CA2002 – 図書館をテーマにした同人誌即売会「としょけっと」の開催から / みさき絵美

PDFファイル

カレントアウェアネス
No.349 2021年09月20日

 

CA2002

 

図書館をテーマにした同人誌即売会「としょけっと」の開催から

としょけっと実行委員会:みさき絵美(みさきえみ)

 

 「としょけっと」は図書館をテーマにした同人誌即売会だ(1)。2017年のある夏の夜、筆者も含めた顔なじみの司書同士がSNSで「こんな同人誌即売会あったらいいね」と会話をしていたことが開催のきっかけとなった。小さなつぶやきから始まった同人誌即売会は年に一度のペースで続き、2020年には4回目の開催を迎えた。

 

開催まで

 文芸分野の同人誌や、fanzine、zineと呼ばれる個人で制作した冊子など、自費出版物の文化は古今東西にあり、さらに“マンガ・アニメ・ゲーム等を題材としたいわゆる「マンガ同人誌」”(CA1672参照)や、“研究や調査をまとめた同人誌”(E2216参照)にも見られるように多彩な同人誌は、表現の一つの方法として、多くの人に選択されている。制作された同人誌は、作り手が“サークル”として会場に赴いて卓上に作品を並べ、それを実際に見て入手できる同人誌即売会や、専門書店などを通じて頒布、販売されている。

 としょけっとは同人誌即売会のひとつだ。SNSでの気軽な妄想としての発言が、図書館総合展運営委員会の目に留まり、コンベンション「図書館総合展(以下「総合展」)」(CA1944参照)の一企画としてあれよあれよという間に開催が決まった。

 具体的には、使用できる区画の規模、開催期間を考慮し、スタッフが同人誌やグッズを預かり展示・販売を代行する委託式にした。また会場には同人誌やそれに類する活動に初めて触れる人も多いと予想して、総合展で同人誌即売会を開催する独自性を考慮し、対象は個人が制作したもので、二次創作作品や成人向け作品、商業作品は取り扱わないこととした。

 総合展の開催日に合わせるため平日の3日間開催という、通常であれば日曜日や祝日の開催が多い同人誌即売会としては珍しい制限があるが、一方で会場の確保、整備に関しては総合展側に任せることができるのは非常に恵まれた環境でもある。

 当日まで中心となって準備を進めるメンバーは3人ほどで、いずれも司書であり、同人誌や同人誌即売会に趣味として関わってきた経験があった。開催期間中には毎回5人程度のスタッフが現場を手伝い、普段は司書や学生といった人が、一個人の趣味としてとしょけっとに関わってくれている。

 

としょけっとの目的

 はじまりは単純に「図書館と同人誌がもっと繋がるとたのしそう!」と思ったのがきっかけだが、さらに紐解くと開催にあたり意識したのは以下の2点だ。

 まず、図書館に関わる人に、図書館がどのように思われているのかを知ってほしいというものだ。図書館を舞台にした創作はさまざまにあるが、それが同人誌でも多様な形で見られることや、図書館が調査機関として使われ、その結果が同人誌としてアウトプットされている状況を知り、図書館の有用性が受け入れられている実態を目の当たりにしてほしいと考えた。

 また、図書館に関わる人が作品を通じて声を上げる場になることを意図した。図書館員がひとりつぶやくだけでなく、広く訴えたいと思った際に、所属や立場をフラットにして意見を述べられる場は、そう多くないと感じていた。日々の仕事についての所見や、率直な感情を表に出して発散するのと同時に、その声が同業の間に届き、表現したことが何らかの変化や交流になっていくことを願った。

 

特色あるジャンル

 参加申込のジャンルは「図書館にかかわるもの」とし、さらに以下のように分類した。

  • A.図書館分野該当
    • 図書館に関連する知識や、これを扱ったり、これに関連したりする同人誌やグッズなど(創作・研究・実体物ほか)
    • 図書館学界隈の研究もしくは図書館・図書館施設・(コレクション論や参考図書としての)資料・図書館員のいずれかが扱われているものや、著者が執筆にあたり利用者の立場で図書館資料を利用したものも対象とする
  • B.図書館著者該当
    • 図書館関係者(現役、経験者、学生、研究者、関わる企業に勤務など)が作った同人誌やグッズなど
  • C.図書館両方該当(A、B両方に該当)

 2018年等、同時期・同会場での「アートミュージアム・アンヌアーレ」(2)の開催にあわせ美術館分野を含めた年もあるが、基本的には上記3つがとしょけっとの分類だ。これらの分野に基づき、としょけっとのウェブサイト、Twitter、総合展の告知などを通じて広報を行い、同人誌やポストカードなどのグッズが参加作品となった。

 同人誌即売会では、特定の作品やジャンルに絞って開催される「オンリーイベント」は珍しくない。しかし、多くは同人誌の内容が参加の判断基準となり、「図書館著者該当」のように作り手の立場に言及しているのは珍しい。図書館関係者が声を上げる場でありたいという目的ゆえの、としょけっとの特色と言える。

 

開催の様子

 2017年から2019年は総合展の会場であるパシフィコ横浜の一角で、預かった本を並べ、来場者に同人誌やグッズを自由に手に取ってもらい、スタッフが会計をする形で行った。サークル参加者数は平均24、預かった作品は平均38点で、全国から作品が送られてきた。ずらりと並べると、大きさも厚みもまちまちの同人誌、グッズの個性が際立った。1冊ずつの特色が分かりやすいように、各作品の脇には、誌名やあらかじめ提出してもらったコメントを印刷して張り出した。また同様のものをTwitterでも発信し、PRに努めた。

 会場では、「本の修理」や「図書館でのゲーム実践」「資料探しのコツ」などのハウツーの内容のものが人気を集める様子が見られた。また、研究的内容の地誌やブックレビュー、図書館を舞台にしたマンガ・小説などもよく手に取られていた。

 としょけっとは同人誌即売会の規模としてはごく小さいものだが、総合展が会場であることから、同人誌への予備知識の有無にかかわらず、意外なほどに多くの人が立ち止まり、作品と出会ってくれた。総合展には未知の資料に対する興味、好奇心を持っている参加者が多く、としょけっととの相性の良さとなって表れたのではと受け止めた。

 2018年からはサークル側に会場に直接来てもらう枠も募集したところ、毎回3サークルほどが直接参加している。書き手本人とその場でやりとりができる同人誌即売会の醍醐味をいかし、作品の詳細、またときに同人誌で表現活動をすることそのものについても活発に語らう姿が見られた。

 また、マンガ家で『鞄図書館』作者の芳崎せいむ氏、フランスのマンガ、バンド・デシネ作品の翻訳を手掛ける原正人氏を招いたスピーカーズコーナーでのトークイベントや、マンガと図書館とのコラボをテーマにしたフォーラム、創作同人誌即売会コミティア(3)との連携も行い、同人誌と図書館に多視点からのアプローチを試みている。

 

図 としょけっと2018の様子

 

 

2020年のオンライン開催について

 2020年はコロナ禍により図書館総合展がオンライン開催となり(CA1996参照)、としょけっともインターネット上にリンク集ページを作成し、11月の1か月間公開する形で実施した。参加サークルは24、リンクした先は35か所だった。

 現物を送ってもらう必要がないため参加へのハードルを下げ、同人誌やグッズの実物が無い、たとえば1つのブログ記事単位でのリンク掲載を可能とした。結果、作品を販売する同人誌専門書店へのリンク、作品を載せている個人ウェブページ、ブログなど、今までにない新たな参加があり、よりバラエティに富んだ作品を紹介できた。一方でオンラインでの販売は実際の会場販売に比べると反響が薄く、サークル参加者から「参加したが期待した成果は無かった」とのコメントも届いた。効果的な広報や、作品をより多くの人に知ってもらう後押しをどう行っていけるかが課題である。

 

参加者の声から

 作品との出会い、その作り手、受け取り手の人々とのやりとりはどれも心動くできごとだが、今回は2つの印象的な例を紹介する。

 ひとつ目は、会場でもらった「他の司書の様子が分かって嬉しい」という感想だ。司書になって日が浅い人、ベテランを問わず同様の旨を複数告げられた。司書を取り巻く環境にはさまざまな情報源があるが、同人誌という、より作り手の生の声に近い表現が共感を呼びやすかったのではないかと推察する。

 ふたつ目はサークル参加者からの、「自分で同人誌を制作し、本づくりの大変さを実感した」という言葉だ。発表する内容をまとめ、全体の構成の検討・決定、ノンブルの位置までを考えてみて、職務で本に触れるだけではわからなかった本づくりの大変さに気づいたとのことだった。としょけっとがきっかけで同人誌制作をしてみたというありがたい話も、一度ではなく耳にした。

 

おわりに

 同人誌は特別な人が制作するのではなく、作り手と受け取り手が非常に近い位置におり、全国津々浦々で作り続けられている。作品を発表することは、非日常の“ハレ”の性質を持った行動だが、その晴れやかな作品発表までは往々にして、地道な作業の積み重ねだ。図書館には日々こつこつと創作をする人たちを支える力があり、また「図書館」というテーマだけで多くの作品が寄せられ、同人誌の作り手からも非常に好意的なイメージを持たれていることを、としょけっとの参加作品から感じることができる。

 創作に触れる楽しさ、困難さ、それを行う人々への敬意を、図書館に関わる人自らが体感することが、図書館と同人誌の相互の活動を盛り立て、人と資料とのつながりへの一助となることを願っている。

(1) としょけっと.
https://tosyoket.com/, (参照 2021-07-01).

(2)「アートミュージアム・アンヌアーレ」は、美術館に関わる全ての人が立場を越えて議論し、交流できる場として開催されている。
アートミュージアム・アンヌアーレ2018.
https://am-annuale.jp/archive/2018, (参照 2021-07-01).

(3) コミティア.
https://www.comitia.co.jp/, (参照 2021-07-01).

 

[受理:2021-08-06]

 


みさき絵美. 図書館をテーマにした同人誌即売会「としょけっと」の開催から. カレントアウェアネス. 2021, (349), CA2002, p. 2-4.
https://current.ndl.go.jp/ca2002
DOI:
https://doi.org/10.11501/11727156

Misaki Emi
From the Library-themed Self-publishing Exhibition “Tosyoket”