E2442 – 大学図書館研究会第52回全国大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.424 2021.11.11

 

 E2442

大学図書館研究会第52回全国大会シンポジウム<報告>

国際教養大学中嶋記念図書館・相場洋子(あいばようこ)

 

   2021年9月18日から20日にかけて,大学図書館研究会第52回全国大会がオンラインで開催された。1日目に会員総会,研究発表,記念講演が,2日目に課題別分科会等,3日目にシンポジウム等が行われた。本稿では3日目のシンポジウム「「アフターコロナの大学図書館」-アフターコロナ社会の情報提供を考える-」の内容を紹介する。

  初めに小嶋智美氏(Independent Librarian)が,「『アフター』の前にあるもの」という題で,新型コロナウイルス感染症感染拡大で直面した,電子リソースの利用やILL等の各種手続きにおける大学図書館の課題について,以前からの蓄積がコロナ禍を契機に露呈したと捉え,利用者からの視点でコロナ禍の図書館サービスについて整理し,図書館員による情報の発信と受信の意識や情報との向き合い方について振り返りを促した。また,自館の取り組みを時系列にまとめて公開する等といった,コロナ禍での日本の図書館の活動を紹介し,今後の図書館員による情報サービスの姿勢について将来の予測は難しいため,過去の経験を基に着実に行動することを提案した。

  次に鷲嶺奈緒子氏(大学生協事業連合)は,「大学生協がすすめる電子書籍を使った学びのご紹介」と題し,大学のオンライン授業への対応として,大学生協が開発したDECS(Digital Educational Contents Support)アプリによる学習サポートの可能性について発表した。DECSアプリでは講義資料・教科書・辞書等が一体化した電子教科書システムの利用ができ,アプリの利用が授業の受講者個人に限定されている点で,大学図書館が提供する電子書籍やネット通販サイト等を通して個人で購入できる電子書籍とも異なるという特徴がある。コロナ禍で利用できる電子書籍の増加や電子資料のリモートアクセスの確保に苦労している図書館が多いことを反映してか,参加者からの具体的な利用についての質問も多く,電子書籍による学修支援の新たな選択肢としてDECSアプリへの注目度は高かった。

  最後に磯本善男氏(千葉大学附属図書館)は,「大学図書館の役割をあらためて考える」という発表で,新型コロナウイルス感染症感染拡大当初の出版社による有料コンテンツの一時的な無料化や同時アクセス数制限の解除のような電子資料サービスの拡大や,大学の授業への対応等を振り返り,大学図書館のサービス対応について紹介した。続いて,図書館を中心とした資料の利用にとらわれがちな図書館員の視点から利用者目線への転換を喚起した。さらに,電子資料の整備にとどまらず,アクセス方法自体をどのように丁寧かつ分かり易く提供するかといった,利用者による電子資料への円滑なアクセス実現の工夫も含め,今後大学図書館が大学の教育研究に果たすべき役割について問題を投げかけた。

  アフターコロナ社会に向けた大学図書館の情報サービスについての三つの発表を聞いて,顧客のニーズに合わせた製品が開発され利用可能になっていく中で,大学図書館はそれに迅速に対応するだけでなく,コロナ禍以前に培われた,利用者サービスに対する図書館員の考え方についての振り返りが重要であると感じた。そして喫緊の技術的な対応にとどまらず,もっと先を見越した,知の拠点としての大学図書館の立ち位置を模索していくことが必要であろう。

Ref:
“シンポジウムについて(9月20日(月))”. 大学図書館研究会第52回全国大会(オンライン).
https://www.daitoken.com/research/annual_conference/2021/symposium.html
“大学生協の電子教科書とは”. 大学生協の電子教科書.
https://www.univcoop.or.jp/service/book/univ-etext/what/index.html
“私たちのミッション”. 大学生協の電子教科書.
https://www.univcoop.or.jp/service/book/univ-etext/plan/
赤澤久弥. 大学図書館問題研究会第48回全国大会(京都)<報告>. カレントアウェアネス-E.2017, (335), E1965.
https://current.ndl.go.jp/e1965