カレントアウェアネス-E
No.335 2017.10.19
E1965
大学図書館問題研究会第48回全国大会(京都)<報告>
大学図書館問題研究会第48回全国大会が,2017年9月9日から11日にかけて,京都市の同志社大学新町キャンパスを会場に,130人を超える参加者を得て開催された。
大学図書館問題研究会は,1970年に発足した大学図書館員を中心とする自主的かつ実践的な研究団体である。毎年夏に開催される全国大会では,会運営を巡る討議や予算などの決定を行う会員総会,研鑽の成果を報告する研究発表,テーマ別に情報を共有し議論を深める課題別分科会,最新のテーマについて専門家を招いて議論するシンポジウムなどが行われる。また,現地の図書館見学など開催地ならではのエクスカーションも企画される。なお,全国大会は会員に限らず参加できるため,会員の交流を深める場のみならず,新しい会員を迎える機会にもなっている。
今大会の初日は,初参加者へ大会プログラムの案内を行う恒例のウェルカムガイダンスを皮切りに,会員総会が行われた。続いて,研究発表として,北村志麻氏,小田垣宏和氏(図書館パートナーズ)による「大学図書館と授業の協働」と題した芝浦工業大学における教員と連携したグループワークでの授業実践の紹介,および森彩乃氏(名古屋大学法学図書室)による「交代寄合高木家における文書管理」と題した名古屋大学附属図書館「高木家文書」に基づいた実証的なアーカイブズ研究の発表があった。その後,木谷佳楠氏(同志社大学神学部助教)による「アメリカの文化戦争:宗教的価値観と表現の自由との衝突」と題した記念講演が行われた。そこでは,同志社大学の創立者新島襄が求めた米国の自由の精神,その一方にある宗教的圧力と自主検閲など図書館の自由にもつながる課題が示された。
2日目は,「図書館経営」や「利用者支援」など例年設けられているテーマから,「学生協働」や「電子書籍」など今回新たに設けられたテーマまで,計10の分科会が開催された。各分科会では,参加者が事例発表を行ったり,各自の課題を持ち寄って意見交換をしたりと,それぞれの参加者の関心に沿った情報の共有や課題の検討が活発に行われた。また,「資料保存」をテーマに古典籍の修復を取り上げ,工房見学も行う京都ならではの分科会もあった。
最終日は,「オープンサイエンス時代の大学図書館の役割~研究データ,デジタルコレクション管理のこれから~」と題したシンポジウムが開催された。内閣府オープンサイエンス推進に関するフォローアップ検討会座長でもある,引原隆士氏(京都大学図書館機構長,京都大学大学院工学研究科教授)の「オープンアクセス方針とオープンサイエンスの時代」では,学術情報流通を巡る研究者コミュニティの抱える課題から説き起こし,オープンアクセス(OA)という解法とその先の展望が示された。一方,図書館界に対しては,研究のあり方を理解した上で,情報資源収集から内部情報発信へシフトすべきとの提言があった。続く青木学聡氏(京都大学情報環境機構准教授)による「大学での研究データマネジメントを考える」では,研究公正,オープンサイエンス,学術の発展と社会貢献という3つの側面から研究データ管理の多義性を示した上で,国内外の取り組み事例が紹介された。最後に大村明美氏(京都大学附属図書館)による「京都大学におけるデジタル画像相互運用のための国際規格IIIFに準拠した画像配信システム導入の取り組み」では,京都大学図書館機構がオープンアクセス推進事業の一環として進めている貴重資料の電子化・公開の取り組みに係る実践的な報告がなされた。その後の質疑は,学術情報のオープン化における大学図書館の役割を巡る関心の高さをうかがわせるものとなった。
さて,全国大会は,従来各地域の会員組織が主になって開催されてきたが,近年は大会実行委員会により開催されている。そこでは,実行委員が大会運営に係る役割を担うことで,業務では得られない経験を積む機会となっている。また,このように既存の場を継承しつつ,新しい組織運営のあり方を創出していくことも全国大会の一つの意義となっている。なお,次回の全国大会は,2018年夏,福岡市で開催予定である。
京都大学附属図書館・赤澤久弥
Ref:
http://www.daitoken.com/
http://www.daitoken.com/research/annual_conference/2017/index.html