カレントアウェアネス-E
No.335 2017.10.19
E1963
LISSASPAC日本支部設立会・記念研究講演会<報告>
2017年8月12日,アジア太平洋図書館情報学会(Library and Information Science Society for Asia and the Pacific:LISSASPAC)日本支部の設立セレモニー及び記念研究講演会が,大阪府立中之島図書館において開催され,32人の参加があった。
LISSASPACは,2015年6月,インドのSRM大学を会場として開催された,第2回International Conference on Innovation Driven Librarianship(ICIDL)の場で設立宣言された新しい図書館情報学研究者のための学会であり,その会長には呉東根氏(韓国・啓明大学校教授)が就いている。設立メンバーの1人に,日本からは志保田務氏(桃山学院大学名誉教授)が副会長として加わっている。志保田氏の呉氏との出会いは,大学関係のプロジェクトで啓明大学校を訪問した時,自らの専門と同分野で活躍する呉氏に面会を求めたことがきっかけであった。LISSASPACでは,国際的であることを標榜し,2016年に14の国と地域からの代表によって定款が作成された。設立目的は,図書館情報学とその専門職の教育・養成を改善していくことや,研究者間の協力と協働の醸成に貢献すること,そして各会員国におけるベストプラクティスの創出を助け促進することである。そのための手段は,大会やセミナー,ワークショップの開催であり,ジャーナル,ニュースレター,研究書の出版であるとしている。現在,インド,インドネシア,韓国,シンガポール,タイ,台湾,中国,マレーシア,日本,ネパール,フィリピン,イラン,カナダ,米国の14の国と地域からの参加があり,その中のインド,韓国,シンガポール,中国,日本,イラン,米国の7か国に支部がある。各国の支部は,5人以上のメンバーが参加することによって設立される。日本支部は,2016年7月に志保田氏を支部長として設立されている。
当日のセレモニーに先立ち,同会場で8年余続けられている「図書館を学ぶ相互講座」が開催され,志保田氏による「アジア太平洋の図書館情報学と日本」の発表があった。それは,LISSASPACについて理解を深める内容でもあった。
設立セレモニーでは,中之島図書館の上野利和総務部長,呉氏,志保田氏からの挨拶があった。
記念研究講演会では,以下の講演並びに研究発表が行われた。講演では,まず,呉氏が「韓国の図書館情報学の教育と研究:現況と展望」と題して,韓国の図書館情報学の現在を,図書館員の専門資格に関する法令,図書館情報学研究の全般的傾向,韓国内の関係主要誌,韓国研究者による国内外の雑誌への貢献,論文を発表するジャーナルの形態等,膨大なデータを使い要因分析した。大城善盛氏(元同志社大学教授)は,「オセアニア地域向け展開の可能性」と題して,近年の研究対象であるオセアニア地域の図書館界を概観した上でこの地域でのLISSASPACの展開可能性を分析した。長倉美恵子氏(元東京学芸大学教授)は,「国際学校図書館協会(IASL)とアジア太平洋地域」の題で,長倉氏が長年関わり名誉会員ともなっているIASL(CA1886参照)とLISSASPACを,協会と学会という異なる組織であることを押さえた上で多角的に比較検討した。
研究発表では,鎌田均氏(京都ノートルダム女子大学准教授)の「大学生の日常生活における書籍との接触」,林炯延氏(韓国・慶一大学校教授)の“The Role of Public Library for Community Building”(コミュニティ形成における公共図書館の役割),立花明彦氏(静岡県立大学短期大学部教授)の「日本盲人図書館開館直後の活動実態」,岡田大輔氏(相愛大学講師)の“Trial of the image drawing method for Korean LIS students”(「学校図書館の絵を描く授業評価アンケート」の韓国文献情報学科の学生への試み),Eungi Kim氏(韓国・啓明大学校助教授)の“11 Lessons Learned from Using Bibliographic Databases for Research Purposes”(研究用の書誌データベース利用を通じて得た11の教訓)の5件があった。
なお,講演,発表の詳しい内容は,当日配布された『アジア太平洋図書館情報学会日本支部誌』の創刊号及び今後刊行予定の次号を参照されたい。
元々,呉氏を中心とした,緩やかな人的繋がりから広がりを持ち現在のLISSASPACが形作られた。一方で,アジア・太平洋といいながら現LISSASPACは,オーストラリアやニュージーランドが含まれていないとの指摘がある。しかし,それは日本をはじめとするLISSASPAC各会員が自らの専門を,国内だけでなく広く国外へと発信することによってそれらの国々とも繋がりを持つことが期待できよう。近年図書館情報学分野では韓国をはじめとするアジアの国々からの発信力が強まっているが,日本はその国々の持つ力ほどには他国への影響が強いとはいえない。LISSASPACのような研究者同士の交流からアジア・太平洋の国々との交流を強めていくことは,日本の図書館情報学発展の上でも大きな意義があると思われる。日本支部はその規約の中に,機関誌発行のほか研究集会の開催,共同研究・調査,国内外の関係団体・機関との連絡・協力等を行うことを掲げている。今後の活動に期待が寄せられている。
アジア太平洋図書館情報学会日本支部・前川和子
Ref:
https://www.facebook.com/groups/1010047469019295/permalink/1582231698467533/
http://www.lissaspac.org/index.html
http://www.lissaspac.org/nc_jpn.php?c=6
http://www.library.pref.osaka.jp/site/nakato/seminar-lib.html
http://shihota.world.coocan.jp/top_page/lissaspac-jp.html
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028282648-00
CA1886