E1763 – 国連2030アジェンダと図書館:IFLAのツールキット

 

カレントアウェアネス-E

No.297 2016.02.04

 

 E1763

国連2030アジェンダと図書館:IFLAのツールキット

 

 2015年9月,国際連合は,“Transforming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development”(我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ/以下,アジェンダ)を採択した。これは,2001年策定の“Millennium Development Goals”(ミレニアム開発目標)の後継として,その残課題やその後顕在化した課題に対応すべく新たに設定された,17の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)と169のターゲットからなる2030年までの国際的な開発目標である。先進国・開発途上国を問わず全ての国で達成すべき目標とされ,2016年1月1日に施行された。

 国際図書館連盟(IFLA)は,このアジェンダをうけて,今こそ,図書館は,アジェンダを推進する機関であることを示さなければならないと主張する。よって,各国の図書館界は,政府首脳に対して,開発を進めるにあたり,図書館は費用対効果の高い施設であり,アジェンダで示された目標達成のための原動力であることを明らかにする必要があるとする。そのためには,図書館界が政策立案者に対してアドヴォカシー活動を推進することが必要であるとし,その活動を支援するツールキット“Libraries in UN 2030 Agenda”の初版を2015年10月に公開した。

 このツールキットは,アジェンダの達成過程やIFLAによるアドヴォカシー活動,アジェンダの国家レベルでの達成方法への理解を促す第1章・第2章,図書館が開発に貢献できることを政策立案者に認識させるための手順が書かれた第3章,図書館がSDGsの各国における達成過程を監視する必要性を述べる第4章,SDGsに対する国民の理解を促すための図書館の役割について指摘する第5章及び附録から構成され,第3章では,アドヴォカシー活動の具体的な手順が以下の通り紹介されている。

(1)アドヴォカシー活動は,国家規模で支持され,IFLAの活動とも歩調を合わせることが必要であり,そのために図書館界から2,3名の代表者を選出し,図書館界の声を取りまとめる。代表者は,国家レベルの図書館協会,国立図書館,主要な公共図書館や大学図書館から選ぶ。

(2)国家レベルでのアジェンダの達成方法への理解を促すことを目的とした,ツールキットの第2章を参考にし,政策立案者,開発の優先事項,SDGs達成のための活動計画を認識することで,自国におけるアジェンダの達成過程を深く理解する。

(3)図書館の戦略とキーメッセージを創出して,アドヴォカシー活動に活用する。

(4)担当大臣などの政策立案者や,政府を支援する国連の機関(国連開発計画など)の担当者と面会するとともに,関連する審議会にも参加する。そのような活動を通じて図書館のSDGsへの貢献を証明することで,図書館は,国家戦略や国民に利益をもたらすプログラムを実施するための,政府にとって最もふさわしいパートナーの位置を占めることができる。

(5)メディア・提携者・支持者との連携は,館外での活動を拡大し強化するため,アドヴォカシー活動にとって効果的である。例えば,メディアと連携することは,社会における図書館の地位を確保することとなり,また,メディアで話題となることで,政策立案者の注目を集めることができる。また,図書館間,もしくは,図書館以外の機関との連携は,具体的な成果を達成し,図書館の意見を強化し,その地位を下支えすることに繋がる。

(6)継続的に国の開発動向を注視することも重要である。図書館は,図書館以外の組織や市民社会とも連携し,政府がSDGsに従って開発を進めていることを監視する上でも重要な役割を担っている。

 アジェンダを一瞥すると,環境・エネルギー・ジェンダー・雇用・教育など,日本においても関係しそうな目標がいくつか存在する。ツールキットの附録では,欧州の公共図書館で行われているコンピューターを活用した就職活動支援,英国の公共図書館で実施されている電力モニターの貸出し,米国国立医学図書館(NLM)が提供する環境の健康への影響に関する児童向け学習サイト“The Environmental Health Student Portal”など,先進国において図書館がアジェンダに貢献できる事例も紹介されている。日本の図書館界も,関係機関と連携しながら政府・地方公共団体等にアドヴォカシー活動を行うとともに,アジェンダの目標達成への貢献を考えていく必要があろう。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://www.ifla.org/files/assets/hq/topics/libraries-development/documents/toolkit-libraries_and_implementation_of_the_un_2030_agenda.pdf
http://www.ifla.org/node/9989
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/gic/page3_001387.html
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101401.pdf
http://www.publiclibraries2020.eu/content/see-numbers
http://www.croydonlibraries.com/library-services/cut-energy-bills
http://kidsenvirohealth.nlm.nih.gov/generic/9/about