E2443 – ミュージアムにとってのジャパンサーチ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.424 2021.11.11

 

 E2443

ミュージアムにとってのジャパンサーチ<報告>

東京富士美術館・鴨木年泰(かもぎとしやす)

 

   2021年9月24日,国立国会図書館(NDL)の主催により「ジャパンサーチイベント~ミュージアムにとってのジャパンサーチ」がオンラインで開催された。6月に開催された「ジャパンサーチ連携説明会~地域アーカイブをつくる・つなぐ・つかう~」に続いて,とりわけミュージアムの連携促進を図るイベントである。筆者も本イベントに参加したので、当日の内容を報告する。なお,当日の資料と動画がイベントページに掲載されている。

  はじめにNDLの徳原直子氏より開催の趣旨と狙い,新たに策定されたジャパンサーチ(以下「JPS」;E2176E2317参照)の次の5年間の戦略方針「デジタルアーカイブを日常にする」の紹介がなされた。

  第一部は「ジャパンサーチと連携するには」と題し,連携・活用方法のレクチャーがNDLの近藤かおり氏から行われ,続いて4件の連携事例が報告された。

  はじめに,神保宇嗣氏(国立科学博物館)が,同館がつなぎ役となってJPSと連携している「サイエンスミュージアムネット(S-Net)」と「魚類写真資料データベース」を紹介した。

  匹田賢嗣氏(三重県デジタル社会推進局デジタル事業推進課)は,地域の自治体がつなぎ役となって構築した「三重の歴史・文化デジタルアーカイブ」の事例を紹介した。三重県内の文化財や行政資料までの資料を一括検索できるシステムで,JPSを始め複数か所にデータを提供している。

  副田一穂氏(愛知県美術館)は,データ連携を実現する前に美術館で必要だった作業は,コレクションをめぐる業務の洗い出しからデータベース構築,そしてデータベースを使った業務フローの作成であったと述べた。

  齊藤有里加氏(東京農工大学科学博物館)は,工学部所蔵の錦絵を含む「蚕糸学術コレクション」のJPS連携と学芸員実習における活用事例について報告した。

  第二部のパネルディスカッションは,田良島哲氏(国立近現代建築資料館)をモデレータに迎え,「ミュージアムにとってのジャパンサーチ」について議論された。パネリストは,事例報告者に全国美術館会議情報・資料研究部会幹事を務める川口雅子氏(国立西洋美術館)を加えた5人である。

  議論の前半は「ミュージアムにとってのデジタルアーカイブ」をテーマに進行した。

  はじめに,デジタルアーカイブの構築と運営面で課題となるデータ作成の手間・コスト・人手の問題について議論がなされた。リニューアルの機会に時間と予算を確保する,デジタル化しやすくニーズの高い資料に注力する,データベースを積極的に日常業務で活用する,といった工夫が述べられた。また,博物館については,S-Netが補助金を活用していること,美術館については,文化庁アートプラットフォーム事業がデータ化の手間を負担していること,等が各データ提供館の参加につながっているのではないかという意見が出された。上記を受け,デジタル化のさらなる推進のためには,適切な動機付けと何らかの支援策が必要だというまとめがなされた。

  次に,デジタルアーカイブの公開をめぐる課題に話題が移った。高画質での作品画像公開を優先するという館内方針のもと個別の権利処理を行っている館が,最近はウェブ公開を許容する権利者も多いと述べた一方で,時間や人手の足りない館はまずはサムネイル画像の公開を検討するのも良いという意見も出された。また,リスク管理の観点から扱いが難しいデータの公開については,データの活用は非営利に限定しているという館や,一部の公開できる情報のみ公開して他の情報は研究目的の利用申請に応じて提供するなどコントロールしているという館もあった。

  議論の後半は「ミュージアムにとってのジャパンサーチ」をテーマに進行した。

  自館での公開がきちんとできていればJPSとの連携は課題が少ない等,連携自体はスムーズだったという感想が主であった。一方,JPSへの適切な情報提供頻度の検討や技術的課題への対応をしているという意見,一覧性や文字の大きさ等の点で閲覧しにくいことがあるといった意見があった。また,JPSのようなプラットフォームに連携すると複数の連携先を経由して同じデータが重複することが問題となる場合があり,重複を避けるためにデータにフラグを入れる検討をしているという館があったが,これについてはデジタル化の進捗に伴って今後利用者に受け入れられていくべきことという意見が出された。

  今後のJPSについては,利用のモチベーションにつなげるためにも参加館が増え,各館が更にデータ公開を進めることを期待する声があった。また,JPSの機能を活用するためのワーキングや勉強会を行うことで,利用のアイデアが出てきたり,多分野の学芸員等専門家が関わっているメリットを活かせたりするのではないかという意見が出されるなど,JPSを活用するシーンが広がり,プラットフォームとして機能していくことについての期待が寄せられた。

  パネルディスカッションのまとめとして,デジタルアーカイブジャパン推進委員会・実務者検討委員会座長の高野明彦氏が登壇し,JPSというプラットフォームの上で何かをすることだけに囚われるのではなく,自分たちの活動を再定義したり,可能性を探ったりするツールとして柔軟に使ってもらいたいと述べた。

  最後に美術館のつなぎ役を担う全国美術館会議情報・資料研究部会幹事の立場,また,美術館の所蔵作品情報発信の一担当者として筆者の感想を述べたい。まず,デジタルアーカイブ運用はデータベースを業務上必須のツールとすることが重要であり,そのためのスキルを習得する研修が必要だと感じた。次に,データ提供館側がデータ利用者の視点から必要な機能や活用方法を知ることが重要ではないかと感じた。また,JPSの充実した機能やデータ連携・更新の容易さを高い水準で維持し,連携機関・ユーザーに「選ばれる」プラットフォームを目指してほしい。こうしたことが複合的に展開する中で,JPSが新たな指針として掲げた「デジタルアーカイブを日常にする」状況が生まれ,情報基盤・プラットフォームとしてのJPSの展開が進んでいくのではないかと期待が膨らむ次第である。

Ref:
“ジャパンサーチ イベント~ミュージアムにとってのジャパンサーチ~”. ジャパンサーチ.
https://jpsearch.go.jp/event/cooperation202109
“ジャパンサーチ連携説明会~地域アーカイブをつくる・つなぐ・つかう~”. ジャパンサーチ. 2021-06-11.
https://jpsearch.go.jp/event/cooperation2021
“魚類写真資料データベース”. ジャパンサーチ. 2021-08-26.
https://jpsearch.go.jp/database/FishPix
“サイエンスミュージアムネット”. ジャパンサーチ. 2020-08-03.
https://jpsearch.go.jp/database/s_net
“三重県”. ジャパンサーチ. 2020-08-20.
https://jpsearch.go.jp/organization/mdas
“愛知県美術館コレクション”. ジャパンサーチ. 2020-07-13.
https://jpsearch.go.jp/database/apmoa_mapps
“蚕織錦絵コレクション”. ジャパンサーチ. 2020-10-08.
https://jpsearch.go.jp/database/Nhikie
Art Platform Japan.
https://artplatform.go.jp/ja
国の分野横断統合ポータル ジャパンサーチ試験版公開後の動向. カレントアウェアネス-E, 2019, (376), E2176.
https://current.ndl.go.jp/e2176
ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E, 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317