カレントアウェアネス
No.362 2024年12月20日
CA2074
「全国書誌」から「全国書誌データ」へ:全国書誌提供サービスの「これまで」と「いま」
収集書誌部収集・書誌調整課:田中亮之介(たなかりょうのすけ)
1. はじめに
全国書誌とは「ある一国で刊行されたすべての出版物を網羅的、包括的に収録した書誌」(1)であり、日本の全国書誌については国立国会図書館法(1948年2月公布)第7条で「館長は、一年を超えない期間ごとに、前期間中に日本国内で刊行された出版物の目録又は索引を作成し、国民が利用しやすい方法により提供するものとする。」と規定している(以下、「全国書誌」は「日本の全国書誌」の意味で用いる)。2024年1月にリニューアルした国立国会図書館サーチ(NDLサーチ;CA2068参照)のサブ検索画面として公開した「全国書誌データ検索」(2)もその一環であるが、現在の全国書誌は主にデジタルデータとして提供している(以下「全国書誌データ」)。
本稿では、まずデータでの提供形態への変化という観点で全国書誌提供の流れを説明し、次に全国書誌データ提供サービスの現状について紹介したい。
2. 「全国書誌」から「全国書誌データ」へ:全国書誌提供サービスの「これまで」
本章では、当初は紙形態で提供した「全国書誌」が「全国書誌データ」へと変化し、利便性やアクセスの向上を図るなかで次第に提供形態が変遷した流れを説明する。全国書誌の通史については既に複数の記事があり(3)、また2023年9月に年表を国立国会図書館ウェブページに掲載した(4)ので、そちらを参照されたい。
まず、1948年10月に全国書誌提供の第一歩となる『納本月報』が刊行され、しばらくは冊子や印刷カードといった紙形態での提供が続いた。その後、1981年4月に全国書誌の機械可読形式であるJAPAN/MARCの頒布を開始したことで「全国書誌データ」の提供が始まり、紙形態の『日本全国書誌』(『納本月報』の後継誌。週刊)やカードの提供と、デジタル形態(磁気テープやCD-ROM等の媒体(5))のJAPAN/MARCの提供が並立することとなった。
2002年4月には、『日本全国書誌』のホームページ版(HTML形式ファイルを週次で掲載)の提供が始まり、冊子版のほかにウェブ上でも全国書誌データにアクセスすることが可能となった。同時期に蔵書目録を提供する「Web-OPAC」も公開(2000年3月)する等、書誌データのウェブ上での提供が進展していく状況に伴い、2007年3月に国立国会図書館法第7条を改正し、全国書誌の提供手段を「出版」から「国民が利用しやすい方法」に改め、ウェブ等さまざまな形態での提供に対応できるようになった。同年、『日本全国書誌』冊子版は終刊し、紙形態での全国書誌の提供は終了した(6)。
その後、『日本全国書誌』ホームページ版は2011年11月に提供を終了したが、2012年1月に公開した「NDL-OPAC」の中で「全国書誌提供サービス」(7)を開始した。これにより、全国書誌データは冊子体と同様のリストを掲載する形態からデータベースでの提供に変わり、書誌データをMARC等の形式でダウンロードすることもできるようになった。また、2014年にはNDLサーチのAPI(外部提供インタフェース)のデータプロバイダ「NDL全国書誌情報」の提供も開始した。「全国書誌提供サービス」は2020年12月で提供を終了し、全国書誌に特化したデータベースの提供は一時的に休止することとなった。以後、全国書誌データはNDLサーチや国立国会図書館オンラインが提供する書誌データの部分集合として、あるいはJAPAN/MARCとして提供していたが、2024年1月に前述のとおり「全国書誌データ検索」の提供を開始した。
3. 全国書誌データ提供サービスの「いま」
前章で紹介したとおり、1948年に提供を開始した全国書誌は、JAPAN/MARC(1981年)やホームページ版(2002年)を契機として「データ」としての提供に軸足を移していき、現在の提供状況につながっている。本章では2024年1月に公開した「全国書誌データ検索」を始めとした各種提供サービスや、その利活用状況等、全国書誌データ提供サービスの現状を紹介する。
3.1 全国書誌データ検索
全国書誌データ検索は、前述のとおりNDLサーチのサブ検索画面であり、データベースはNDLサーチと共有しているが、対象となる書誌データを全国書誌データ(8)及び新着書誌情報に限定している。また、検索機能の大部分と書誌ダウンロード機能はNDLサーチと共通の仕様となっており、書誌詳細画面に至っては完全に同一である。そのため、NDLサーチの利用経験があれば同じ感覚で利用することが可能である。なお、新着書誌情報とは作成中の全国書誌データ(一部(9)を除く)を提供するものであり、全国書誌の要件の一つである「速報性」(10)を補うために2010年10月から提供している。
検索機能の仕様の大部分はNDLサーチと共通する一方、独自の検索項目(例えば書誌データ完成日(11)や官庁出版物での絞込み等)も設けている。また独自の検索仕様としてISBN一括検索機能があり(12)、図書館等が全国書誌データを利用して資料を整理する際、バーコードリーダー等でISBNを連続的に読み込み、まとめて検索する作業を考慮している。
検索結果の書誌データはMARC等の形式で一括してダウンロードすることができる(最大5,000件)。書誌ダウンロード機能の仕様はNDLサーチと同一であるが、MARC形式とMARCタグ形式での提供は国立国会図書館が作成した書誌データ(オンライン資料を除く)に限られるため、他機関やオンライン資料の書誌データも対象とするNDLサーチで検索した場合、一部の書誌データがMARC形式に対応していない可能性がある。そのためMARC形式のデータの取得を希望する場合は、全国書誌データ検索の方が安定したダウンロードができる。「全国書誌提供サービス」と同時に終了していた、MARC形式の書誌データを一括でダウンロードする機能の再実装は、国立国会図書館の書誌データ提供事業の中でも特に重要視しており、「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画 2021-2025」(「書誌計画2025」;CA2006参照)において取組事項に挙げていたが、それが実現したことになる(13)。
3.2 NDLサーチで提供するAPI
NDLサーチはAPI(14)でも書誌データを提供しており、細かい検索条件をリクエストできる検索用API(SRU等)と、日付やデータの属性等によりデータをまとめて取得するハーベスト用API(OAI-PMH)がある。どちらもデータプロバイダ「国立国会図書館全国書誌情報」(iss-ndl-opac-national)(15)を指定することで、全国書誌データに限定して取得できる。なお、返戻データの形式はDC-NDL(RDF)等のXMLやHTMLとなり、MARCには対応していない。NDLサーチのヘルプ内にAPIの仕様の詳細を掲載している(16)。
APIをアプリケーションやツールに組み込めば、全国書誌データを手軽に利用することが可能になる。現在、多くの図書館システムがAPIに対応しており(17)、各種の図書館で利用されている。
3.3 JAPAN/MARC(M/S)
JAPAN/MARC(M/S)は全国書誌データをISO2709準拠の機械可読形式であるMARCフォーマットで提供するサービスである(18)。1981年のJAPAN/MARC頒布開始は全国書誌をデータとして提供する流れの契機となり、40年以上継続している息の長いサービスとなった。現在は、JAPAN/MARC MARC21フォーマット(19)を採用し、週次でデータをウェブページ上に掲載し(20)、申込みに応じて全件データも提供している。
JAPAN/MARC(M/S)全件データは日本のこれまでの出版物のバルクデータという側面も備えており、図書館だけでなく、出版物に関する研究や読書関連アプリケーションの開発等にも利用されている。また、JAPAN/MARC(M/S)は世界最大の書誌ユーティリティであるOCLCにも提供しており、OCLCの各種サービスを通じて全世界で利用されている。
3.4 全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)
ここまで紹介してきた全国書誌は冊子等の有形の出版物が収録対象であり、オンライン刊行資料は収録対象としていない。オンライン資料については、2014年から別途「全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)」を提供しており、国立国会図書館が収集した国内のオンライン資料(電子書籍・電子雑誌)の書誌データ(21)を収録対象としている。
現在は二つの方法で提供しており、一つ目は「全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)データ検索」である。「全国書誌データ検索」と同じNDLサーチのサブ検索画面だが、書誌データ登録日等の独自の検索項目も設定しており、書誌データをダウンロードすることもできる。二つ目は「全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)ファイル一覧」であり、新規公開データのリスト(TSV形式)を週次でウェブページに掲載している(22)。
4. おわりに
全国書誌は各時代の状況に合わせて、多くの人が利用しやすいよう、提供形態を変化させながら提供してきた。「全国書誌データ検索」が公開された現在、提供状況はこれまでになく充実しているが、例えば前述の「書誌計画2025」の取組事項の中には、「リンクトデータの機能を実現できる新たな書誌フレームワークとして海外で普及しつつあるBIBFRAMEを基礎とした書誌データの提供に向けて検討を行う。」(23)(BIBFRAMEについてはE1386参照)という点がある等、まだまだ課題も残る。全国書誌データの提供は、今後も情報環境の変化に対応して進化していくであろう。
(1)日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編. 図書館情報学用語辞典. 第5版, 丸善出版, 2020, p. 133.
(2)全国書誌データ検索.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/bib, (参照 2024-09-27).
(3)例えば以下のような記事がある。
上保佳穂. 日本全国書誌のあゆみ. 全国書誌通信. 2004, 118, p. 3-11.
https://doi.org/10.11501/8723857, (参照 2024-09-27).
横山幸雄. 全国書誌の70年:「もの」から「サービス」へ. 国立国会図書館月報. 2018, 691, p. 14-20.
https://doi.org/10.11501/11174776, (参照 2024-09-27).
(4)“全国書誌のあゆみ”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/jnb/history.html, (参照 2024-09-27).
(5)JAPAN/MARCは磁気テープで頒布を開始し、1988年からはCD-ROM版であるJ-BISCの頒布も開始した。
国立国会図書館七十年記念館史編さん委員会編集. デジタル時代の国立国会図書館 : 1998-2018 : 国立国会図書館七十年記念館史. 国立国会図書館, 2021, p. 36-37.
(6)印刷カードの作成・頒布事業は1998年3月に終了した。
国立国会図書館七十年記念館史編さん委員会編集. 前掲. p. 36.
(7)NDL-OPACで提供する書誌データのうち、新着書誌情報(後述)と全国書誌データを対象として、任意の期間を指定してデータの集合を作成する機能、及び書誌データのダウンロード機能を備えていた。なお、開始当初から2012年12月までの名称は「書誌情報提供サービス」であった。また、2018年1月にNDL-OPACが国立国会図書館オンラインにリニューアルした際、NDL-OPACの機能のうち「全国書誌提供サービス」を含む書誌データ提供サービスは新設の「国立国会図書館書誌提供サービス(NDL-Bib)」に継承された。
(8)現在の全国書誌データは、国立国会図書館が納本制度に基づき収集した国内出版物と、寄贈、購入等の方法により収集した国内出版物及び外国で刊行された日本語出版物を収録対象としている。
“全国書誌データ”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/jnb/index.html, (参照 2024-09-27).
(9)地図資料、アジア言語資料を除く。
(10)上保. 前掲. p. 3では、カレント版全国書誌が備えるべき基本的性格として(1)網羅性、(2)速報性、(3)信頼性、(4)詳細性を挙げている。
(11)同様の機能を「全国書誌提供サービス」で提供していた。
(12)“ISBN一括検索の方法(全国書誌データ検索、蔵書目録データ検索)”. 全国書誌データ検索.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/bib/help/isbn, (参照 2024-09-27).
(13)国立国会図書館書誌データ作成・提供計画 2021-2025. 国立国会図書館, 2021, 5p.
https://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bibplan2025.pdf, (参照 2024-09-27).
(14)“APIのご利用について”. NDLサーチ.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/help/api, (参照 2024-09-27).
(15)“API提供対象データプロバイダ一覧”. NDLサーチ.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/help/api/provider, (参照 2024-09-27).
(16)“API仕様の概要”. NDLサーチ.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/help/api/specifications, (参照 2024-09-27).
(17)国立国会図書館の書誌データに対応する図書館業務システムの一覧をウェブページに掲載している。
“国立国会図書館書誌データ対応システム一覧”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/jnb/system_list.html, (参照 2024-09-27).
(18)JAPAN/MARCには、(M/S)のほかに、全国書誌データに記録する著者名(個人名、団体名)、著作、固有名件名(個人名、家族名、団体名、地名、統一タイトル件名)の典拠データを収録する(A)もある。
(19)“JAPAN/MARCマニュアル・フォーマット”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/catstandards/jm/index.html, (参照 2024-09-27).
(20)2019年4月から国立国会図書館が作成した書誌データ・典拠データ・雑誌記事索引データと、外部機関との契約の範囲で提供できる書誌データは、営利・非営利の目的を問わず、誰でも無償で利用することが可能となった。それに伴い、頒布開始以来、事業者により有償で頒布されていたJAPAN/MARCは、国立国会図書館ウェブページ上での無償提供を開始した。
“JAPAN/MARCデータ(毎週更新)”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/jnb_product.html, (参照 2024-09-27).
“書誌データの利用方法”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/quickguide/index.html, (参照 2024-09-27).
(21)「国立国会図書館デジタルコレクション」に収録する電子書籍・電子雑誌の書誌データと同等である。
国立国会図書館デジタルコレクション.
https://dl.ndl.go.jp/, (参照 2024-09-27).
(22)“全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/jnb/ebej_tsv.html, (参照 2024-09-27).
(23)国立国会図書館書誌データ作成・提供計画 2021-2025. 国立国会図書館, 2021, 5p.
https://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bibplan2025.pdf, (参照 2024-09-27).
[受理:2024-10-24]
田中亮之介. 「全国書誌」から「全国書誌データ」へ:全国書誌提供サービスの「これまで」と「いま」. カレントアウェアネス. 2024, (362), CA2074, p. 7-9.
https://current.ndl.go.jp/ca2074
DOI:
https://doi.org/10.11501/13942639
Tanaka Ryonosuke
The transition from “The Japanese National Bibliography” to “The Japanese National Bibliographic Data” : The past and the present of The Japanese National Bibliography Service