E2031 – 北の本箱:本と人がつながる幕別町図書館の本棚

カレントアウェアネス-E

No.348 2018.06.14

 

 E2031

北の本箱:本と人がつながる幕別町図書館の本棚

 

●人の縁で誕生した「北の本箱」

 幕別町とは縁もゆかりもない著名人による寄贈本の展示コーナー,「北の本箱」が北海道の幕別町図書館(以下「当館」)に設けられたのは,1997年11月。作家の森村誠一さん,株式会社資生堂名誉会長の福原義春さん,劇作家の平田オリザさんなど18名の寄贈本が展示されているこのコーナーは当館の蔵書冊数約24万冊のうち,約3万3,000冊を占める,来館者の知的好奇心をくすぐる空間となっている。

 事の始まりは,『現代ニッポンにおける人生相談』(週刊朝日別冊1997年6月15日号)において,「私たちに勇気を!企業トップと著名人の苦悩」という記事の中で取り上げられたのがきっかけである。演劇評論家の大笹吉雄さん,作家の下重暁子さん,歌人の故・近藤芳美さんから寄せられた「マンション暮らしで本の山に埋もれている」「溜まる本に思案投げ首」という悩みが,同誌の企画編集を担当していた幕別町出身のジャーナリストの故・和多田進さんから幕別町に投げかけられ,「図書館の蔵書として寄贈をお引き受けします」と回答したのが掲載された。それが読者の目に留まり,著名人のみならず全国各地から問い合わせが相次いだ。現在は,寄贈図書を活用した「古本交換」などが盛んに行われているが,町が広く寄贈を募るのは,当時としては珍しい取組であった。そのような経緯から,各著名人から寄せられた本を生かすことを目的とし,寄贈者それぞれの名前をつけた本棚を設置する「北の本箱事業」が町を挙げて取り組まれた。あわせて,著名人と交流しながら地域の力を熟成させる「北の文化事業」が取り組まれることになった。

 文化人の知恵と人脈を生かした町づくりとして,全国紙でも紹介された「北の本箱」は,福原さんら新聞を見た著名人から直接,問い合わせがあり,全国的に注目されることになった。開始時点では展示のみであったが,1998年4月から貸出サービスをスタートさせ,その間には,本の寄贈の縁により森村さんの講演会が開催され,翌年1999年10月には,大笹さんの演劇講演会も催された。また,同年に町主催の演劇ワークショップを行った平田さんからも本の寄贈を受けることとなった。平田さん,森村さん,和多田さんの三氏とは,幅広い人脈を生かし,広く町民の紹介や宣伝をしていただく町の文化大使である「町友」として縁が生まれることとなった。

●「北の本箱」がもたらしたこと

 「北の本箱」を類のない幕別町の宝物としているのは,ゆかりのなかった著名人との縁を生んだこと,そして,多種多様なジャンルの著名人が所有していた本を手に取ることができることにある。例えば,福原さんの本棚は経営,植物,日本文化,芸術,詩歌に加え,絵本や建築など多岐にわたる。写真家の故・佐藤明さんの本棚は,手に入りにくい写真関連の書籍や貴重な写真集が並び,著述家で図書館勤務の経験もある故・山下武さんの本棚には,古書や読書術など書物に関わる本が並んでいる。その中には,一般に流通していない本,今では入手困難な本が数多く含まれている。

 当館の蔵書を厚くしている「北の本箱」の多重多層な本は,「文脈」を意識した緻密な本の並べ方,いわば,その本が持つ「知」をさまざまな角度からみて,本と本とをつなげるという並べ方にしている。例えば,福原さんの本棚の場合,「資生堂」から連想した「花椿の赤」というキーワードから赤い表紙の本だけを並べたり,赤から広げた情熱,花,危険というキーワードと本とを結びつけ並べたりしている。当館は2014年4月,LENコードという二次元カラーコードなどを活用した新たな図書館システムを導入した。書架とそこに配列された資料とを紐づける棚管理という概念で運用されるそのシステムを導入したのは,「北の本箱」がきっかけになったと言える。

●20年を迎えて

 本を介した縁はつながっているものの,著名人との交流による地域の文化づくりは希薄になっていた。著名人との縁を再び深くし,「北の本箱」の更なるPRを図るため,「北の本箱20周年記念事業」として,2018年1月,図書館サポーター「まぶさ(まくべつBOOKサポーター)」のスキルアップも兼ね,メンバーによる平田さん,福原さんへの取材を行った。幕別町の可能性や図書館を含めた文化政策の重要さ,本を選ぶこと・読むことの大切さなど,「北の本箱」と本への思いが語られた取材内容を当館ウェブサイトで紹介している。これを機に,2018年8月19日に平田さんの講演会とワークショップを行うことが決定した。

 「北の本箱」が20年にわたり続いているのは,本の持つ力が十分に発揮できているからであろう。例えば,現在,当館において実施している「ストレスチェック」は,図書館とストレス測定という,一見つながっていないものでも,ストレスケア本という「本」が図書館と人,人と人とを結びつけている。本はどのようなもの・ことにでもつなげることが可能である。本という媒体を通して文化と人とをつなげた「北の本箱」は,まだ顕在化していないその可能性を見いだし,いっそうの活用を目指す筋書きが,今なお書かれている。

幕別町図書館・民安園美

Ref:
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https://www.library.pref.hokkaido.jp/web/publish/qulnh000000006is-att/vmlvna0000000hc8.pdf
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/181129 (北海道新聞)
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/main-mbs/287049-mbs-profile-00
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/main-spkikaku/48-archive2015/286129-2015-07-20-07-34-32
http://mcl.makubetsu.jp/index.php/events/288211-ev-stress