E1945 – 2017年米国図書館協会(ALA)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.331 2017.08.24

 

 E1945

2017年米国図書館協会(ALA)年次大会<報告>

 

 2017年6月22日から6月27日にかけて,2017年米国図書館協会(ALA)年次大会(E1739ほか参照)がシカゴで開催された。参加者総数は2万2,700人以上であり,多彩なテーマのセッションと企業等によるブース展示において,参加者間のにぎやかなコミュニケーションが繰り広げられた。以下,筆者らの参加したUnited for Libraries主催のセッション,ポスターセッション,閉会式の記念講演について報告する。

 United for Librariesは,図書館委員会(trustees),友の会(friends),財団(foundations)による,図書館の運営や資金調達,アドヴォカシー活動等の支援を目的とするALAの部会の一つである。パネルディスカッション形式で行われた「研修(board development)」に関するプログラムでは,前部会長のヘイグ(Christine Hage)氏より,それぞれの活動に有用な情報源として,同部会のウェブサイトやニュースレター,ハンドブック類などが紹介された。

 「首長や議員との関係」についてのプログラムでは,デラウェア州図書館協会のキーオ(Cathay Keough)氏が,同州の図書館が地域住民に「あなたの夢を教えてください」と問いかけたキャンペーン(Delaware Dream)における,市長や議員らとの関係構築の経験を発表した。フロアからの質問により,州立図書館の職員が様々な関係者の調整役を担っていたことや,小規模な州であり日常的に議員らと出会う機会が多いことなどの具体的な状況が説明された。司会者は,州ごとに状況が異なるとはいえ,大局的な視点からこの事例を捉える必要があると締めくくった。続いて,図書館の戦略的な広報活動を手掛けるコンサルタント会社(Communication Services社)のポスト(Libby Post)氏より,議員に対しては,手紙や電子メールで積極的に連絡を取ることや,図書館長も同席する会合を開き,図書館の実績を統計データや税金の観点から説明することが効果的であるなど,より実践的な関係構築のあり方が発表された。

 「ファンドレイジング(資金調達)」のプログラムでは,図書館の運営資金を集めるために開催された,作家を招いた夕食会・サイン会・即売会,市民参加によるサイクリングのイベント,Tasty Trucks(移動食堂車)を活用したイベントなどの事例が紹介された。参加者からは,寄付者に礼状を送付するタイミングや,作家と連絡を取る手順などの実際的な質問が出された。

 参加者が少人数に分かれて意見交換を行うラウンドテーブル形式のプログラムもあった。筆者のテーブルでは,資金援助を巡って友の会と図書館の関係がこじれている状況や,図書館の運営資金を集めて管理する「財団」と,あくまでも図書館を支持する人々の集まりである「友の会」の違いが一般に認識されていないために苦慮している状況など,生々しい実態が聞かれた。同席していた部会長のシュミット(Suzan J. Schmidt)氏は,図書館委員会,友の会,財団,図書館長の4者の関係について,「必ずしも良好な状態ばかりではないけれど,仲の良い家族もあれば,仲が良くない家族もあるというのと同じこと。でも,みんなが図書館を大事に思っていることは確かだと思う」と述べた。

 同部会のセッションには,「注目の作家」との触れ込みで,ウィスコンシン州ハートランド公共図書館の図書館委員会のメンバーでもあるライチャート(Amy E. Reichert)氏が招かれ,自らの著作や,図書館に対する思いなどを語るプログラムもあった。出版社の協力により,会場内では最新の著書が無料で配布され,ほとんどの参加者がサインを求めて楽しそうに列を作っていた。作家によるサイン会はブース展示会場でも数多く開催されており,場内各所で図書を手にした来場者の列を見かけた。

 ブース展示会場の一角では2日間にわたりポスター発表が行われ,373件の応募から選ばれた144件の発表者が,それぞれ90分間,自作のポスターの内容を来場者に説明していた。日本からも,ビジネス支援図書館推進協議会による3件の発表(協議会の活動,鳥取県立図書館のマンガを用いたPR活動,小山市立図書館(栃木県)の農業支援)があり,多くの来場者が説明に聞き入る様子が見られた。

 最終日の閉会式では,2016年の大統領選挙の候補者であったヒラリー・クリントン氏の記念講演が行われた。氏の最初の著書『村中みんなで』(“It Takes a Village”)の絵本版を,本講演のスポンサーでもある出版社(サイモン&シュスター(Simon & Schuster)社)から近々出版予定であるという話から,子どもたちに絵本を通じてメッセージを届けたい理由として,読書がいかに自分を豊かにし,つらいときの支えになったかや,生まれて初めて図書館カードを手にしたときの昂揚した気持ちなど,自身の子どもの頃からの読書・図書館体験を語った。さらに,私たちが今日も図書館を必要とする理由として,1.読書は私たちの人生を変える力を持っている,2.図書館はコミュニティの多様な人々が交流する場所である,3.図書館は批判的に考える力を持った市民を育てる,の3つをあげた。

 クリントン氏が登場すると,3,200人以上の聴衆は総立ちとなって拍手で迎えた。時に笑いを誘い,現政権を批判し,図書館の価値を熱く語る氏の講演の随所で聴衆は立ち上がり,拍手するなど,大好評のうちに講演は終わった。大会の最後を飾るにふさわしい,印象深い講演であった。

 2018年度は6月21日から6月26日まで,ルイジアナ州ニューオリンズで開催される。

専修大学文学部・荻原幸子
元慶應義塾大学・田村俊作

Ref:
http://2017.alaannual.org/
http://www.ala.org/united/events_conferences/annual
http://lib.de.us/about-us/delaware-dream/
http://www.eventscribe.com/2017/posters/ALA-Annual/ListViewDayTime.asp
http://2017.alaannual.org/speaker/CGS
http://www.ala.org/conferencesevents/ala-upcoming-annual-conferences-midwinter-meetings
E1739