カレントアウェアネス-E
No.334 2017.10.05
E1956
待ちに待った陸前高田市立図書館の開館
2017年7月20日,陸前高田市立図書館(岩手県)の新図書館が開館した。本稿では,新図書館の概要や開館までの経緯について紹介する。
陸前高田市立図書館は,東日本大震災時の津波で全壊した後,2012年12月1日,仮設図書館として多くの支援を受けながら再開館した。仮設図書館は,浸水区域を避けて建てられた。閲覧室の広さは約50平方メートルであった。
新図書館開館準備のために2017年1月からは貸出を一時休止,新聞と一部の雑誌のみ館内で閲覧するという縮小運営とした。憩いの場として利用してもらおうと2013年6月に始めた「井戸端図書館」(お茶を飲みながらおしゃべりを楽しむ時間)も休止した。そのため,市民は不便に感じていたことと思う。2017年6月30日で仮設図書館を閉館する際には,寂しさと新しい図書館への期待の声が多く寄せられた。仮設図書館の来館者は6年間で3万2,364人,閉館時の蔵書数は4万7,645冊であった。
また,陸前高田市では,古本を取り扱う株式会社バリューブックスと提携して,寄付者が古本をバリューブックスへ送り,その買取額相当が陸前高田市へ寄付されるという「陸前高田市図書館ゆめプロジェクト」を実施し,図書館の再建等に役立てられた。
新しい建物は,津波対策のためにかさ上げされた市の中心部に商業施設と併設する形で建てられた。延床面積は894.73平方メートル,柱には岩手県産のカラマツ,床材には気仙杉を使用したため来館者には木の良い香りがすると好評である。開館時の蔵書数は,仮設図書館閉館後に国の災害復旧事業で購入されたものも合わせて,図書6万5,000冊,視聴覚資料4,500点,雑誌100タイトルである。館内は蓋付きの容器であれば飲み物の持ち込みを可能としている。ペットボトルや水筒のほか,商業施設内にある飲食店で提供されている飲み物も持ち込めるため,資料を読みながらゆっくり過ごすことができる。
仮設図書館から引き継いだ郷土・震災コーナーには,郷土資料と東日本大震災関連資料を集めて配架している。また,東京都立中央図書館に修復を依頼した郷土資料の一部を,修復前の状態を写した写真と対比できるように展示しており,関心を集めている。
新たに設けたティーンズコーナーには,進路や職業に関するものや文学作品などの中高生向けの図書を配架している。また,ホワイトボードを設置して文化祭等のお知らせを掲示したり,進路に関する図書や学校行事にも活用できる図書を置くミニ展示を行ったり,雑誌を配架したりするなど,仮設図書館では来館者数が少なかった中高生へのアピールポイントとしている。
静かに読書を楽しみたい,勉強に集中したいという来館者のためにサイレントルームを設けたところ,夏休みや試験期間に勉強のために来館する中高生が多かった。書架を眺めて息抜きをする中高生の姿も見られた。今後,中高生の来館者数はさらに伸びるのではないかと感じている。
開館から1か月で来館者数が2万人を超えたが,開館直後に夏休み期間に入ったこと,お盆で帰省者が多かったことなどが大きな理由だと思われる。また,商業施設と併設したことや近くに子どもたちが遊べる広場があることで家族連れや買い物帰りの来館が多くなり,仮設図書館では見かけることの少なかった若い世代の姿を見ることが増えた。東北地域以外からの来館も多く,中には「陸前高田市図書館ゆめプロジェクト」で協力したのだが,開館したと聞いたので見に来たという来館者もいた。
来館者が増えることにより,カウンターで待たせてしまうことが多くなるという懸念もあったが,セルフ貸出機を設置したことで待ち時間の軽減につながっていると思う。セルフ貸出機は,子どもたちにはとても人気があり「カウンターで貸出できるよ」と声をかけても自分で貸出をしたいと列をつくっていることもある。
開館前にも様々なイベントやメディア等で取り上げられるなど,新図書館の開館を気にかけてもらうことが多いとは感じていた。開館からの2か月でそれがさらに実感でき,とてもうれしく思うとともに,陸前高田市立図書館を今後より良いものにしていかなくてはならないと改めて感じた。人と資料・情報が出会い,知る,調べる,学ぶ,くつろぐ,楽しむことができる場所として図書館を身近に感じてもらえるよう努力していきたい。
陸前高田市立図書館・伊藤晶子
Ref:
http://www.city.rikuzentakata.iwate.jp/tosyokan/
http://books-rikuzen.jp/