カレントアウェアネス-E
No.335 2017.10.19
E1964
Code4Lib JAPANカンファレンス2017,熊本にて開催<報告>
2017年9月2日から3日にかけて,熊本学園大学にてCode4Lib JAPANカンファレンス2017が開催された。5度目の開催(E1851ほか参照)となる今回は39人が参加し,基調講演1件,発表8件,ライトニングトーク14件が行われた。本稿では開催概要や発表の一部を紹介し,報告としたい。
基調講演は上瀧剛氏(熊本大学)より「画像処理技術を用いた熊本城石垣の修復支援」と題して行われた。2016年4月の熊本地震によって崩落した熊本城の石垣は全体の約3割に及ぶ。従来の石垣修復であれば職人が目視で石材を照合する手法が取られてきたが,崩落した石材が多いために,膨大な時間とコストがかかるといわれていた。そこで上瀧氏らを中心に産官学連携のプロジェクトが立ち上げられ,崩落前の石垣の画像と崩落後の石材の輪郭データを照合することで石材の元の位置を特定する試みが進められている。講演の中では技術的な解説,これまでの成果や課題などが紹介された。文化財修復におけるICT活用が今や必要不可欠となっていること,その効果の高さ,ICT活用のための課題等が深く理解できる講演であった。また今後の修復や災害に備える意味でも,通常の状態の画像等をあらかじめデータベース化あるいはデジタルアーカイブ化することの重要性にも触れられた。参加者にとっては,技術面でもプロジェクトの意義の点でも刺激的な内容であった。
発表は【地域との協働】【基盤システム】【メタデータ流通】の3つのカテゴリーに分けて行われた。【地域との協働】では,川崎照文氏(大阪地域職業訓練センター(A´ワーク創造館))が,同センターが運営するまちライブラリーと貸出システムを紹介した。貸出を利用者との交流ととらえ,スタッフとの顔の見える交流としていること,また貸出システムを職業訓練生の実習課題として開発したことで,訓練生・同センター・就職先企業とのつながり作りをしたとのことであった。【基盤システム】では林賢紀氏(国際農林水産業研究センター)から,コンテンツマネジメントシステム(CMS)を利用して所属先ウェブサイトの情報を構造化した取り組みについて発表があった。構造化と二次利用可能なライセンスを整備したことで,情報発信のみならず再利用可能なデータ提供が可能になったこと等が紹介された。【メタデータ流通】では,江草由佳氏(国立教育政策研究所)・高久雅生氏(筑波大学)から,初等教育・中等教育で使われている学習指導要領と現行使用教科書の出版情報をLinked Open Data(LOD)として公開する「教科書LODプロジェクト」を例に,図書館の書誌をLOD化する方法について発表があった。TSVファイルやExcelを使い,5つのステップでLOD化および公開する方法で,情報技術に詳しくなくとも挑戦できると感じられる内容であった。
ほかにライトニングトークが例年どおり行われ,システムからイベント,社会福祉まで多彩なテーマでの議論が展開された。加えて今年のカンファレンスで特徴的だったのは「アンカンファレンス」と“Ask Anything”である。議論したいテーマを持つ人がそれを提示し,関心を持った人が参加する即席のディスカッションである「アンカンファレンス」は過去に「ブレイクアウトセッション」として開催されていたもので,3年ぶりにプログラムに復活した。その場でテーマを募るために,「先ほどの発表に触発されて」といった,発表内容をさらに展開するような議論も生まれやすい。初開催の“Ask Anything”はその名のとおり,会場内に何でも質問したいことを投げかけるセッションである。カンファレンス中に生じた疑問でも,日常業務の中で感じていることでもよい。答えられる人が答えたり,参考になる情報共有などを行う。今回も写真コレクションの公開に関する質問に対して,博物館関係者からアドバイスが提供されるなど,有用なやり取りが交わされた。「アンカンファレンス」も“Ask Anything”も,米国のCode4Libカンファレンスで催されているセッションで,過去に日本から参加したメンバーから評価の高かったものである。発表と質疑応答よりもくだけた雰囲気のもとで議論することができ,参加者が聴衆でなく議論への参画者となることを促す。このような形式のセッションになじみがない参加者もいるため,進行について説明は必要かもしれないが,プログラムに取り入れる効果は確かにあると感じられた。
振り返ってみると,当日その場でも議論のテーマが次々と出され,議論が盛り上がる,というCode4Lib JAPANカンファレンスの特徴が今年も出ていたと思う。参加者同士が,所属に関わらずひとつの場で交流し,議論できるのが本カンファレンスの長所である。
また基調講演をはじめ,熊本という開催地だから見聞きできたものも多数であった。会場提供に尽力していただいた運営メンバーに感謝したい。発表の映像はYouTubeで公開,実況ツイートのまとめはTogetter,講演・発表スライドはWikiサイトで公開されている。今年のカンファレンスの内容,あるいは来年の参加に関心がある方々に,ぜひ参照していただきたい。
大阪大学附属図書館・小村愛美
Ref:
http://www.code4lib.jp
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2017
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2017/program
https://togetter.com/li/1146565
http://wiki.code4lib.jp/w/images/c/c2/画像処理技術を用いた熊本城石垣.pdf
https://www.slideshare.net/terufumikawasaki/ss-79380959
https://figshare.com/articles/CMS__Web____pptx/5371555/1
https://www.slideshare.net/yegusa/20170903-c4ljplod
E1851
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