究発表内容は当初より各回ごとに“Proceedings of Annual Conference”として出版されてきたが、現在はCD-ROMやUSB等の電子媒体で大会時に参加者全員に配布される。

 機関誌については、研究誌として“School Libraries Worldwide”(7)を毎年1月と7月に、会報として“IASL Newsletter”(8)を年3回刊行している。研究誌、会報ともに電子ジャーナルで、研究誌掲載論文の一部にオープンアクセスのものはあるが、原則として会員のみがウェブサイト上で閲覧できる。なお、電子化以前の冊子体の研究誌と会報は、日本では全国学校図書館協議会(SLA)図書室で閲覧できる。この他に“Window on the World (WOW) of School Libraries”(9)という、会員のみ閲覧可能な世界230か国の学校図書館の政策、行政、統計等の情報が発信されている。

 現在、IASLは定款、運営上の詳細な諸規定や諸規則の周知、機関誌送付を含め、会員への情報発信、会員間の情報交換は全てウェブサイトを通じて行われている。

 

IASL東京大会

 今回の第45回IASL東京大会には米国やアジア諸国のみならず、オセアニア、アフリカ、中東、欧州各国からの参加もあり、30か国から約300名、国内からのスタッフ等を加えると約400名が参集した。会期中には並行して役員会、会員総会、各種研究委員会が開催され、また、プレコンファレンスとして8月21日に國學院大學を会場に、2015年策定のIFLAの新しい学校図書館ガイドライン(E1724参照)について、その作成者による解説及び紙芝居の2つのワークショップが開催された(10)

 大会では「デジタル時代の学校図書館」(A School Library Built for the Digital Age )をテーマに4件の基調講演、65件の研究発表、15件のポスターセッション、6コースに分かれての東京及び近郊の学校図書館見学が行われた。基調講演者はカナダのオバーグ(Dianne Oberg)博士、オーストラリアのヘリング(James Herring)博士、作家の阿刀田高氏、漫画家の里中満智子氏で、落語家の立川志の春氏の英語による口演も好評だった。

 研究発表やポスターセッションには、世界各国から多数の応募が寄せられ、国際選考委員会の厳密な選考により発表者が決定された。いずれも最近の学校図書館の実験的試み、施策、実践の結果に言及するものであった。分科会における研究発表では、とりわけ資料のデジタル化が進む現在、それに対する各国での取り組み、学校図書館専門職の役割等についての報告があり、それらに対する活発な討議や検討が行われた。

 全参加国の代表が自国旗を掲揚するIASL開会式恒例のフラッグセレモニーとともに、大学生による雅楽と舞、公式晩餐会での獅子舞や日本舞踊など、随所に日本の伝統を披露する工夫がされていた。高校生もビブリオバトル実演、ポスターセッションへの参加などで協力し、図書館見学先の小中学校では児童生徒やボランティアが琴演奏や盆踊りの「おもてなし」をした。閉会式では次回開催地の米国カリフォルニア州立大学ロングビーチ校代表者に大会旗が引き継がれた。なお、2017年大会の会期は8月4日から8日と予告された(11)

 会場では常時、各国からの参加者が持ち寄った世界の絵本や児童書の新刊が展示され、国内外の出版社・書店のブースが開設された。また、途上国や被災地域の学校図書館への支援のために、募金オークションも行われた。

 全体的に今回の東京大会は、IASL国際研究大会開催規定に準拠しながら、日本の学校図書館の特色、日本の教育や文化を広く国際的に発信したものと評価できよう。

 

謝辞

 筆者はIASLの極東地域理事を4期12年間勤め、1990年に名誉会員に指名され、日本の学校図書館の国際化を長い間唱道してきた。今回第45回IASL大会を東京で開催するために総力を結集してくださった学校教育界と図書館界の多くの皆様がたへの感謝の意を表したい。

 

(1)2016 IASL Tokyo, Japan: 45th Annual International Conference, 20th International Forum on Research in School Librarianship.
http://iasl2016.org/ja/, (accessed 2016-10-24).

(2)International Association of School Librarianship.
http://www.iasl-online.org/, (accessed 2016-10-24).
長倉美恵子.学校図書館の国際団体IASLについて:その運動と研究の動向.学校図書館.1983, (387), p. 20-25.

(3)“School Libraries Section”. IFLA.
http://www.ifla.org/school-libraries, (accessed 2016-10-24).
長倉美恵子. IASLとその活動.学校図書館.1986, (430), p. 48-54.

(4)須永和之.国際学校図書館協会IASL大会.現代の図書館.2014, 52(2), p. 91-97.

(5)“IASL Vision, Mission, and Objectives”. IASL.
http://www.iasl-online.org/about/organization/vision.html, (accessed 2016-10-24).

(6)須永. 前掲.

(7)“School Libraries Worldwide”. IASL.
http://www.iasl-online.org/publications/slw/index.html, (accessed 2016-10-24).

(8)“IASL Newsletter”. IASL.
http://www.iasl-online.org/publications/newsletter.html, (accessed 2016-10-24).

(9)“Window on the World (WOW) of School Libraries”. IASL.
http://www.iasl-online.org/WOW, (accessed 2016-10-24).

(10)“Notice about Pre-conference”. 2016 IASL.
http://iasl2016.org/conference-info/pre-conference/, (accessed 2016-10-24).

Ref:
全国学校図書館協議会機関誌編集委員会.特集,学校図書館協会と国際交流: 国際学校図書館協会(IASL). 学校図書館.1983, (387), p. 51.
長倉美恵子. “学校図書館の国際的提携”.世界の学校図書館(図書館学体系3). 全国学校図書館協議会, 1984, p. 47-57.
長倉美恵子. 学校図書館と国際団体の役割-IASLとIFLA/SL. 図書館界.1987,38(5),p. 260-265.
長倉美恵子. IASLと日本の学校図書館界.学校図書館.2016, (786), p. 19-29.
須永和之.IASL研究大会からみた世界の学校図書館.学校図書館.2016, (786), p. 31-34.

 

[受理:2016-11-15]

 


長倉美恵子. 国際化へと始動した日本の学校図書館-国際学校図書館協会とその東京大会-. カレントアウェアネス. 2016, (330), CA1886, p. 8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1886
DOI:
http://doi.org/10.11501/10228072

Nagakura Mieko.
The Internationalization of Japanese School Librarianship: The International Association of School Librarianship and its 45th Annual International Conference in Tokyo.