CA2006 – 「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」の取組事項 / 大原裕子

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カレントアウェアネス
No.349 2021年09月20日

 

CA2006

 

「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」の取組事項

収集書誌部:大原裕子(おおはらゆうこ)

 

1. はじめに

 国立国会図書館(NDL)では、2021年4月1日、NDL全体の方針として「国立国会図書館ビジョン2021-2025」(1)(以下「ビジョン」)を定めた。ビジョンでは、NDLの使命を果たすための基本的役割の一つとして「資料・情報の収集・整理・保存」をあげ、書誌データの作成および提供を引き続きNDLの大きな任務とした。

 また、NDLは、ビジョン以前から定期的に計画を立て、書誌データ提供の強化と書誌データの作成基盤整備に取り組んでおり、2018年3月に「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2018-2020」(2)(以下「書誌計画2020」)を策定し実施してきた。この後継計画として「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」(3)(以下「書誌計画2025」)を2021年3月に新たに策定した。書誌計画2025は、『日本目録規則2018年版』(以下「NCR2018」)の適用、NDLで使用する業務用書誌作成システム(以下「書誌作成システム」)のリニューアル、安定稼働を前提として策定した。三つの基本方針として①書誌データ機能の強化、②書誌データ標準化、③書誌データの普及及び関係機関との連携協力、を基に実務上の取組事項を中心に策定した。本稿では、書誌計画2020および書誌計画2025の取組事項から、具体的な成果と今後の取組事項を中心に紹介する。

 

2. 書誌計画2020の成果と書誌計画2025の取組事項

2.1 書誌データ機能の強化

2.1.1 典拠データの更なる活用

 典拠データは、書誌データの効率的かつ的確な検索を可能とし、利用者にとって非常に有用なデータである。今後も典拠データをより一層充実(2.1.2および2.1.3参照)させ、国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)(4)を使うことで、書誌データのより的確な検索を実現する。

 

2.1.2 典拠形アクセス・ポイントの拡大

 従来は、和図書等の書誌データにおいて、個人または団体に対する典拠形アクセス・ポイントを一つの役割表示につき三つまでに限定していた。2021年1月(5)以降は、典拠形アクセス・ポイントの対象を全ての個人または団体に拡大(6)し、検索対象の漏れを少なくした。

 

2.1.3 新しい典拠データである「著作典拠」と「ジャンル・形式用語」の提供開始(7)

 2021年1月から和図書および国内刊行洋図書の一部において、著作の典拠コントロールを開始した(8)。訳者、出版者、出版時期等によってタイトルが不統一であっても、まとめて検索し資料を発見できるようになった。例えば、「星の王子さま」と訳されることがある“Le petit prince”を著作典拠として新しく作成した上で既存書誌に紐づけたことから、「小さな王子さま」、「小さな星の王子さま」等の日本語タイトルに訳されている場合も当該著作典拠に紐づく資料がまとめて検索できるようになった。

 また、2021年1月からジャンル・形式用語(9)を導入した。現在は、「漫画」、「児童図書」、「LLブック」、「議会資料」の4種類であり、資料の検索に有用な手段が増えた。

 現在は、「著作典拠」と「ジャンル・形式用語」は、新規作成した書誌を中心に付与しているが、書誌計画2025の期間内には、遡及入力、適用資料群の拡大等を検討し、より広範囲に付与することで従来の分類、件名だけでは検索が困難な資料も発見できるようにする予定である。

 

2.1.4 識別子の入力の拡大

 現在、NDLの典拠データは、バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)にリンクするとともに、米国議会図書館の典拠ID(LCCN)および日本古典籍総合目録データベースの著作IDを記録している。今後は、ORCID(CA1740参照)、研究者番号等の標準的識別子を記録することも検討する。人物の同定に有用な識別子の情報は、利用者のニーズも多く、典拠データだけでなく、書誌データの充実のために記録することが望まれている。一方で、NDLにおいて膨大な数の研究者を同定することは難しく、著者の識別子が出版物に表示されれば、人物の同定がしやすくなり書誌データおよび典拠データに追記することも容易になる。このため、出版時点での識別子の表示を出版界に期待したい。

 

2.1.5 雑誌記事索引における採録対象の電子雑誌への拡大

 従来は、紙媒体等の有形資料のみを雑誌記事索引の採録対象としていた。有形の採録誌から媒体変更した電子雑誌へも対象を拡大し、2019年11月から「雑誌記事索引データ(オンライン資料編)」の提供を開始し、2021年5月からは、創刊号から電子雑誌として刊行されたオンライン資料についても、提供を開始した。

 

2.2 書誌データ標準化

2.2.1 NCR2018の策定及び適用

 RDA(CA1766参照)の世界的な普及が進む中で、2016年から2018年にかけてNDLと日本図書館協会は、連携してNCR2018(CA1951参照)を策定した(10)。NCR2018は、書誌レコードの機能要件(FRBR)を基盤に国際的な概念モデルを取り入れて構築された国際目録原則覚書(ICP)等に準拠し、RDAと相互運用性を持たせている。書誌計画2025の期間では、日本図書館協会と協力してNCR2018の普及促進に向けた活動を継続する。

 また、NCR2018を適用した目録を作成するためには、従来の書誌作成システムでは大規模な改修が必要だったこともあり、2021年1月の書誌作成システムの更新のタイミングで、NCR2018の適用を開始した。

 

2.2.2 新しい書誌フレームワークに向けた検討

 書誌計画2020では、NCR2018のようなNDL書誌データの新しい「容れ方」(書誌データ作成基準)を効果的に反映できる「容れもの」(書誌フレームワーク)への対応を検討した。BIBFRAMEは、ウェブ環境に適した新しい書誌フレームワークとして米国議会図書館が現在も開発中であるが、各国でBIBFRAMEを使用した書誌データの提供が開始されており、実質的にMARC(機械可読目録)形式に代わる書誌フレームワークとして定着しつつある(11)

 2021年1月に更新した書誌作成システムではBIBFRAMEを採用しなかったが、将来的な拡張性を見込んで開発した。書誌計画2025では国際的な動向等を注視しBIBFRAMEを使用した書誌データの提供に向けてさらに検討を進める。

 

2.3 書誌データの普及及び関係機関との連携協力

2.3.1 関係機関の所蔵資料を含めた書誌データの提供

 NDLは、納本制度により、国内で発行された出版物の網羅的収集に努め、収集した資料を元に全国書誌データを作成し提供している。NDLによる収集から漏れた資料(例えば流通範囲が限られる郷土資料等)については、都道府県立図書館等の関係機関が所蔵する資料の書誌データを一元的に検索できる国立国会図書館サーチ(以下「NDLサーチ」)により、存在の可視化とアクセス向上に努めている。関係機関との連携協力を強化(12)することで、国内出版物に関する書誌データのより網羅的かつ一元的な提供を目指す。

 また、NDLは、オンライン資料収集制度により、インターネット等で出版(公開)された民間発行の電子書籍・電子雑誌等(オンライン資料)も収集し(13)、その書誌データを全国書誌データの一部(14)として提供している。しかし、この制度において、NDL以外の機関による長期的な保存と利用提供が見込まれる資料(リポジトリに収録されているコンテンツ等)は収集対象から除かれる(15)。それらの書誌データの可視化には、NDLサーチによるメタデータ連携がより重要で、現在は、「学術機関リポジトリデータベース(IRDB)」とのメタデータ連携を行っているが、関係機関との連携協力を拡大し、オンライン資料についても、より広範かつ一元的な書誌データの提供を目指す。

 

2.3.2 MARC形式の書誌データ提供の継続

 2020年12月の国立国会図書館書誌提供サービス(NDL-Bib)終了に伴い、2021年1月以降はNDLサーチからMARC形式およびMARCタグ形式の書誌データを提供している。NDLサーチからのMARC形式等での書誌データ取得は1件ずつに限られるため、2021年1月から複数件をまとめて取得できるMARC取得ツールの配布(16)を開始した。しかし、新規作成書誌をまとめて入手する機能がないなどの理由からNDL-Bibに対する代替手段としては、不十分な点が多い。現在もMARC形式は多くのニーズがあり、使いやすい方法で利用者に提供することが必要である。将来の提供用システムにおいては、利用者にとって必要な形式の書誌データを一括ダウンロード等の使いやすい方法で提供することを目指す。

 

2.3.3 書誌データのオープン化

 2020年4月から、政府の「オープンデータ基本指針」の策定(17)等に対応し、書誌データを営利、非営利の目的を問わず、二次利用も含め無償かつ申請なしで利用できるようにした。従来は、書誌データを営利目的で利用する場合は申請が必要であったところ、速やかに利用できるようになり、書誌データの利活用に向けて大きく改善を行った。今後、多様な形で書誌データが利活用されることを期待したい。

 

3. 終わりに

 書誌データの作成では、書誌作成時点での目録規則等を活用して対象資料に関する情報を秩序立てて詳細に記録している。更に、書誌データを作成した後も、時間が経過し書誌データに付加できる情報が増えた場合には、対応する必要がある。例えば、ペンネーム等の多種多様な情報を確認した場合には、既存の書誌データに紐づけ、新しい情報を加えることが重要で、書誌データ一点一点について作成時に加えその後の維持作業が重要な意味を持っている。

 また、書誌データの重要な役割は、利用者が最適な情報を的確に入手できる手段となることである。例えば、一次資料へのアクセス、多面的な関連資料リストの作成、コピーカタロギングとして自館のOPACでの活用等多くの利用例が想定される。いずれの場合も利用者が書誌データの特徴を十分に把握していることが書誌データの活用範囲を広げると考えられる。一方で、目録規則等は利用者のニーズを反映して整備を進め、各書誌データも目録規則、適用細則、内部運用ルール等の多数のルールに即して作成するように努めているが、当該ルールの詳細が難解な部分もあり、普及の障害になっている面もある。このため、NDLでは利用者に対し目的に沿った書誌データの使い方を分かりやすく説明していくことが必要だと考えている。

 書誌計画の目的を実現するため、取組事項のいずれも着実な実施を目指す。

 

(1)“国立国会図書館ビジョン2021-2025”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/vision_ndl.html, (参照 2021-08-11).

(2)“国立国会図書館書誌データ作成・提供計画 2018-2020”. 国立国会図書館. 2018-03-23.
https://warp.da.ndl.go.jp/collections/NDL_WA_po_print/info:ndljp/pid/11628650/www.ndl.go.jp/jp/library/data/NDL_WA_po_bibplan2020.pdf, (参照 2021-08-11).

(3)“国立国会図書館書誌データ作成・提供計画 2021-2025”. 国立国会図書館. 2021-03-15.
https://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bibplan2025.pdf, (参照 2021-08-11).

(4)“国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス”. 国立国会図書館.
https://id.ndl.go.jp/auth/ndla/, (参照 2021-08-11).
“Web NDL Authoritiesについて”. 国立国会図書館.
https://id.ndl.go.jp/information/about/, (参照 2021-08-11).

(5) 収集・書誌調整課書誌調整係. コラム:NCR2018適用(2)典拠データの変更点. NDL書誌情報ニュースレター. 2020, (52).
https://www.ndl.go.jp/jp/data/bib_newsletter/2020_1/article_02.html, (参照 2021-08-11).

(6) 拡大した資料群は、書誌データの全てではない。典拠形アクセス・ポイントの詳細は、次ページ参照のこと。
“個人に対する典拠形アクセス・ポイントの選択・形式基準(2021年1月作成、2021年7月最終更新)”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/catstandards/accesspoint/pdf/person_202101.pdf, (参照 2021-08-11).

(7) 西村葉純. 2021年1月からWeb NDL Authoritiesが変わります. NDL書誌情報ニュースレター. 2020, (55).
https://www.ndl.go.jp/jp/data/bib_newsletter/2020_4/article_01.html, (参照 2021-08-11).

(8)“著作典拠について”. 国立国会図書館.
https://id.ndl.go.jp/information/work/, (参照 2021-08-11).

(9) 国内資料課. コラム:ジャンル・形式用語の付与を開始します. NDL書誌情報ニュースレター. 2020, (55).
https://www.ndl.go.jp/jp/data/bib_newsletter/2020_4/article_02.html, (参照 2021-08-11).

(10)“日本目録規則2018年版(NCR2018)について”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/ncr/index.html, (参照 2021-08-11).

(11)村上一恵. BIBFRAMEのいま. NDL書誌情報ニュースレター. 2020, (53・54).
https://www.ndl.go.jp/jp/data/bib_newsletter/2020_2_3/article_02.html, (参照 2021-08-11).

(12)“国立国会図書館サーチ連携拡張に係る実施計画 2021-2025”. 国立国会図書館. 2021-03-31.
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11676365_po_iss_plan_2021-2025.pdf?contentNo=1&alternativeNo=, (参照 2021-08-11).

(13)現在は、無償かつDRM(技術的制限手段)の付されていないオンライン資料に限って収集している。有償またはDRMが付されたオンライン資料については、2022年度中の制度収集開始を目指している。

(14)“雑誌記事索引データ(オンライン資料編)”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/sakuin/product.html#product_o, (参照 2021-08-11).

(15)納本制度審議会. 答申 オンライン資料の制度収集を行うに当たって補償すべき費用の内容について. 国立国会図書館, 2021, 28p.
https://www.ndl.go.jp/jp/collect/deposit/council/s_toushin_8.pdf, (参照 2021-08-11).

(16)“MARC取得ツールのご案内”. 国立国会図書館. https://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/jnb/index.html#tool, (参照 2021-08-11).

(17)高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議. 「オープンデータ基本指針」平成29年5月30日決定. 令和元年6月7日改正. 首相官邸. 6p.
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/kihonsisin.pdf, (参照 2021-08-11).

 

[受理:2021-08-11]

 


大原裕子. 「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」の取組事項. カレントアウェアネス. 2021, (349), CA2006, p. 17-19.
https://current.ndl.go.jp/ca2006
DOI:
https://doi.org/10.11501/11727160

Ohara Yuko
Initiatives in the “Plan for Creating and Providing the National Diet Library’s Bibliographic Data 2021-2025”