カレントアウェアネス-E
No.502 2025.06.05
E2794
典拠データの現状と将来:書誌調整連絡会議<報告>
国立国会図書館収集書誌部収集・書誌調整課・小野塚由希子(おのづかゆきこ)
2025年3月18日、国立国会図書館(NDL)は、令和6年度書誌調整連絡会議(E2697ほか参照)をオンラインで開催した。全国書誌をテーマとした令和5年度の会議では、全国書誌サービスにおける典拠コントロールの重要性について意見が多く挙がった。これを受け、今回は、「典拠データの現状と将来」をテーマとして取り上げた。
最初に、日本女子大学准教授の木村麻衣子氏から、「典拠データの動向,課題と展望」と題して報告があった。典拠コントロール作業は目録作業の中に明確に位置付けられてこなかったが、典拠データ作成だけでなく、典拠データと書誌データのリンク形成、典拠データの更新・維持管理を含むものと考えるのが妥当との見解が示された。また、現在の典拠データ作成作業の核心は、主題分析と、国際図書館連盟(IFLA)によるIFLA図書館参照モデル(IFLA LRM;CA1923参照)等の概念モデルで規定され得る実体間の関連分析であると説明された。さらに、典拠データの新たな付加価値は、実体間の関連付けによる他の実体の発見支援と人手で作成した信頼のおける情報源であることとし、典拠コントロールのメリットを最大限享受するためには、網羅的な典拠データの作成と幅広い共有が必要との見解が示された。
筆者から、「国立国会図書館における典拠データ―これまでの拡充の取組と将来像―」と題して報告を行った。NDLでは、「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」(CA2006参照)の取組として、個人名や著作等の典拠データの拡充を進めている。今後取り得る選択肢として、NDLが作成する範囲を超えて典拠コントロールを行うための国内機関との機械連携のアイデアや、電子資料への著作典拠データの活用アイデアを、報告者私案として提案した。後者は、NDLにおける紙資料と電子資料のメタデータ一元管理に向け、これまで書誌データ作成時に行っていた主題分析などカタロガーの高度な判断を要する作業を著作典拠データ作成時へとシフトする提案である。
国立情報学研究所学術基盤推進部学術コンテンツ課の阪口幸治氏から、「NACSIS-CATの典拠データの現状と今後の展望について」と題して報告があった。NACSIS-CATでは、著者名や著作名の典拠データ作成は、参加館の尽力により一定の新規作成件数を維持できていると説明された。今後は、日本目録規則2018年版以降、新たに対象とした日本語訳タイトルが複数ある外国語著作などへの著作典拠データの作成対象の拡充や、著者名典拠の公開・提供を通した活用事例の増加への展望が示された。
次に、「典拠データの将来像」と題して、有識者3人が報告を行った。
帝塚山学院大学教授の渡邊隆弘氏から、未知の資料を発見する「集中機能のための典拠コントロール」は、近代目録法の歴史において、書誌レコードの機能要件(FRBR)以前から引き継がれてきた図書館目録の本質であるとし、そのためには網羅的な典拠コントロールが必要と説明された。現状のように著作典拠の運用が限定的なままでは活用できないため、既存の体現形単位で作成された書誌データをFRBRの概念モデルに基づき、OPAC等で上位実体である著作や表現形単位でグループ化する「FRBR化」(FRBRization)の併用について提案があった。
東京大学准教授の大向一輝氏から、典拠データは資料の結節点から社会の結節点に変化するとの見解が示された。典拠データについて、資料を探すものとしてだけではなく、分野やコミュニティを越境する知識体系や、社会・経済活動を支える基本情報としての認知を促すことで典拠作成への理解が得られると述べられた。人物・組織のそのときどきのコンテキストを踏まえた情報や、ゲーム、マンガ、アニメーションなどの流通形態ごとに作成される現代文化の個々の統一タイトルについて、それらをまとめた作品の全貌がわかるような情報に需要があるとの見解が示された。
実践女子大学准教授の橋詰秋子氏から、図書館の情報資源メタデータの強みは、件名標目などの統制語による主題の組織化と、著作、表現形、体現形、個別資料などの実体の関連付けであり、これらは典拠コントロールによって実現される機能であると示された。NDLに対して、日本の著作を対象とした著作典拠データの拡充、他の典拠データ作成機関との連携協力体制確立、典拠データの図書館領域外での利活用促進の取組への期待が寄せられた。
最後に、出席者による自由討議を行った。典拠データ作成機関からは、典拠データの活用を促すため、関係機関との連携を密にしたいとの意見があった。大学図書館からは、典拠データのLinked Open Data(LOD;CA1746参照)としての活用が研究支援に繋がる可能性があることを認識したとの意見があった。典拠データの相互運用性を確保するため、図書館外への連携拡大の必要性が論じられ、NDLには、図書館領域の関係機関だけでなく、デジタル・ヒューマニティーズなど図書館以外の領域に拡大したコミュニティ運営への期待が寄せられた。
会議の概要と資料は、NDLウェブサイトに掲載している。
Ref:
“令和6年度書誌調整連絡会議報告”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/basic_policy/bib_control/conference/2024_report.html
IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. 書誌レコードの機能要件 : IFLA書誌レコード機能要件研究グループ最終報告. 和中幹雄, 古川肇, 永田治樹訳. 日本図書館協会, 2004, 121p.
https://repository.ifla.org/handle/20.500.14598/823
国立国会図書館書誌データ作成・提供計画 2021-2025. 国立国会図書館, 2021, 5p.
https://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bibplan2025.pdf
“目録所在情報サービス(NACSIS-CAT/ILL)”. NII.
https://contents.nii.ac.jp/catill
“日本目録規則2018年版”. 日本図書館協会目録委員会.
https://www.jla.or.jp/mokuroku/ncr2018
小野塚由希子. 全国書誌サービスの現状と将来:書誌調整連絡会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (479), E2697.
https://current.ndl.go.jp/e2697
和中幹雄. IFLA Library Reference Modelの概要. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1923, p. 27-31.
https://doi.org/10.11501/11062627
武田英明. Linked Dataの動向. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1746, p. 8-11.
https://current.ndl.go.jp/ca1746