CA1996 – イベントのオンライン化によって得られたもの:図書館総合展の事例 / 長沖竜二

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カレントアウェアネス
No.348 2021年06月20日

 

CA1996

 

イベントのオンライン化によって得られたもの:図書館総合展の事例

図書館総合展運営委員会事務局:長沖竜二(ながおきりゅうじ)

 

1.本稿で述べること

 本稿は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止が求められる状況をうけて、例年から方式を変更して2020年11月1日から30日にかけて開催した図書館総合展(以下「本展」)(1)について報告するものである。しかし、その実施は当初計画の意図の通りに進んだといえず、また思いがけない効果を得た部分もあり、現時点での報告には後知恵や理屈付けが加わってしまうことをおゆるしいただきたい。

  本稿を通じ、出展・来場・登壇・企画参加者に参加可否また参加の効果検証についての材料を提供できればと期している。また今後の本展運営への要望を得ることを期待してのことでもある。

 

2.そもそも問われていた開催意義

 本展は、出展団体からの出展料のみを財源に、来場無料の展示会(平時はパシフィコ横浜を会場に3日間の会期)を開催している(CA1944参照)。運営・企画については、図書館員、識者を含めた運営委員会を構成して討議、決定している。出展料比率では図書館関連企業が高い割合を占めるため、体裁上はトレードショーとなる。しかし、出展数に占める非営利組織・団体の割合が高めで、またフォーラムとよぶ講演やディスカッションには団体PR以外をテーマとするものが次第に多くなり、情報交流会・交歓会・フェスの色あいを強めて最近に至っている。北米において米国図書館協会(ALA)年次大会(E2178E2185参照)が取る位置づけを意識しており、企画などでもこちらを範としている(2013年には提携・情報交換の協定を交わしている)。

 といいながら、その性質はあくまで、主催者がイメージしている「物語」であり、実際にその位置づけを決めるのは、出展・来場・登壇・企画参加の各者、また、図書館外の世界、それぞれの思惑や捉え方・使い方であり、そこが運営の難しいところである。

 本展は、図書館をめぐる厳しい予算状況にもかかわらず、ここ数年は、出展・企画参加数のべ400から500、会期中の来場数のべ3万人前後で安定的に開催されてきた。しかし、運営委員会では、上掲の難しさを認識してきた。端的にいえば「この展示会で何が解決するのか」という問い、また「PRなら出展しなくとも各団体・各社独自で可能ではないか」という問いをたえず受け続けるということである。

 昨今の社会は、目的遂行的、手段的な有用性、即答・即効を求める方向に傾斜してきている。展示会をめぐっても然りで、出展企業は経済原理を基準に活動しているため当然にそうであり、来場者までもがそういう傾向がある。

 ただ3万人の来場、500の出展という規模をもつ集会が、各ステークホルダーに汎用的な目的を提示し解決策について説明できるということはない。また簡単に目的と効果を言えるようでは退屈なものになるはずだ。そこで出展部門ごとにこれを示し説明するため、常時、言葉を練り個別解を作文して言い訳しているような状況であった。本展が「まったくのトレードショー」であれば、営利団体向けの説明に徹すればことは単純だが、その方針は取らない。各ステークホルダーの「役に立つ」という要請に同じウエイトで応えるのが指針だ。

 後述するが、今般の開催方式転換にあたってこれまで会場で行ってきた各要素(展示、フォーラム、ワークショップから、接客、遠来の人とのコミュニケーション、新しい出会い、懇親会に至るまで)の機能や効果を精査し、オンラインで代替できるかを検討した。その作業と実践を経ての後知恵で「本展が役に立つとは、手段的に役に立つこと、目下の課題を解決することだけではなく、図書館の世界の全体像について考え始めてもらう場、課題を発見してもらう場なのだ」という論から開催意義の説明を始められるが、ここ数年来は「個々の解決について説明する」という観念にとらわれていた。

 

3.コロナ禍で問われる存在意義

 さて、この難点を喫緊の課題として解かなければならなくなったのが、2020年の新型コロナウイルス感染症感染拡大である。2020年春のコロナ禍とは、端的にいえば、初期の流行語「不要不急(な活動を停止する)」を指していた。換言すれば「目的遂行的、手段的な有用性、即答・即効を求めることだけをしなさい」となる。まさに本展がこれまで説明を求められている部分であった。

 コロナ禍を受けての運営委員会の動きを時系列で追うと表のとおりになる。

 

表 運営委員会の動き

2020年2月25日 運営委員会定例会では例年通りの開催を予定。地域フォーラム(E2217ほか参照)については開催可否を検討。
3月半ば 開催・出展案内送付を中止、開催可否についてゴールデンウィーク明けまで判断保留と決定。
3月27日 事務局をリモートワーク化。
5月11日から22日 前年出展者への開催希望調査。
5月27日 運営委員会で全面オンライン開催の方針決定。
6月19日 新開催要項公開(中身はほぼ未定)。
8月13日 この時点までの出展申込数6。
8月25日 出展申込〆切。ブースとポスター計100程度。〆切以後も受付を行い、出展申込が続く。
11月1日から30日 開催。
11月10日 2021年の会場予約(パシフィコ横浜)をキャンセルせず。

 

 このように経緯を記せば、感染対策上、会場開催が不可能になり、代替的にオンライン開催を決めたという単純な動きに見えるが、実際には、開催についての説明の再構築を行っていた。例年通りであれば前例に従い開催時の熱量・効果はある程度予測できるが、方式変更で前提をゼロに戻しての開催となるため、各ステークホルダーに対し新たな約束と説明が必要になる。

 開催可否と、開催する場合の方式を検討する段階での判断材料は次のとおりであった。

 出展団体の活動状況、営業状況はまちまちであるが、PRの機会つまり本展開催を求める要望は過半であった。また、会場に集まっての開催について各団体の懸念している点は、感染危険性の高さというよりは、そこに集まることについて内外へ説明し得るかどうかという点であった。来場する側の図書館関係者も同様である。つまり、新型コロナウイルス感染症の状況が安全なレベルに落ち着いていても、出展や来場の意義が説明しきれないならば会場での開催は不可である。一方、本展のオンライン開催は、出展者にも来場者にも未経験の状況でノウハウはなく、失敗する可能性が例年より高いが、実施の負荷が軽くチャレンジしやすいともいえる。また、出展検討する各団体にとっては、出展効果、来場効果について根拠ある予測が不可能で、効果測定も難しく、不要不急とみえがちなものは支持を受けにくい状況である。もとより先行きの明るくない状況下、PRに思い切った投資(大規模出展)はしにくい。「様子見」「つなぎ」程度の出展としたい、などの要望もあった。

 これらを組み合わせれば運営委員会の選択肢は多くはない。3万余の出展者・来場者の双方がみな組織や上司に説明し説得しなければ参加できないようなイベントには多く集まれない。ましてや、どちらかが参加しなければもう片方も満足しないのだから、全体の満足度を上げることはすこぶる難しい。にもかかわらず期待はあるから開催はする。出展者に成果を確約はできないため、せめて、できるだけ低い負荷・負担で、それでいて「当たれば大きいぞ」と思わせる方式が望ましい。上記を踏まえ、オンライン開催とした。

 

4.開催にあたっての工夫

 イベントというのは内容も対象もそれぞれで、なしうる工夫も、その2つに左右されるため、各イベントによって異なる。本展では対象が図書館・情報関係者に絞られており、来場者・出展者・登壇者が同じ業界であるという環境があったため、質の良い工夫ができたと感じている。なお、工夫を検討する上で、図書館業界でのイベントだけでなく、他業界や、コワーキングスペースでの実践なども参考にした。

 開催の各要素につき「意味が同じでコストが低いものに置き換え・見立て」を検討したことが工夫の第一である。「物理的に失われた状態を元のようにすること」「さもこれまでと同じ本物のような見た目を再現しようとすること」は高いコストがかかるが、「意味が同じものに置き換える、そう見立てること」は、心の問題、捉え方の問題が大きいため、相対的にコストが低い。例えば、会場でのブース展示をVRにより再現するとなると高コストだが、これまでブースで行われてきた「配布」「軽い声かけ」「上客の検討をつける」等々のアクションを「ファイル掲載」「ウェルカム動画」「チャットボット」などに置き換えれば、機能は保持されたまま低コストで済む。フォーラムやオフ会も同様、機能がほぼ同じなら、出展者・来場者とも「見立てる」ことができる。ただ、「見立てる」ことは誰にでもできることではなく、本展の来場者・出展者・登壇者がそこに長けた層であればこそ成立したものと考えている。

 また、事務局では最低限のフレームのみを定め、参加者の裁量を大きくした。「すべてをシステムに委ね、形式を整える必要はない」「適宜、参加者側の工夫に預けてよい」という割り切りが可能であったのも、来場・出展・登壇の各々のスキルレベル、学びと工夫のマインドが高いためであった。あらためて感謝したい。

 上のいずれもが「コスト」削減に関わることだが、状況がどう向かうかわからない中、運営の継続にとって最も必要な工夫がそこであった。

 

5.新形式の結果

 オンライン開催により、結果的に様々な変化・効果が見られた。

 まず、出展料が下がったことで、個人で研究や実践を行っている人や、直接図書館には関係しない事業者の出展が増え、多様性が出た。また、オンライン画面上での開催のため、出展規模の大小の差が極めて小さくなった。これにより観る側からすれば「一度に目に入る絵面」が多様なものになったと思われる。そして、日時・場所の制約を大幅に崩したことで、平日に職場を離れることが難しい学校図書館関係者、ワンパーソンライブラリーの司書、非正規雇用の図書館員などの来場が有意に増えた。例えば、2019年開催時の学校図書館関係来場者(登録時の自己申告)は5.9%で例年この程度であるが、今回は12.5%であった。また中学校・高等学校の学校としての出展は、ポスターセッションや「図書館キャラクターグランプリ」(E1760参照)に2、3ある程度であったが、今回は10件であった。生徒がLIVEで登場する企画すら2件あった。

 来場者参加型の企画が増えたため、彼らを含め観に来た図書館員の側が表現、発表する場が格段に増え、全体に厚みのある、よりフェス色のある会となった。そしてこの形式は「誰にとっても初めてのこと」であり、「失敗できること」を推奨したため、不慣れな人も大いにチャレンジする場面が随所にみられ、本展としても図書館界にわずかながら貢献できたと感じている。もっとも、会期中の失敗と挑戦の繰り返しについては、運営委員会事務局も同様であった。

 総じて良い効果があったと総括できると考えているが、これらは決して確信的に行われたものではない。しかし、運営委員会の席上での、岡本真委員の「やむを得ずオンラインなのではなく積極的なオンライン」、日向良和委員の「新しいスタンダードを築く3年計画」との言により、前向きに捉えて検討できたことがベースにあることを付記する。

 一方、浮かび上がった問題もある。以下に掲げるうちの特に最初の2点は会場開催時より生じていた事態だが、オンライン開催により顕在化したものである。

  • 特にオンライン開催では各出展者が別々の小部屋に入っているようなもので、全体に熱気を漂わせるということが難しく、個々の出展者の腕や工夫が、より問われる。
  • 図書館より刺激的で即効的なものが溢れかえるオンライン上また現実世界において、図書館関係者より外の世界の目をこちらに引き付けるのは難しい。
  • 来場者がオンラインの「会場」で当事者性を感じること、集中力を維持するのは難しい。
  • 来場者も発表者になることができるとなると、出展・発表=有料、来場=無料というこれまでの場の設計が揺らぎ、新たな設計が必要となる。

 

6.今年の枠組み

 さて本展では諸企画・運営について、本展のあり方と図書館のあり方はかなり相似的であり、そのようなものとして、(不遜ではあるが)本展の試みの一分でも先行実験になれば、ということを念頭においている。相似的というのは、(1)全体像として良質なカタログとなることを追求しつつ、コンテンツ個々は原則として自らは創らない、(2)既にある課題を解決する機能と、課題と価値観を発見する場という両機能からなる、(3)後者の機能は、手段的でなく即効性がないため、昨今の社会では他の解決手段に押され気味である、という性質だと捉えている。

 もっともこちらも実証性のない、主催者のイメージの中の「物語」ではあるが、各ステークホルダーにご理解いただければ幸いである。

 2021年は引き続き新型コロナウイルス感染症が緩急ありつつ感染拡大中にあるが、社会はその対応を2020年とは変えている。「コロナへの対し方を説明する責任」はむしろ強化されているといっていいし、やみくもに制限していればよいというわけではない。その下で、今年は次の3つに重点を置き、オンサイト・オンライン併用による開催方針を採ることとした。(1)会場で、対面でしかなし得ないことが何かを追究する、(2)急な状況変化にも形式などをスイッチできる準備力と対応力を身に付ける、(3)オンライン利用を当たり前のものとして、その先に挑戦し続ける。具体的には「大勢の出展者・来場者が同時にひとところに集う大会場での展示開催は行わず、防疫感染防止に配慮の行き届く小会場を複数展開し、そこをオンラインでつなぐ(サテライト会場方式)」「オンライン開催部分については、観る方法としてのオンラインはもちろん見せる側のオンライン化を充実させる」という点が2020年に比しての大きな変更となる。

 ぜひご賛同またご参加いただきたい。

 

(1)図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/, (参照 2021-04-05).

 

[受理:2021-05-14]

 


長沖竜二. イベントのオンライン化によって得られたもの:図書館総合展の事例. カレントアウェアネス. 2021, (348), CA1996, p. 2-4
https://current.ndl.go.jp/ca1996
DOI:
https://doi.org/10.11501/11688288

Nagaoki Ryuji
What Was Gained by Making an Event Online
: The Case of the 22nd Library Fair