E2054 – 2018年米国図書館協会(ALA)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.353 2018.08.30

 

 E2054

2018年米国図書館協会(ALA)年次大会<報告>

 

 2018年6月21日から6月26日にかけて,2018年米国図書館協会(ALA)年次大会(E1945ほか参照)がルイジアナ州ニューオーリンズで開催された。今回の大会はErnest N. Morial Convention Centerをメイン会場とし,約2万5,000人が参加してブース展示やセッションが行われた。筆者は,私立大学図書館協会が実施する海外派遣研修(長期研修)に参加する機会を得て,その研修の一環として同大会へ参加した。本稿では,大会の概要と筆者の印象に残っていることを中心に報告する。

 6月22日,前米国大統領夫人であるミシェル・オバマ氏を招いたオープニングセッションが開催された。本セッションは,米国議会図書館(LC)の館長であるヘイデン(Carla Hayden)氏からの質問にオバマ氏が答える形式で行われ,時にジョークを交えつつ,始終にぎやかな雰囲気で進行された。また,オバマ氏の幼少期から現在に至るまでの半生を綴った著書“Becoming”(2018年11月刊行予定)についても紹介され,著書に込めた熱い想いが語られた。

 同大会では,展示会場内にポスターセッションのスペースが設けられており,全米各地や世界各国の図書館関係者が自分たちの取り組みを紹介するために集まり会場をにぎわせていた。筆者は,同大会開催前の期間に参加した米・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研修プログラム「モーテンソンセンター・アソシエイツプログラム」の研修担当者であるチュー(Clara M. Chu)氏の出展ポスターを目当てに会場へと足を運んだ。同氏のポスターでは,国連の「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」(E1763参照)で定められた17の目標に対して,図書館がどのように関わり,世界平和を実現できるかを考える同センターの活動“Libraries for Peace”について紹介されていた。同活動のウェブサイトでは,世界中の図書館が行っている平和実現のための取り組みを共有するマップが公開されている。この他にも様々な図書館の活動が紹介されており,その中には日本の事例を紹介したものもあった。日本の事例に関するポスターは,ビジネス支援図書館推進協議会(JBLA)による出展で,慶應義塾大学の名誉教授である田村俊作氏がプレゼンターを務めていた。活動内容は,商店街で働く店員が自分たちの店に関する専門的な知識を地域の住民に伝える「まちゼミ」に関するものであった。この活動に対して図書館は,背景知識に関する資料の紹介,関連資料の特設コーナー作成,店頭での読み聞かせといった支援を行っている。同ポスターでは,調布市立図書館(東京都)と川崎市立図書館での活動が例として紹介されていた。

 筆者が参加した別のセッション“Branding Your Library: Reinventing the Library Image”では,図書館のブランディングを実現するためのアプローチについて紹介された。Twitter等のソーシャルメディアを情報発信のツールとして使用することの利点が主な内容であり,操作の手軽さや情報伝達の速さについて,Ed White E-STEM Magnet Schoolの学校図書館員である講演者のブラウン(Tamiko C. Brown)氏らの経験をもとに紹介された。同氏はSchool Library JournalによるSchool Librarian of the Year 2017を受賞した経歴を持つ人物であり,子どもが参加できる様々なイベントを実施し,その様子をソーシャルメディアで積極的に発信している。本セッションで講演者が伝えたかったメッセージは,図書館がどれだけ良い取り組みをしていても,それを発信しなければ利用者には気づいてもらえないということであり,セッション中はTwitterを利用したアンケートを実施する等,セッション参加者にソーシャルメディアを身近に感じてもらうための工夫がされていた。

 ブース展示会場の雰囲気は日本の図書館総合展と同様,図書館業界の主要企業が多数出展し,新製品やサービスに関する情報を発信していたが,出展ブースは米国企業が大半を占めていた。ブースに展示されていたものは,自動貸出機やスキャナのほか,メイカースペースに設置するための製品が多くある印象であった。メイカースペースとは,ハイテク機器を備えた創作活動スペースであり,日本では「ファブラボ(FabLab)」等がその一部として知られている(E1378参照)。日本の全国図書館大会や図書館総合展と異なる点として,多くのブースがワインや食べ物,お土産グッズを提供していたことや,大勢の作家が自著を無料配布してサイン会を行っていた光景が新鮮であった。また,大会のスマートフォン向け公式アプリがリリースされていたことや,会場内でWi-Fi環境が提供されていたことなど,大会の規模の大きさを感じる場面が多くあった。

 次年度のALA年次大会は,6月20日から6月25日までワシントンD.C.で開催予定である。

神奈川大学図書館・永沼知之

Ref:
https://2018.alaannual.org/
http://jaspul.org/
https://www.library.illinois.edu/mortenson/associates/
https://librariesforpeace.org/
http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/
http://www.business-library.jp/
https://www.lib.city.chofu.tokyo.jp/
http://www.library.city.kawasaki.jp/
http://makerspacelibrary.blogspot.com/p/presentations.html?m=1
http://edwhite.ccisd.net/
https://www.slj.com/
http://fablabjapan.org/
E1945
E1763
E1378