カレントアウェアネス-E
No.376 2019.09.19
E2178
2019年米国図書館協会(ALA)年次大会<報告>
九州大学附属図書館・渡邊由紀子(わたなべゆきこ),石田栄美(いしたえみ)
2019年6月20日から6月25日にかけて,米国ワシントンD.C.で2019年米国図書館協会(ALA)年次大会(E2054ほか参照)が開催され,2万1,400人を超える図書館員や出展者等が参加した。巨大なメイン会場のウォルター・E・ワシントンコンベンションセンターの他に市内のホテル等も会場となり,各地を結ぶシャトルバスが行き交った。筆者らは,科学技術振興機構(JST)のAIP加速課題に採択された「持続可能な学習者主体型教育を実現する学習分析基盤の構築」の支援を受け,大学図書館の学習支援に関する動向調査の一環として,同大会に参加した。以下,大会の概要を大学図書館に関するセッションを中心に報告する。
開会式には3,000人以上が出席し,会場に入りきれなかった人達は別室で中継を見守った。特に,ALA会長ガルシア・フェボ(Loida Garcia-Febo)氏が挨拶の中で呼びかけたアドヴォカシー活動により,参加者がその場で各自の地元選出議員に図書館予算の増額を訴えるテキストメッセージを一斉に送信し,3,000件を超えるメッセージの送信状況がスクリーンの全米地図上に赤く表示されていく様子は圧巻であった。記念講演では,ヤングアダルト小説で数々の受賞歴があるD.C.生まれの作家ジェイソン・レイノルズ(Jason Reynolds)氏が,自身の子ども時代のエピソードを交えながら,図書館員はコミュニティにおける建築家であり,図書館は人間の心の中に図書館を建てるための貯蔵庫ではないかと述べ,参加者に図書館員の役割を再考するよう促した。
大学・研究図書館協会(ACRL)主催のパネルディスカッション“Learning Analytics and Libraries”では2大学の経験が紹介された。ミシガン大学図書館のアレクサンダー(Laurie Alexander)氏は,2011年から同大学全体で展開されたラーニングアナリティクス(E2112参照)のプロジェクトにおいて図書館が学内助成金を獲得して行った取り組みの中から,図書館プライバシーポリシーの改訂など,主にデータの収集・利用と学生のプライバシー保護との関係について報告した。また,ミネソタ大学図書館のマステル(Kristen Mastel)氏は,2011年から大学のインスティテューショナル・リサーチ室と共同で行った,学生の図書館利用と学習成果との関連を分析するプロジェクトである“Library Data & Student Success”による一連の成果や残された課題について報告した。
ALA主催のプログラムでは,ウェブプライバシーとウェブアナリティクスに関するナショナルフォーラムの活動と調査結果について報告があった。Google Analyticsのようなサードパーティのソフトウェアを図書館が使用する際の問題点を指摘し,プロジェクトの成果として公開したホワイトペーパー,ウェブアナリティクス実装の際に参考となるアクション・ハンドブック,今後の活動を示唆するアクション・パスウェイ集を紹介しながら,ウェブ上のプライバシー保護とアナリティクスを向上させるための知見と実践に関する情報を共有した。
ALAの図書館・情報技術部会(LITA)主催プログラムでは,カリフォルニア州のハンボルト州立大学図書館からの報告が行われた。学生や教職員の学習実態を把握してアクティブラーニングや協調学習の促進を支援するために,同館がコンピューター科学専攻の学生3人を雇用して,図書館の座席,コンピューター,什器などの使用に関するデータを収集し,データを視覚化するオープンソースプログラムSpaceUseを開発した経緯と,タッチスクリーン型デバイスのSpaceUseを活用した図書館の改修や小型什器の配置変更による実践例の紹介があった。
LITA主催による機械学習に関するセッションもあった。機械学習がどのように機能し,図書館にとってどのような意味を持つのかについて,ニューラルネットワークの仕組みや,機械学習を活用したディスカバリーインターフェイスのプロトタイプHamletの実例により解説があった。また,Microsoftが開発したAIチャットボットTayが停止に至った経緯などから,参加者に機械学習が持つ制限,バイアス,社会的リスクへの注意が促された。
ALA主催のセッション“Cause for Collaboration”では,シモンズ大学図書館情報学科のサウンダーズ(Laura Saunders)氏の報告が行われた。図書館情報学,ジャーナリズム,コミュニケーション,教育学分野から研究者と専門職約80人が参加して誤情報への対応を議論したKnow News Symposiumの成果に基づいて,フェイクニュースやポストトゥルースの時代に大変重要となったニュースリテラシーの育成を図書館員が支援するために,関連専門職と協力する意義が説かれた。
ALAの図書館研究ラウンドテーブル(LRRT)主催のパネルディスカッション“Bridging LIS Research and Practice”では,図書館関係のジャーナル編集者をパネリストに迎え,図書館情報学の研究と実践のギャップを埋めるという問題意識(E1937参照)のもと,特に実践者が論文を執筆する際の難しさや諸問題に焦点を当て,よい論文を執筆するためにどうしたらよいかが議論された。
今大会には米国外の64の国と地域からも400人以上が参加した。開会式の直前に開催された国際図書館員オリエンテーションでは,ALA及び年次大会の概要説明,大会中の他の国際的なイベントやD.C.観光の案内に加えて,タブレット端末,飲食店やALAストアのクーポン券,図書館グッズなどが当たる抽選会があった。閉会式の前夜には,米国議会図書館(LC)ジェファーソンビルの大ホールで国際図書館員レセプションがあり,同日企画のLC国際コレクション見学会と併せて,多くの図書館員や研究者らが豪華な図書館内での国際交流を楽しんだ。
2020年度の大会は6月25日から6月30日まで,イリノイ州シカゴで開催される予定である。
Ref:
https://2019.alaannual.org/
https://americanlibrariesmagazine.org/2019/07/17/2019-annual-wrap-up/
https://www.jst.go.jp/kisoken/aip/program/research/aip/index.html
https://www.lib.umich.edu/library-administration/user-privacy-policy-university-library
http://z.umn.edu/ldss
https://www.lib.montana.edu/privacy-forum/
https://osf.io/gnfpu/
https://github.com/LibrarySpaceUse/HSUSpaceUse
https://hamlet.andromedayelton.com/
http://slis.simmons.edu/blogs/disinformation/
http://www.ala.org/conferencesevents/upcoming-annual-conferences-midwinter-meetings
E2054
E2112
E1937